解けない難題
凱旋は、それこそ前回と同じように派手なものとなった。俺を称える声もそうだし、ティナを呼ぶ声も響いている。犠牲も無く、最後の魔王を倒した――それによって、偉業に箔がついた形だった。
やがて城へ辿り着くと、まず謁見をした。俺としてはおよそ一年――ティナにしてみれば千年ぶりに見るアゼル皇帝の姿だ。
「圧倒的な力により勝利したと聞く。二人とも、見事だった」
家臣達も誇らしげな様子。そうした中で、アゼルは語る。
「――今後の帝国についてだが、恭順した者達の中でもやり方が気に食わないと反旗を翻す存在が出てくるだろう」
その指摘に前回は驚いた。けれど今の俺は淡々と頷く。
「だが、そこにジークの力はなくてもいい」
そしてアゼルは俺へと告げた。
「個の力ではなく、帝国の力で秩序を維持する……最大の脅威である終焉の魔王は潰えた。もう個の力……絶対的な存在は必要なくなる。だからジーク、自由にしていい」
その言葉に俺は無言。アゼルは戸惑っているのだろうと微笑を浮かべ、
「要望は思うがままだ。この国で一生遊んで暮らしたいのならば、望みを叶えよう。自由になりたいのなら、余は快く送りだそう。もし成し遂げたいことがあれば、帝国の威信を賭けてそれを果たすべく助けよう」
それこそ、最後まで戦い続けた俺に対する報酬……ただ、皇帝の目は俺が何を選ぶのかわかっている様子。
前回の俺は、ここで自由を選んだ――そして今の俺は、
「……ようやく戦いが終わったというのが凱旋してわかった。でも、実感がまだない」
「死闘に次ぐ死闘だったからな。無理もない」
「少しの間……体を休めようと思う。結論は……帝都のお祭り騒ぎが終わったくらいに考えればいいかなと思ってる」
「そうか……ジーク、どのような選択をしても余はその全てを受け入れる。それを胸に過ごして欲しい」
笑みを浮かべるアゼルに対し、俺は小さく頷いたのだった。
そして――城内にある自室へと戻ってくる。懐かしい、自分の家。戦いばかりだった俺にとって、唯一のプライベートな空間がここだ。
「……ジーク?」
コンコンとノックの音と共にティナの声が聞こえた。返事をすると、中に彼女が入ってくる。
「早速だけど、どうするの?」
――俺は帝都へ帰ってくるまでの移動中に、ティナに魔王との戦いで見たことを伝えてある。
時刻はまだ昼。自室に戻っているが、前回は凱旋直後からひっきりなしに人が来ていた。まあそれは俺が旅をすると明言したからではあるのだが……今回は休むという返答だった。さすがに前回ほど人が来る可能性は低いだろうけど、
「とりあえず、ここを訪ねてくる人に応対しようと思う。ある程度落ち着いたら、動くことにしよう」
「わかった」
「それまではティナも平常通りに」
「うん、そこは大丈夫」
「……さすがに首謀者も、俺達をどうこうすなんて選択はとらないはずだ。そもそも、魔王との戦いで真実を得た、なんて誰にも予想できない」
前回の戦いでは実際、真実に辿り着くことはなかったのだ……圧倒的な勝利を収めたとはいえ、終焉の魔王へ力を与えた存在としては「力を上手く扱えなかった」とかいう解釈だろう。
「だから、ゆっくりやろう……まずは体を休め万全な状態にする」
「わかった」
「動く時は俺が判断する」
ティナは頷いて部屋を出ていく。そして一人残された俺は、
「……戦いはまだ終わっていない、か」
呟くと共に、この戦いの先がどうなるのか……見当もつかない自分がいた。
そこからは部屋に来る人の応対に追われた。これについては予想していたし、前回と比べれば大したことなかったので別段問題はなかった。
ティナの方については帝都に留まることを表明しているため、来客はほとんどないらしい。俺が動き出す前にティナが真実に関して調べるという選択肢もあったが……俺はそれを禁じた。下手に動くとまずいという判断だ。よってティナは、友人達とお茶会などを開いて過ごしている。戦友達と一緒にいる方が安心だし、問題はないだろう。
その間も帝都では世界を統一したことでお祭り騒ぎとなっており……いや、実際に祝日に制定されたらしい。戦友の中には祭りに繰り出す人もいたみたいだが、俺やティナが行けば大騒ぎになるのでやめておいた。人々は残念がっていたようだけれど、ここは仕方がない。
よって俺はアゼルへ表明した通り、部屋の中でゆっくりと過ごした……それと共に、俺は真実について自分なりに考察した。なぜ、終焉の魔王という存在が生まれたのか。そしてあの力は何なのか。
様々な疑問を抱きつつ、自分なりに考えては首を振る、の繰り返しだった。結局、終焉の魔王に力を与えた存在……それに尋ねなければ、解けない難題だった。
だから俺は、凱旋から十五日後にティナへ伝えた。
「今日の夜、行動に移す」
俺の周辺も落ち着き、ティナも問題ないとばかりに同意し……俺達はその夜、城内の廊下を歩み、とある部屋へと入った。




