二度目
翌日、魔王を討伐する軍勢は行軍を再開した。既に魔王が待っているであろう場所に近く、残り一日といった程度だ。
俺は自分が以前に果たした戦いについて思いを馳せる。この行軍の先にあるのは、居城の手前で魔物や配下と共に待っている終焉の魔王。作り上げた城を壊されては面倒だと、城の前に存在する小さな平野が戦場となった。
多数の魔法が入り乱れ、俺はその中で終焉の魔王と真正面からぶつかる……ティナの援護など、様々な助力があって俺は剣を振るい続けた。それはまさしく死闘……果てしなく長い戦いを経て、俺は魔王打倒を果たした。
実際のところ、魔王は生き延びて再起を図った結果、帝国が崩壊したわけだが……二度目の戦いで確実に滅ぼさなければならないな。
戦場へ近づくにつれて、味方の表情が硬いものへ変化していくのがわかる……戦いの気配が近づくにつれ雰囲気が硬質なものへと変化していくわけだが、正直この状況は普段通りだった。
俺は帝都を離れ、ひたすら戦いに明け暮れた。戦闘に入る前の雰囲気はどういう状況でもさほど変わらなかった。それは経験を積んでいるためで、この場における物は全員が歴戦の戦士だった。
そして終焉の魔王については、最後まで帝国に反抗した魔王ということではあったが、正直そこまで警戒していたわけではなかった。事前に魔力の多寡は観測していたし、現状の戦力で十分勝てると結論を出して、俺達は赴いた。
けれど結果は……終焉の魔王は帝国の予想を裏切った。真正面から相対した俺は、交戦してすぐに悟った。目の前にいるこの魔王を放置すれば、世界が滅ぶのではないかと。
それほどまでに魔王の力は圧倒的だった。それまでひた隠しにできていた力を存分に発揮し、俺達の攻勢を押し込んだ。配下である魔族や魔物でさえも強敵であり、仲間達も苦戦を強いられ、犠牲者が多数出た。
まさしく死闘であり、もし俺が負けたらこの場にいる戦友達は全滅する……そう確信する戦いだった。どれだけ苦戦したとしても、全滅というのケースは皆無だった。しかし、終焉の魔王との戦いではそう断言できた。
そして俺は、終焉の魔王を倒すべく戦いの中で成長し……帝国を離れても修行を重ねてその技法を完璧なものとした。
俺は歩みを進めながら静かに息を吐いた。最終決戦ということで少々緊張している自分がいる……正直、初めて終焉の魔王と相まみえた時はこれまで通りの戦いをすれば勝てると自負していたし、戦友達も同じだったわけだが、それが覆された……多少なりとも油断だってあったのではないか。
周囲を見回す。一定の緊張はあるが、これは過去戦ってきたのと似たような光景だ。仕方のない話ではあるのだが、俺は終焉の魔王がどれほどの力を持っているのか知っている以上、これでは犠牲者が出るだろうと心の内で断定する。
とはいえ、だからといって詳細を語ることはできない……俺がやれるのはたった一つ。すなわち、終焉の魔王が全力を出す前に決着をつける、だ。
それであれば、今回の戦いもこれまでと同じだと言うことができる……そういう風にすれば、わざわざ終焉の魔王に関して調べる必要性はないし、研究などもしないだろう。
まあ研究なんてものができなくなるくらい、魔王の力を滅せばいいだけの話なのだが……胸中で色々と施策を巡らせる間にも行軍は続いていく。そこでふと、ティナはどうしているのか視線を向けた。
彼女は他の仲間に声を掛けられ談笑していた。その様子からは記憶を保持しているようには見えない……やれるだけのことはやった、ということなのだろう。
俺も終焉の魔王を倒すために全力は尽くした……ただ、やはり事の顛末をアゼルくらいには語った方がいいだろうか。
「俺は、どうすべきかな」
ふと俺は小さく呟いた。どうすべきか――終焉の魔王を倒し俺は旅を始めた。そして千年後に飛ばされ、今こうして戻ってきた。
終焉の魔王を倒せば歴史は間違いなく変わる。ただ、オルバシア帝国がどうなるのかはわからない……そうしたことも、アゼルには伝えるべきなのだろうか?
彼は手紙で繁栄が永遠に続くとは思えないと言った。それはおそらく事実だろうし、終焉の魔王以外の要因で滅んでもおかしくはないだろう……ただ、それがわかっている状況で俺は全てを投げ出すという選択肢をとれるだろうか。
まあ全てを伝えてもアゼルであれば「ジークが気負う必要はない」と告げて話は終了してしまうかもしれないけれど……俺は戦友達へ目を向ける。
ここで終焉の魔王を一気に倒せれば、失われた仲間達を救うことができる……今の俺の力で魔王を完全に滅ぼせるかどうかはわからない。けれど、彼らを……ならばそのために戦おう。そう俺は決意し、戦場へ向かって歩み続けた。




