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千年後の言葉

『この文面はジーク、君の下に届いているのはいつなのかわからない。十年後? 百年後? あるいは、それ以上だろうか? とはいえ私は一つ予感している。この手紙が届く頃には、私の意思は地上にないだろうと』


 そうした文面から始まった俺への手紙……千年という時を超えて書かれた物。ただ俺にとっては……別れて一年ぶりくらいの時間だが。


『私がこの手紙を執筆している時、オルバシア帝国はまだまだ繁栄を続けている。とはいえ、この栄華が永遠に続くと私は思っていない。未来永劫の繁栄……世界を統一したオルバシア帝国ならば不可能ではないと思うが、決して容易なことではない。むしろ、極めて困難な話だろうが……それに挑戦する資格は持っていると自負している』


 俺は改めてアゼルを背負っていたものを理解する。皇帝であるアゼルは、大変な道を歩んでいた。


『私は可能な限り、オルバシア帝国を繁栄し続けるための方策を行う……が、それを阻む障害があるだろう。その一つと呼べるのは終焉の魔王だ。様々な報告、戦いの結果、それらを統合し、いずれ終焉の魔王は再び世界を脅かすべく復活すると私は確信した。故に、様々な用意をしている。だが』


 そこで俺は、この手紙を書くアゼルの姿が思い浮かんだ。ここまで書いた後、アゼルは少し間を開けたに違いない。


『終焉の魔王に関する研究もしている……もしかしたらそれこそ、繁栄が消え去るきっかけになるかもしれない。だが、やらねばならないと私は思う。それがあの魔王を滅し、世界を統一したオルバシア帝国の責務だ』

「……終焉の魔王」


 ここでティナはぽつりと呟いた。


「アゼル皇帝は……終焉の魔王について、調べ滅んでいないとわかっていた」

「みたいだな」


 俺は同意しつつ文面の続きを読む。


『ジーク、未来へと転移してしまったと聞いた時驚いたが、終焉の魔王との戦いでさえ生き残ったのであれば、そんな展開でも君は生きているだろう。どれだけ未来なのかはわからないが……是非私の頼みを聞いて欲しい』


 当然だ、と俺は内心で呟きながら文章を目で追う。


『終焉の魔王……未来でその存在が残っている可能性は否定できない。故に、完全な消滅を……そして、この世界に平和を』


 文面はそこまでだった。俺はフェリアへ視線を移し、


「終焉の魔王を倒せと……ただそれだけ書かれている」

「私達も終焉の魔王に関する情報は持っています……そして、当該の存在が活動していることも」

「俺はそいつと出会っている」

「そうですか……情報を収集していますが、どこまで活動範囲が及んでいるのかわかりません。けれどこの大陸に終焉の魔王の力を宿す者は存在しており、それを倒せば今度こそ終わらせられる……そのように考えています」


 述べると、フェリアは俺とティナを一瞥する。


「終焉の魔王に関する情報……それについては資料を残しています」

「それを守ることがこの家の役目、とでも言いたいみたいだな」

「まさしく、それこそ私達の責務ということでしょう」


 フェリアはそう応じた後、穏やかな笑み尾を浮かべた。


「英雄ジーク、あなたが現れたことでこの家は……いえ、オルバシア帝国崩壊から始まった私達の責務は、ようやく終わりを告げたということでしょう」

「肩の荷が下りたという感じだな」

「資料を守り、家を維持し……先祖を含め私も苦難が多数ありましたが、どうにかここまで辿り着きました。本当に良かった」


 そこまで言うとフェリアは俺達へ、


「部屋を用意しましょう。加え、魔王打倒に必要な物があれば可能な限り用意します」

「そこまで手を貸してくれるのか?」

「終焉の魔王……その力は本体と比べれば残滓でしょうが、あれを放置すれば世界がどうなるかの想像はつきます」


 情報を持っているためわかるのか。


「世界に脅威を説いたところで、誰も耳を貸しはしないでしょう。だからこそ、お二方を支援することが最善かと」

「……ありがとう。ひとまず資料の精査から始めようか」

「私の頭の中にも情報は入っています。わからない点があれば、是非お尋ねください」

「わかった……ティナ、まずは検証だな」

「うん」

「あ、それとフェリアさん……終焉の魔王に関してはわかった。俺達がこの大陸へ来たのはそいつを倒すためでもあるし、全力は尽くすが……そこで疑問がある。どういう経緯で現れたのかはわかるか?」

「終焉の魔王の特性として、残存する力……そこにも意思が宿ることがわかりました。これは帝国が崩壊した後に気付いた事実……帝都が崩壊した際に終焉の魔王に関する力もその大半が失われましたが、まだ意思は残っていた」

「その残っていた力を誰かが手にして、千年後の世界に蘇ったと?」

「おそらくは」

「その姿は……アゼル皇帝とうり二つだった。なおかつ、俺達について記憶はないみたいだが」

「意思があるとは言えど、記憶を共有するわけではないようです……そして皇帝と顔が一緒だとするなら、終焉の魔王が作り替えたということでしょう」


 なぜアゼルの顔を……いや、ここは資料を精査して考察しよう。そう決めて、俺はフェリアに資料を見せてくれるよう要求した。


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