魔王の執念
そこからは、フェリアの屋敷に残された資料を読み漁る日々が始まった……これは誇張でも何でもなく、本当にそれだけで日数が経過した。資料が予想以上に多かったのが理由だが……無論、敵の索敵は怠らない。この町へ来ておおよそ場所についても把握できたのだが……動きはない。
だから俺とティナは現状を把握するために……何より帝国崩壊の原因を知るために資料を読み込む。そして俺達は、真実に辿り着いた。
まずフェリアが言った通り、アゼルは終焉の魔王に関する研究を始めた……その過程でティナなんかが実験に巻き込まれ、アゼルは激怒したらしい――当時、帝国で暮らす民は種族は関係なく平等……だったはずなのだが、帝国に最後まで抵抗していた魔族については多少なりとも差別意識があった。それによってティナを陥れようと……という考えが多少なりともあったのかもしれない。
ともあれ、その後実験に参加した者達の末路もちゃんと記されており……溜飲を下げつつ、俺は資料を読み続ける。
最大の疑問である帝都崩壊の原因は、復活した終焉の魔王によるものだった。実験により肥大して力が意思を持ち、肉体を得て帝都へ襲い掛かった――奇襲同然の攻撃によって、帝都は為す術もなく崩壊した。以降の歴史は俺が以前読んだ歴史書通り。帝国は崩壊し、国々が分かれ……そうして千年が経過した。
「どこまでも、抵抗し続けるんだな……」
俺は終焉の魔王が持っている執念深さを理解し、また同時にどれほどの脅威なのかを再認識する。
それと同時に、滅ぼすことが極めて困難であるのもわかる……僅かな力でも残っていれば、いずれ人の意識へ入り込み復活させるよう誘導する……そういう特性があるらしい。単に倒すだけでは終わらない……だからこそ、千年後の今奴は復活し活動している。
とはいえ、俺とティナが遭遇したあの存在が終焉の魔王そのものであるというわけではないようだ。その特性は力を取り込み続け、やがて魔王となるらしい。俺達が遭遇したのは現段階ではあくまで終焉の魔王に関連する力を得た存在。それが様々な検証を経て力をつけ、やがて終焉の魔王へと成り代わる。
「その過程で本来あった自我とかは消え去るみたいだな……いや、もう既に終焉の魔王の意思が支配しつつあるのか」
終焉の魔王としても、新たに得た器の検証をするために魔王ザロウドなどに力を与えていたということなのだろう……アゼルの顔を作ったのは、終焉の魔王が保有していた記憶の中にあったため、という風に考えれば説明はつく。
俺は小さく息をついて、資料を読むのを中断して休憩に入る。様々な情報を得ることはできた――終焉の魔王に関する情報を得たことで、対策も立てることができるだろう。
残る問題は俺が過去へ帰れるかどうかなのだが、これについてはノーラッドの連絡を待つしかないか。
ひとまず、自分達の居場所については連絡を行っているので、報告は来るはずだが――
「あ……」
廊下を散歩していると、ノーラッドの気配を漂わせる使い魔を見つけた。鳥型で足に紙がくくりつけられている。
それが結構大きめな紙だったので、何か重要な情報があるのかと俺は使い魔に触れる。直後、使い魔の姿が消え紙だけが残された。
「えっと……」
紙を広げると、そこには過去へ戻る手段に関する報告が書いてあった。
『ある程度結論を得ることができたため、報告します。過去へ戻る魔法についてですが、それ自体は存在しています。加え、その魔法を使えばどうなるのかについても』
俺は文面を読み進める。そこに記載されていたのは、
『過去に干渉すれば、現在も変化する……そのような形となっているようです。つまりジーク殿が過去へ帰還すれば、それによって以降の歴史も変化する……とはいえ、ジーク殿が戻ったとして、どれほどの変化があるのかはわかりません』
そこまで読んだ時、ティナが近づいてくるのを視界の端に認めた。
『例えばの話、ティナ様を救うことはできるでしょう。しかし、あなたが人間としての生を全うした後に、帝都は崩壊した。帝国がジーク殿の情報で終焉の魔王に関する対策を得たとしても、対抗できるかどうかはわからない……もし対策が機能しなければ、ジーク殿がいてもいなくても結果は同じだと考えていいでしょう』
「ジーク、どうしたの?」
ティナが声を掛けてきた。そこで俺はノーラッドの使い魔が寄越した紙を彼女へ手渡した。
「過去へ戻る魔法について書かれている」
俺がそう告げた後機、手紙の最後の部分……そこを頭の中で反芻した。
『終焉の魔王……その存在によって帝都は崩壊する。逆に言えば、終焉の魔王そのものをどうにかしない限り、似通った未来へ繋がってしまうということかもしれません。千年後の世界で終焉の魔王を倒し、その後どうするのか……ジーク殿が後悔しない選択を取るよう、よく考えてみてください――』




