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戦いの終わり

 俺とティナは牢屋のある場所へと赴く。入口に鍵束があったのでそれをつかみつつ進むと、鉄格子に多数の人がいた。


「……あなたは……!?」


 その中で青い髪を持つ女性がいち早く声を上げた。鎧を着ていることからエリュテ王国の騎士だろう。


「助けに来たよ。といっても、牢屋に仕掛けもないみたいだし、その気になれば出られるみたいだけど」


 俺は鍵を差し込み、ガチャリと重い音を上げ牢を開ける。


「魔王や魔族はいないし、ここにいる意味はないだろ?」

「……いない? 先ほどの魔力鳴動と何か関係が?」


 上で何かが起こっていると認識はしたみたいだな。


「俺達はいなくなった後に忍び込んだだけで何も見ていないよ。ただ、魔法が使われた形跡があったり、城門扉の一部分が破壊されていたり、何か争った雰囲気はあったけど」


 牢に捕らわれていた面々が何やら話し始める。その間に女騎士は俺達と目を合わせ、


「あなた方はなぜここに?」

「別の用事で近くの山に入っていて、魔力を感じ取ってここへ辿り着いた。訪れた時点で砦は沈黙していて、魔物なんかもいなさそうだったし、入り込んで様子を確認したってわけ」

「ずいぶんと危ないことをするのね」

「まあ、ここが魔王レゼッドの居城なのは知っていたけど……」


 女騎士が牢の外へ。そして他の騎士や傭兵などに色々指示を出す。


 やがて全員が牢から出て、指示通りに動き始めた。ある者は負傷者と共に外へ出ようと、ある者は砦の状況を確認しようと。またある者は魔法を使い、全速力で砦の外へ。王都へ連絡をする人だろう。


 そして女騎士は、


「私は魔王のいた場所を確認してくる」

「付き合うよ」


 俺とティナは女騎士に追随。彼女は拒否せず、無言で歩を進めていく。


 やがて、もぬけの殻となった玉座の間に辿り着くと、小さく息をついた。


「……王都へ向かったと考えるのが妥当ね」

「今から連絡して間に合いそうか?」

「わからない……ただ、魔王レゼッドは私達についてくるよう指示を出していた。それを取りやめただけでなく、私達のことを無視したというのは奇妙ね……」


 どう考えたって理屈に合わないからな。


「……とにかく、今は状況を確かめてすぐにでも王都に戻ることを優先すべきね」

「町が魔物に襲撃されているとか、その辺りの情報は把握しているのか?」


 なんとなく尋ねてみると、女騎士は小さく頷いた。


「ええ、もちろん。魔王レゼッドを討つことができれば、それも解決できると思ったのだけれど……」

「ここを引き払って目標を変更したのかもしれないし、警戒はすべきだろうな」


 女騎士は頷く。この様子からすると精鋭部隊のリーダーみたいだし、彼女が危機感を持っているならエリュテ王国の防備に関しては問題ないだろう。

 ならば俺とティナはどう立ち回るべきか……色々と頭を悩ます中で、彼女は撤収命令を出すべく玉座の間を後にした。






 その後、俺達はエリュテ王国の王都へと辿り着いた。そこから事情説明的な意味合いで王城を訪れて色々と話をさせられたことに加え、騎士達を救出してくれたお礼ということで報酬をもらえることになった。

 最初、何もしてないのでと断ろうとしたのだが、俺と話をした女騎士は「遠慮なく受け取ってもらえれば」として、王城内の客室へ招かれ話をすることに。


 ちなみに女騎士の名前はエミリア=ナーレク。魔族や魔物に対し有効な退魔技術を多く保有しているため、今回魔王討伐のリーダーに選ばれたらしい。

 で、報酬を渡そうとした彼女に対し、俺は手で制しつつ、言及した。


「――その報酬についてだけど、お金じゃなくて別のものでもいいか?」

「何か欲しいものが?」

「もの、というより情報が欲しいんだ。具体的には二つ」


 こちらの言葉にエミリアは目を合わせ聞き入る構えを見せた。


「一つはオルバシア帝国に関する情報」

「帝国……千年前の?」

「俺達は大陸外の研究者から依頼を受けて、オルバシア帝国にまつわる情報を集めている。で、もし良ければ歴史を研究している人なんかを紹介してもらえると、助かる」

「なるほど、すぐに答えは出せないけれど、調べてみるわ」

「どうも。そしてもう一つは、魔法……時空間系の魔法を研究している人がいたら、紹介してもらえないかと」

「時空間……?」

「オルバシア帝国の研究云々とも関連しているんだけど、帝国があった時代に過去や未来を行き来する魔法なんてものがあったらしい」


 ――俺を未来へ飛ばした魔法使いがいたんだ。このくらいは誇張して語ってもいいだろう。


「……実際に過去へ行って調べるということ?」

「いや、そういうわけじゃないよ。単純にそうした魔法について興味があるってだけの話」


 過去へ戻る魔法なんてものが見つかるのが疑問はあったのだが、ティナがいることで状況が変わった。何かしらとっかかりがあれば、彼女の技術で過去へ戻る手段が構築できるかもしれない。

 ティナも「やったことないけど、資料があれば可能性はあると思う」という返答だったため、とにかく時空間系統の魔法を研究する人間にさえ会えれば――つまり、以前よりも希望は見えている。


「ええ、わかった」


 そして騎士エミリアは俺の要求を受け入れた。とりあえず国と関わることができて情報源を一つ確保だな。これから名声を高めさらに別の国でも……という形にもっていければ、より情報が集まりやすくなるだろう。


 それと平行して、魔王レゼッドに力を与えた存在についても調べなければ……というわけで、


「そういえば現在、他に怪しい動きをしている魔族なんかはいるのか?」

「魔王レゼッド以外に、ということ?」

「ああそうだ」

「首を突っ込むの?」

「いや、そういうわけじゃない。単純に俺達の仕事の都合だ」


 首を傾げる騎士エミリア。それに俺は笑いつつ、


「今回は運が良かったけど、もし魔王がいる状態で砦に近づいたら命はなかっただろう。で、俺達はオルバシア帝国に関する遺跡なんかを調べる名目で山とかに入ったりするから――」

「なるほど。何も知らないまま山に入り、そういう場所を根城にしている魔族がいたら、危険だと」

「その通り」

「……現状、この大陸には複数魔王がいるけれど、大々的に動いていたのは魔王レゼッドだけ。でも、魔王が残っているのは事実」

「情報によると魔王ティウェンナールも消えたらしいけど」

「そうなの? そうするとエリュテ王国の外になるわね」


 その情報を俺達は教えてもらう……うん、居所がおおよそつかめたらティナの索敵魔法を使って調査すればいい。


「ああ、それと手がかりになるかはわからないけど」


 と、前置きをして騎士エミリアは語る。


「王都から西、国境を越えた先にエルフの大きな里がある。そこにいるエルフの族長は、かなりの年齢でもしかすると帝国の生き証人かも」

「お、そうなのか……長の名前は?」


 問い掛けエミリアは答えたのだが……聞き覚えがなかった。ティナへ目を向けると首を左右に振る。彼女も知らないらしい。

 さすがに俺達の知り合いはいないのかな? と考えているとエミリアは、


「今回の討伐隊はエルフの協力者もいた……良ければエリュテ王国による紹介状を書くけど」

「あ、お願いしていいか?」

「わかったわ」


 うん、手がかりになるかはわからないけど、調べてみる価値はある……そう思い、俺はエミリアから紹介状を受け取ることにしたのだった。


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