今度こそ
まず、先頭にいた騎士が立ち止まり一定の距離を置いて魔王軍と対峙した。終焉の魔王はまだ動かず、魔物や魔族もまた、こちらの様子を見ているだけ。
「――我らはオルバシア帝国の軍だ!」
その時、騎士が高らかに宣言した。
「この大地に根を張る魔王をお見受けする! 再三の勧告を受け入れず戦闘態勢に入っている……答えはそれで良いか!」
『ああ、構わない』
重々しい声が、空気を震わせた。魔法によって声を拡張しているわけだが、それを差し引いても全身を打つような音だった。
『貴様らはここへ、ただ戦って勝つために来たのだろう。自分達は幾度となく魔王を凌駕してきた。今回もまた同じ……そう考えていることだろう』
――実際、前回の俺はそうだった。目前の魔王はこれまでと同じような存在であり、今回も全力で相対し勝つという気概だけがあった。
決して油断していたわけではない。そもそも魔王という存在は人間にとってはどこまでも脅威だ。圧倒的な魔力と身体能力。これを打開するには様々な技術しかなく、俺はだからこそ剣の腕を磨き続けた。
結果、連戦連勝でいよいよ目の前にいる終焉の魔王が最後となった……騎士や戦友が戦闘態勢に入った。ここまでは、前回の流れと同じだ。
「……勝負は、一瞬だ」
俺は心の中で呟いた。そう、一瞬――全てを終わらせるためには、文字通り全てを消し飛ばす一撃がいる。
もし一撃目で仕留められなかったら、失敗だと思わなければならない。騎士達が一歩足を前に出すと、魔物達も対抗するように一方動く。
この後の展開はわかっている。魔王が次に何かを言い出す前に騎士が号令を掛けて攻め始める。そして激突し……魔物や魔族の強さによって、軍勢同士がかみ合って拮抗する。
俺はそうした中でティナと共に魔王へ向かっていく……そして、
「攻撃開始!」
騎士が叫んだ直後、俺達は一斉に走り出す。魔物達も呼応するように動き出し……そうした中で俺もまた、駆けた。
まだここまでは前回と同じ……俺はその時のことを思い返す。仲間達が魔物と戦い始める中で、俺は魔王へと突き進み、全力の剣を放った。魔王はそれを真正面から受けて、俺は弾かれる。
そしてすぐさま切り返し、激戦が始まる……俺はそうした前回の戦いを思い返す。この戦場に辿り着くまでにシミュレーションはしてきた。俺が同じ動きをすれば魔王もまた同じように動くはず。であれば、それを利用し隙を突いて剣を差し込む。
ただし、その剣は俺の全力――それこそ終焉の魔王を一撃で滅するほどの威力でなければならない。こちらの能力を完璧に悟られてしまったら魔王がどういう動きをするのかわからない。そうなれば膠着状態に陥り、前回と同じ流れになるだろう。
いや、魔王としては俺のことを怪しむ可能性が高い。さすがに未来の情報を持っているなどという推測をすることはないと思うのだが……確実に言えるのは、多くの仲間達が倒れた前回の悲劇が繰り返される。
ならばそれを回避すべく――直後、とうとう敵が激突した。
刹那、人間側が衝撃をものともせず魔物や魔族を吹き飛ばした。その結果は見ていて気持ちが良いくらいのものであり、魔物達が目に見えて怯んだ。
そうした中で俺は走る。狙うは終焉の魔王のみ。戦友達が道を作り出し、俺はティナを伴い魔王へと接近していく。
それに呼応するように魔王も動き始める。こちらの行動を無謀と考えたか、それとも何かしら策があると考えたか……これもまた、前回と同じ流れ。俺とティナは一気に魔王へ肉薄し、一撃で倒すべく剣を一閃する。
前回はその結果、魔王に剣を真正面から受けきられた……そして相手の実力を知り、俺は魔王と果て無き交戦を開始したのだ。
けれど今回は違う。俺の頭の中には修練の果てに得た――前回、終焉の魔王との戦いで得られた技術が記憶として眠っている。それを基に、今度こそ一撃で倒す。
迫り来る魔物達を俺とティナは一蹴し、さらに魔王へと走る。その時、とうとう魔王が声を発した。
『多少はやる手合いのようだな。だが、どれほど力を得ようとも所詮は人間だ。こちらの一撃で全てが終わる』
――そのセリフもまた、前回で聞いたものだ。さすがに接近することで俺達の動きに多少ながら違いが見られるはずだが、それでも終焉の魔王が発する声は前回と同じもの……まだ、前の戦いと同じ流れだ。
このままギリギリまで前回と同じ流れでいてもらった方がいい……よって、俺は静かに魔力を高める。周囲の魔物達を切りながら少しずつ確実に、魔王に通用する一撃を決めるべく力を集める……終焉の魔王が戦闘態勢に入る。得物は俺と同じ剣。あの剣で、死闘を繰り広げられた。
そしてあの剣自体は魔力が付与されているため、魔王自らが作り上げた剣で間違いない。ならば――作戦を瞬時に決める。そしてとうとう、俺とティナは魔王へ肉薄した。




