やりたいこと
決戦前日、過去に終焉の魔王へ向かっていたのと同じ行程を辿って俺達は野営をした。全てが順調であり、現時点では過去の戦いと比べ寸分の狂いもない。俺は前回と同じ場所にテントを設置し、その中で休むことに。
前回はこれで最後だと考えながら就寝したのだが……今の俺は色々考えることが多くて、寝付けなかった。
「……散歩でもするか」
そう呟いて俺はテントの外へと出た。見張りが多数いる中で、俺は野営地を歩き始める。
敵の姿はまったくない……これは前回も同じだった。そもそも終焉の魔王は居城手前まで辿り着くまで攻撃はしてこなかった。
「……ジーク」
ふと、ティナの声がした。振り向けば俺の姿を見て近づいてくる彼女の姿が。
「眠れない?」
「そういうティナも同じみたいだな」
「うん。前とは心持ちが違うからね」
「終焉の魔王……その力の恐ろしさを理解しているからな」
ふう、と俺は息をこぼす。そんな様子を見たティナは微笑を浮かべ、
「仕方がないよ。前回はそれこそいつもと同じような戦いだと思っていた。でも、決定的に違っていた」
「そうだな。まさしく死闘……想像だにしなかった戦いだった」
俺は返答しつつ、小さく肩をすくめる。
「寝れない理由はそれだけじゃない」
「どうしたの?」
「もし俺達の鍛錬が実を結んで魔王を倒したとして……アゼルに全てを伝えるべきだろうか、と」
「帝国が、ってことか……ジークはどうしたいの?」
「俺? それはまあ、全世界統一を果たしたオルバシア帝国が、いつまでも繁栄して欲しいと願うけど」
「なら、ジークはそれを成すために動いたらいいんじゃない?」
そんな提案がティナから発せられた。
「もう過去へ戻ってきてしまった以上、私達が辿り着いた千年後の未来には辿り着かない……私はそう思っている。なら、やりたいことをやった方がいいでしょ」
「ずいぶんと割り切っているな」
「過去へ戻って今更悩んでも仕方がないって話だよ」
「……ティナの言っていることが正解か」
俺は彼女へ向け小さく頷き、
「なら悩むのはやめる……まずはこの戦いに勝つこと。それも、仲間を救うためには圧勝が必要不可欠だ」
「今の私達ならできるよ」
「そうだな……そうであってほしいな」
俺は前回相まみえた終焉の魔王……その戦いについて改めて思い返す。戦い続けたことにより、癖などもわかっている。それを利用すれば、魔王に対し確実に一撃を決めることができるはずだ。
そして、戦いの流れについても……どうすればいいのか考えながら俺は、
「ティナはティナで、魔王へ攻撃を仕掛けるだろ?」
「ジークの援護は私の役目だからね」
「なら、前回の戦いについては憶えているはずだ」
「うん、魔王がどういう流れで戦うかもわかってる」
「ひとまずはそれをなぞる形で交戦する……そして」
「ジークの言いたいことはわかってる。それで良いと思うよ」
――それ以上の問答は必要なかった。ティナも行軍中に考えていたのだ。
「わかった……なら、頼むぞ」
俺の言葉にティナは頷く。それでようやく俺は眠ろうと決めた。
テントへ戻り、横になる。同時に眠気がやってきて、俺は意識を手放した。
――翌日、全てが決まる朝。俺は前回と同じ流れで支度をこなし、戦友達と共に出発する。
不思議と、前回のことは隅から隅まで記憶していた。最後の戦いだったからというのもあるが、やはり終焉の魔王という存在……その強大さが頭の中に刻み込まれているのだろう。
仲間達も昨日と比べさらに口数が少なく、俺達は淡々と目的地へ向かって進んでいく。やがて斥候の一人が居城を見つけたと報告。さらにその手前に魔王がいることも。
「いよいよだな」
指揮官である騎士が声を上げた。彼は俺へ視線を向け、こちらは小さく頷き返す。
「これで終わらせる……世界を、統一するために!」
声を発すると全員が一斉に声を上げた。それで士気は高まり、足も自然と速くなる。
そうして俺達は山岳地帯を抜け、平原へと辿り着いた……そこは山中に存在する盆地のような場所。ただ左右を見ても結構距離があるくらいには広く、軍勢を用意できる規模であった。
そうした平原に、魔王は配下を伴い立っていた。俺達をあえて待っていた魔王……ここまで攻撃してこなかったのは、確か俺達には無駄であり、最高の戦力をぶつけてみたい、という願望だったと前回の魔王は戦いの中で語っていた。
歴史に刻む戦いをしよう――そんな宣言を魔王はした。最初俺達は何を言っているのかと戸惑うくらいだったのだが、すぐさまこの戦いが文字通り歴史を変えうる戦いだと自覚した。
この場におけるオルバシア帝国の軍勢は、人数規模こそそう大きくはないにしろ、精鋭中の精鋭が集っていた。俺達が負ければ終焉の魔王を止める手立てはない……オルバシア帝国の歴史が終わるどころか、魔族以外の全種族の存亡すら終わるかもしれない。
だが俺は二度目であり、今回は犠牲も無く勝つ……そう改めて決意し、それを胸に秘めながら魔王へと近づいた。




