増える疑問
……敵が目の前から消えた後、俺とティナは沈黙し続けた。数分ほどだろうか――沈黙を破ったのは、ティナの声だった。
「少なくとも、偶然力を手に入れましたというわけじゃなさそうだね」
「……ああ、そうだな。アゼルの姿をしている以上、何かしら理由がある……それは間違いなく、千年前に消え去ったオルバシア帝国……帝都が崩壊したことと関わりがある」
そこで俺は「ただ」と言葉を添える。
「過去に戻って確かめなければ、真実の検証はおそらくできない……真実を知っている存在が生き残っている可能性はあるが……まずはあの敵を倒すことを優先だな」
「アゼルの姿をしていても……戦える?」
「無論だ」
――返答する俺の声音をどう受け取ったのか、ティナは顔を強ばらせた。
「アゼルの姿をしているが、あれはアゼルじゃない……むしろ、あんな姿をしたあの存在を許すことはできない」
「……そうだね」
「アイツを追い、倒す……過去へ戻るとか、真実を知るとかは二の次だ。まずはあの存在をどうするか……とはいえ、情報が少なすぎるな」
「居場所を特定するのは難しそうだね」
「さすがに俺達の前に登場したアイツの魔力……それを基にして探すのは難しいだろうな」
俺とティナは二人して悩み始める。どうやら一連の事件……その元凶と顔を合わせることになったわけだが、見つけ出すとっかかりがまったくない。
いや、こうして顔を合わせたこと自体が相手の計略である可能性も否定できない……奴は今までと同様に力を他者に分け与えるだろう。俺達は探すことに終始してそういった動きを見逃してしまう可能性がある。
「色々とやり方を検討しないとまずいな……まあ、魔王ザロウドを倒した段階で力を与えた存在に関して捜索手段は考えないといけなかった。何も変わっていないと言えば確かにそうだけど」
「どうする?」
ティナが問い掛けてくる。俺は彼女を見返し、
「相手がアゼルの姿をしていた以上、オルバシア帝国という存在が鍵になっているのは間違いなさそうだ。効率的ではないが、先んじてやるべきなのは終焉の魔王……その力について調査することだ」
「魔王レゼッド、ツェイル、魔王ザロウド……それ以外にも力を分け与えている存在がいるかもしれないってことだね」
「そうだ。そこをまずは調べていく……この大陸内にいるのなら捜索は容易いかもしれないけど、他の大陸に敵が居を構えていたらかなり大変だけど」
「まずはこの大陸から調べようよ」
「やり方に候補があるのか?」
「うん、探し方は色々と考えていた。まずはノーラッドの所に戻ろう」
「彼の協力を得るのか?」
「少しばかり支援してもらわないといけない。でも、やり方さえ確立したら後は大丈夫」
「わかった。それじゃあエルフの里へ」
そう言って、俺達は魔王ザロウドの居城を後にした。
再びエルフの里へ戻り、ノーラッドと顔を合わせ現状を報告。すると、
「なんと……アゼル皇帝の姿で……?」
「俺が見覚えのある、若い姿だった。歴史書で確認した限り、アゼルは天寿を全うしたんだよな?」
「はい。崩御した際はそれこそ盛大な葬儀が執り行われました……棺に眠る陛下は相応に歳を重ねていました」
「若い姿であることも何か理由があるのか……」
「そこについても理由があるのかないのか……」
疑問ばかり増え続ける。とはいえ、悩んでいても仕方がない。まずは行動あるのみだ。
「それで、ティナが索敵魔法を考案したみたいなんだが」
「わかりました。どのような手法ですか?」
――ティナが説明を加える。俺にとっては理論的な内容であったためまったく頭に入ってこなかったのだが、ノーラッドは理解できたらしく、
「驚くべき手法ですが、なるほど……そのやり方であれば、膨大な魔力を使用する必要もなく、かつ広範囲に調査ができますね。後はティナ様の力量次第ですが」
「そこはどうにかするよ。ただ、わかっていると思うけど……」
「道具が必要、ですね。武器にもなる杖がよろしいですか?」
「そうだね」
「わかりました。早速作成に取りかかりましょう」
「代金は?」
俺が問い掛けるとノーラッドは笑みを浮かべた。
「そこについてお手を煩わせるわけにはいきません。幸い蓄えはありますし、私の財から出しましょう」
「結構高価な物になるのか?」
「ティナ様が操る物ですからね。とはいえ、屋敷を手放すレベルなどではありませんのでご安心を」
そう語りながらノーラッドは行動に移すために立ち上がる。
「武具は数日の間に完成させます。それまではここで旅の疲れを癒やしてください」
そういえば、ここまでずっと動きっぱなしだったな。体力的に問題はないけれど、今後のことも考えて今のうちに体を休めておくのがいいだろう。
「わかった。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「部屋を用意します。それと、外出の際は連絡をお願いします――」




