二度目の旅
――新たな気持ちで始めた旅は、それこそ世界の見方さえも変わり、それでいて穏やかな日常が待っていた。
やっていることは正直、一度目の俺と何も変わらない……自分の剣について探求し続け、その合間に帝国の秩序を維持するために動く。といっても、危険なことというのは道ばたに転がっているわけではないし、やることとしてはもっぱら情報収集だけである。
旅をする間に、危険な芽になるかもしれないという懸念はいくつもあった。けれどその全ては俺が干渉することで解決した……そういった報告を俺は手紙でアゼルへ行い、旅を続けた。
時折、ティナからも連絡があり魔法の研究などに関する進捗を聞く。終焉の魔王――そうした力に頼らない技術向上をテーマに、充実した日々を送っているらしかった。今回は付与された力を暴走させるようなこともなく……俺の方も、もし彼女に何かあればすぐにでも飛んでいくつもりだった。
俺は終焉の魔王を単独で倒せるだけの力を持っている。それがあれば、彼女の暴走も容易く止めることができるだろう。
そうして俺は旅を続け、幾度となく朝を迎え夜が来る……アゼルへ送った手紙の数も相当多くなった。帝国内で色々と騒動は生まれるが、その全てをアゼルは見事な手腕で解決し、俺は旅をしながらそれに助力し……気付けば、何年という歳月が流れた。
その間、多くの人は世界統一の平和を享受し、俺もまた時折旅の中で様々なものに触れて楽しんだ……やがて、帝国の技術開発によって人々の暮らしが便利になっていくのがわかった。帝都に存在するインフラが、世界が統一化されたことによって人々の手に渡っていく……俺のふと、ここで生まれ故郷のことを思い出して一度立ち寄ることにした。
旅を続け、時に人を助け騒動を解決しながら……故郷の土を踏んだ時、俺は歓待を受けた。そういえば前回、千年後の未来へ飛ばされる前は故郷を訪れたことはなかった。あの時は自分のことで頭が一杯で、過去を顧みることすらなかった……もしかすると、視野が狭くなっていたのかもしれない。
俺はそんな風に思いつつ、思い出を作りながら旅を進めていく。時折使い魔によって帝都から情報がやってきて、ティナやアゼルの近況を知る。
とりあえず、アゼルが手を貸してくれと言うような事態にはなっておらず、内乱に関する話もアゼルの手で解決できているらしい……俺は千年後の未来を思う。終焉の魔王に関する力は消えた。よって、俺が訪れた千年後はおそらく存在しない。
それじゃあ千年後は……と考えたところで、どれだけ想像しても無意味だと俺は悟った。というのも、俺を千年後に飛ばした魔術師……彼の所を訪れたのだが、既に亡くなっているとのことだった。
もしかすると異世界から何者かを呼ぶという術式、あれは終焉の魔王にまつわる何かを参考にしたのかもしれない。けれど魔王がいなくなったため研究は続かず……ということだ。
よって俺はもう千年後へ行くことはできない。まあ、そもそも行く気もないのだが。
「……これで、良かったんだよな」
改めて思い返し、俺は呟く――もちろん、見方は様々だ。帝国の繁栄のためには俺の選択肢は間違っていないけれど、帝国が滅んだ先で繁栄したものだって数多くあったはず。それを踏まえると……いや、もうこういう議論をすることすら無意味か。
ならば俺のやることは、世界を平和にするために活動することだけ……とはいえ、帝国が繁栄すればおそらく役目もなくなるし、剣を置く日が来る。
――俺は、アゼルに手紙を書いた。この旅の果てをどうするのか。いつか剣を置いて休む日が来ることを信じ……そんな意味合いの手紙を書いて送ったら、アゼルもまた「そうなるよう尽力する」と表明した。
「ただ、余としては気になることがある」
しかし同時にアゼルは寄越して手紙の上でそう語った。
「旅を続けること……それはつまり、ジークが一人で居続けることを意味しないか?」
別にそこまで心配してもらわなくてもいいんだけど……文面を見て苦笑した後、俺は別に返信を書いて送った。
「……さて」
色々と考えたが、俺のやることは変わらない。どこまでも澄み渡る青空を見据えつつ、再び街道を歩く。
当面、俺が剣を置く日は来ないだろう。けれど、いつかその時まで……まさか自分がそういう気持ちになるなんて、と内心で驚きつつも俺は決心を胸に抱きながら、どこまでも旅を続けたのだった。