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遙か未来

 魔物の姿を肉眼で捉えた瞬間、その姿と能力を看破する。見た目は漆黒の狼。それが真っ直ぐ、俺に向かって突撃してくる。

 俺は相手の動きに合わせて、剣を抜いた。刹那、首筋へ食らいつこうとする魔物に対し、体を傾けつつ剣を縦に振った。


 それは魔物の頭部を狙った一撃。結果、寸分違わず狙い通りに剣が入ると、魔物の動きは力をなくし、俺を通り過ぎて地面に激突。消滅した。

 次いで、二体目と三体目が迫る。魔物の合計は先ほどの個体を入れて五。残る二体はまだ後方にいて、こちらへ突っ走ってくる様子であり……まずは目先の二体を片付けるべく、俺は足を前に出した。


 魔物が迫る。一体は俺の右側で地面を這うように、二体目は俺の左側からさっきの個体と同じように首筋に狙いを定め跳躍。仕掛けるタイミングは完全な同時。二体同時に相手取る必要があったが――ヒュン、と風切り音が周囲に響いた。

 その結果、魔物二体の頭部に刃が入った……俺は斜めに一閃しただけ、一直線に頭部を斬れるタイミングを見計らって、剣を放ちそれは成功。魔物は消滅する。


 そして残る二体は……森から出現すると同時に跳躍。そこで俺は一転して踏み込んだ。

 魔物の目には、獲物が真っ直ぐ進んでくるように見えたかもしれないが……俺は姿勢を低くして、二体の突進をすり抜けるように動き、すれ違いざまに一閃……二体同時に、体を両断した。


 そして体が地面に激突して消滅……と、短い戦いは終わった。


「ふむ……」


 俺は自分の体を確かめる。未来へ飛ばす魔法を受け、何かしら体に影響がないか確認してみたが……問題ない。さらに言えば、大気に存在する魔力についても俺がいた時代と同様で、これまで通り戦える。

 うん、戦う分には問題ないな……と結論を出した後、勇者達へ振り向く。


「行こうか」

「はい……あの、すごいですね」


 ……なんだか興味津々な様子だけど。


「いやまあ、大したことはしてないから……それじゃあ、戻ろう」


 手を振りつつ俺は勇者へ告げると、一斉に歩き出す。そこで俺は、いよいよ核心的な話題に触れることにする。


「一つ、質問してもいいか?」

「はい、どうぞ」

「君らは、オルバシア帝国についてどのくらい知っている?」


 世間話のつもりで尋ねる。雰囲気としては、調査依頼を受けて俺自身興味を持ったから……といった感じで。それは勇者達にも伝わった様子だ。


「大したことは知らないんですよね」


 と、勇者は頭をかきながら応じた。


「千年前、世界を統一した人間の国……圧倒的な繁栄と、悲劇的な崩壊をした国……正直、歴史の一ページとしての認識しかありませんね――」






 千年、という言葉を聞いて俺は少なからず動揺した。研究所の荒れ具合からして、十年単位ですらないとは思っていた。

 同時に思うことが一つ。悲劇的な崩壊? 俺が帝国を離れた後、何か起きたのか? あるいは、アゼルが崩御した後、何かが起きたのか?


 疑問はあったし、尋ねたい感情が膨れ上がったけど……ここは堪えて俺は「なるほど」と答えた。


「そっか。まあ俺も同程度の知識しかないんだけどな。遺跡で資料を見つけても、俺の頭じゃ何書いているかわからないし」


 勇者が笑う。ひとまず怪しまれることなく……ここで俺は追加で頼み事をした。一つは路銀が尽きかけているため、魔物討伐の報酬の一部をくれないかと。

 少々図々しいかなと思ったが、むしろ勇者達はそれに嬉々として応じた。何日も掛けて遺跡へ潜ったにしろ、最大の脅威を倒せなかった以上、報酬を受け取る権利は俺にある……と。ただ全額受け取ってくれと言われてはいと答える図々しさもなく……結局、他の頼み事と合わせて一部を受け取るという形にした。


 ついでに、仕事の斡旋をしてくれる組織について、登録できるかどうかの申し出も行った。勇者はそれなりに名が売れているらしいので、彼の紹介ならば仕事もできるだろうという判断である。

 俺の言動に対して怪しい点はいくらかあっただろうけど、勇者一行は快く引き受けてくれた……助けてくれた恩義、といったところだろうか。俺としては助かるし、彼らに改めて礼を告げた。


 やがて町へと到達し……俺は建物などを見ていくらか確認を行う。まず文字だが、これは読める。勇者達の喋っている言葉がちゃんとわかるように、読み書きも問題なさそうだ……もしかすると、オルバシア帝国の遺産かもしれない。

 というのも、オルバシア帝国は人間の領域を統一した当初から、言語を始め様々なものを統一した。それが今でも残っていて、言葉や文字についても千年経ってなお残っている……そこについては、なんとなく嬉しくなった。


 そして建物の外観について。千年経過すればそれだけ魔法技術を始め色々なものが進化していてもおかしくないが、俺の目から見てさほど変化はない。建材などが特殊なのかもと一瞬考えたが、少なくとも魔力については平凡そのもの。進化した、と断言するのは難しい。

 これは帝国の崩壊が原因なのだろうか? 早々に調べる必要があると決心。まあ帝国の情報は書物などでも確認できるだろうから、今回の報酬でその辺りから調べるとしよう。


 俺は勇者の案内に従って、冒険者ギルドを訪れる。こうした施設は俺の時代にもあった。システムもどうやら似通っているようで、勇者が受付まで行って報告をすると、クエスト報酬が手渡された。


「はい、どうぞ」


 そして一部を俺へと提示する。こちらは「どうも」と応じつつ、一つ質問する。


「魔物を倒したという確認をしたんだよな?」

「はい。ジークさんが倒した時に魔力を採取しましたよ」


 なるほど、魔法を使って倒したかどうかを判別しているのか。内心で納得していると勇者は俺へ向け、


「ジークさんはこれからどうするんですか?」

「依頼された調査についてはまだ全部終わっていない。だから大陸を渡り歩いて調べる必要があるけど……ま、あと二つか三つくらい調べてみて、一度依頼主のところへ戻るかな」


 勇者は俺を見据える。もし良ければ一緒に仕事を……という雰囲気が見え隠れするが、


「そうですか……この地で仕事をするなら、また一緒に戦うことがあるかもしれませんね」

「かもしれないな」


 ――それで、俺達は別れた。どうやら勇者達はこの町を離れて別所へ向かうらしい。


 彼らが視界からいなくなった直後、俺は一度息をついた……まさか千年後の世界とは。一人になったことで改めて衝撃を受けたが――何をすべきか思案する。


「千年前に戻れるかどうか。そしてこの千年の間に何が起きたのか……それを調べるか」


 帝国がなぜ崩壊したのか。それを紐解けば、千年前に戻った際に役立つかもしれない。場合によっては、崩壊を止めることも――


「まずは旅の準備と情報収集だな」


 魔法使いの所に荷物一式は置いてきてしまったので、手持ちにある資金で装備を整えなければならない。武器や防具については問題ないので、荷物を入れるザックとか、消耗品の補充とかだな。

 俺はもらった報酬額と、周囲の店を見て物価の確認をする。とりあえず少しの間は町に滞在しても問題はなさそうだ。


「ま、焦っても仕方がない。ゆっくりやるか」


 空を見上げる。時間は夕刻に差し掛かろうとしており、今日のところは休むことにしよう……そう思い、俺は宿を探し始めた。


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