悪しき力
正直、アゼルが終焉の魔王を生み出した……いや、アゼルの指示によって帝国がその力を生み出したことに多少なりとも胸が痛くなったのだが……今の時間軸ではまだその力が滅びをもたらしているわけではない。アゼルもわかってくれたし、これで事態は解決……と、言いたいところではあるのだが、
「絶対一悶着あるよな」
翌日、食堂で朝食をとっているとティナがやってきて向かいの席に座った。彼女もまた朝食を口に運びつつ、会話をし始めたのだが……俺の言葉に対しティナは頷いた。
「うん、皇帝権限によって研究開発は中止……という段階になったら、絶対に反発する研究者が出てくると思う」
「ティナに無理矢理力を付与して実験したくらいだからな……しかも今回は終焉の魔王という明確な実績もない。下手すると暴走する可能性もゼロじゃないな」
さて、俺達はどう動くべきなのか……場合によっては帝都の内側から終焉の魔王と同等の力を持つ何かが出現してもおかしくない。
「ティナ、索敵とかはしてみたか?」
「うん……ただ、研究開発の途上にあるものはさすがに終焉の魔王に関する力は感じ取れなかったけど……」
「別の何かがあるとか?」
「そうだね。私が感じたのは、言い知れぬ何か……終焉の魔王が持っていた力もジークに敗れたという事実を考慮し、新たな力の開発に着手した可能性がある」
これでは、結局結末は変わらないことになる。例えアゼルが研究を止めるという表明をしても、研究開発をしていた人員の中には密かに実験を繰り返す人間だって出てくるだろう。俺を未来へ飛ばした人物……彼のように、隠遁し研究をする人間というのは、確実に存在するのだから。
「もう、強大な力そのものは生み出されてしまった」
俺はそうティナへ述べつつ、食事を進める。
「それを全て破壊するだけでは終わらない……けれど、だからといって研究者達をどうこうするというのも……」
「現時点では皇帝の指示で色々やっていただけだし、終焉の魔王に力を付与したことはきっとアゼルの独断だから……」
「証拠は魔王の記憶を覗いた俺の証言だから、もし昨日の会話でアゼルが知らぬ存ぜぬを通していたら何もできなかったんだよな……」
アゼルを説得したら全てが終わり、というわけでは絶対にない。よって、俺達も身の振り方を考えなければならない。
「ティナ、現状俺達でやれることはあるか?」
「まずは研究内容を詳しく知る……実は朝の時点で研究内容を確認したいと私は申し出た。アゼルのお墨付きもあるからあっさりと許可は出たよ」
「なら見て回って今後、脅威になりそうな力を調べる……か? でも、根本的に研究をやめさせないと解決しないよな」
どこからか悪しき力が存在していて、それを破壊すれば終わりとかだったらどんなに良かったか……まあ、大変だけどやるしかない。
「でもさ、ジーク」
ティナは俺と視線を交わしながら、言及する。
「千年後の未来……帝国は既に崩壊して、終焉の魔王が復活しようとしていた……私達がその時に立ち会えて事件を解決できたのはいい。でも、千年前に戻ってきた私達が千年後のことまで考えるのは……」
「わかってるさ。正直、オルバシア帝国が存続できるかどうかは、どれだけ行動しても保証はない。それこそ、予想だにしない試練が待っているはずだ。そこはなるようにしかならない」
「それじゃあ……」
「ただ、自らが生み出した終焉の魔王という存在……それに類する力を除去しておくのは、千年後の未来にとっても有益ではあるだろ?」
むしろ、生み出してしまった帝国が責任を持って対処しなければならない話だと俺は思う。
「うん、そうだね……帝国はどうなるかわからないけど――」
ここでティナは笑った。何事かと俺が眉をひそめると、
「世界を統一して全世界の人々が沸き立っているのに、もう帝国が終わりを迎える時の話をしているなんて……私達くらいじゃないかな?」
「違いないな。ま、俺達は例外的な存在ということでいいだろ」
そうして会話をして食事を終えると、早速行動を開始しようとするのだが――
「ジーク様、ティナ様」
侍女の一人……皇帝の世話役の人が話し掛けてきた。
「陛下がお呼びです」
「俺達に?」
昨日の今日ではあるのだが……何をするつもりなのか。俺とティナは再び皇帝の自室を訪れる。
「一晩考え、どうするか決めた」
いの一番に、アゼルは俺達へ告げた。
「余の指示によって生み出されたものである以上、解決しなければ後世に申し訳が立たない」
「俺も同じ見解だが……どうするつもりだ?」
「少々強引なやり方ではあるが、方法はある」
強引――その言葉で俺は何をするのかおおよそ理解した。つまり、
「研究の失敗……それを演出し、研究そのものを停止させる」
「中には研究を続ける者も出るんじゃないか?」
「そこは上手く対策はしよう」
……確かに強引ではあるけれど、それしかなさそうだ。俺は頷き、アゼルの言葉に同意した。