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世界最強の剣士

 アゼル皇子の言葉を受け入れて俺は町を離れ……オルバシア帝国の都、シャーナクルへ赴いた。


 子供なりに、皇子はきっと色んな戦士に声を掛けているだろうと思っていた。さすがに俺一人ではないだろうと……世界を統一するなんて無茶な行為、俺だけの力では無理だろうから。

 それは実際正解で、俺以外にも古今東西から招かた戦士が城にいた。人間だけではなく、皇子の考えに共感した他種族の戦士や魔法使いもいた。


 そうした中で俺は、魔族を倒した実績と十歳という年齢から好奇な目で見られつつ……それを気にせず鍛錬を始めた。今まで以上に多種多様な戦士の訓練風景を見て技法を体得し、魔法を学び、剣を振った。今まで以上に質の高い鍛錬を繰り返し……それによって得た力で、やがて俺は戦地へと向かった。


 装備はひどくシンプルで、鎧はおろか具足も小手も身につけない、藍色を基調とした耐刃製の衣服のみ。鎧はどうしても肌に合わなかったのが理由だが、持ち前の魔法技術で防御できるので、困ることはなかった。

 剣は色々悩んだが、最終的に魔力で練り上げた魔法剣に落ち着いた。自分の魔力で構築できて武器を失うことがないという利点の大きさからだ。見た目は一般的な騎士が持っている物と何ら変わりがない白い鞘と白銀の刃。俺が魔力を入れることによって真価を発揮する――そういう剣にした。


 そして戦地での戦いは……激動の日々だった。世界には多種多様な魔物が跋扈し、帝国を脅かしていた。まずはそれらと戦い……俺は、戦果を挙げ続けた。そうした中、様々な種族が帝国は世界を支配するにふさわしい力を持っているのか戦いを仕掛けてきた。


 山脈を根城にする竜達と戦うことがあった。一体一体が強大な力を持ち周辺の国々に畏怖されていた竜達を、俺は真っ向から挑み実力を認めさせて支配下に置いた。最後の戦いは四体同時に相手取る必要があって、さすがにこれは死んだと思ったのだが、最後に立っていたのは俺一人。竜達は俺に敬意を表して人間の姿をとり、頭を垂れた。


 エルフ族最強の魔法使いと戦ったこともあった。魔法が発動すれば天候でさえ変動させるほどの強大な力を持ち、同胞達から信奉されるエルフの王。そんな相手に俺はたった一人で立ち向かい、雷雲を呼び竜巻すら容易く引き起こす魔法を、修練によって得た魔力技術によって防ぎ続けた。最後の最後にエルフの都を消し飛ばすほどの威力を持った光の槍を全力で相殺した瞬間、エルフの王はオルバシア帝国に恭順の意を示した。


 あるいは、天使の長……天上神とも戦った。人々にとって信仰の対象にすらなる強大な存在に対し、オルバシア帝国は臆面もなく従えと通告した。俺は無茶苦茶だなと思いつつ……内心ではどこかで、楽しんでいた。神でも、魔王でもなく人が世界を支配する……人という種族が世界全てに領土を持つ。それを実現するというアゼル皇子の夢に、俺は心のどこかで賛同するようになっていた。


 天上神は当然ながら、逆に人間を支配下に置くべくオルバシア帝国へ侵攻した。その戦いは人間側も反対だと主張する人が多かった……しかしアゼル皇子は、人間が世界を統治する世界を目指す上で必要な戦いだと宣言した。


「ジーク、これは想定していた正念場の一つだ。天上神を支配下に置く……人の世を作るには、必要なことだ」


 そして俺は、多数の天使が攻め寄せる中で戦った。騎士や兵士の中にも戦うべきではないと武器を握らぬ者がいる中で、俺は戦場を制覇した。空を飛ぶ天使相手は大変だったが、戦いの中で戦術を得て……天上神との戦いに挑んだ。

 それはまさしく、激闘だった。神と名乗るだけあってその力は人間と比べることもおこがましいもの……だが、俺は真正面から激突し、ついに地面を舐めさせた。竜やエルフとの戦いで得た経験と、ありとあらゆる剣術や魔法技術――それらを結集させ、戦いの中で成長し……天上神を下したのだった。


 この結果によって、他に存在していた神々もまた帝国に従った……それは俺に対する敬意もあったらしい。なぜなら――ただ恭順させるだけではない。俺は竜もエルフも、そして天使でさえも、殺めることなく屈服させた。

 そう、俺の剣は滅ぼすものではない……アゼル皇子は言った。勝てる、倒せると。それは種族を根絶やしにすることではない。彼らは帝国の中で、発展に尽くしてもらわなければならない。だからこそ、俺は彼らを殺めることはなかった。


 そうした姿勢を見せ続けたことにより、様々な種族が帝国に従うこととなった……アゼル皇子は言った。蹂躙では意味がないと。人間だけの世界を作ろうとしているのではない――帝国は、ありとあらゆる種族と共に繁栄していくのだと。

 その結果、帝国は版図を拡大し続けた……が、それに反抗する勢力もあった。その筆頭になったのが魔族であり、彼らを束ねる魔王であった。


 魔王と称する存在は世界各地に多数いた。帝国はそうした者達に傘下に入るよう告げたが……結局のところ、従ったのはごく一部で、帝国を脅かし破壊の限りを尽くした。よって俺は、今度こそ滅ぼす立場となった。

 魔王の実力もピンキリで、天上神をも倒せた俺なら瞬殺できるレベルの敵もいれば、国を蹂躙できそうな実力を所持する強敵もいた……数え切れないほどの戦いを経て最後に残った魔王は、天上の神々ですら瞬殺してしまうほどの力を持った存在。後に『終焉の魔王』と呼ばれるようになった存在は、文字通り世界の敵となって襲い掛かってきた。


 それに俺は、真正面から挑んだ。この戦いは文字通り、命を賭して戦った。何度死ぬだろうと思ったことか。何度諦めてしまおうと考えたことか。それでも俺は三日三晩戦い続け、辿り着いた境地……剣と魔法を極め至った技を繰り出し、とうとう終焉の魔王を打倒することに成功した。


 その瞬間、俺は終わったのだと心の中で呟いた。皇子に城へ連れてこられて八年の歳月が過ぎていた。俺にとっては恐ろしいほど長い時間。けれど人間の歴史からすれば、ほんの瞬きする程度の時間だろう。だが、その歳月でオルバシア帝国は……世界を統一することに成功した。


 世界統一帝国の誕生に、人もエルフも竜も、天上の神々も、そして恭順した魔族達も諸手を挙げて喜んだ。功績によりアゼル皇子はとうとう皇帝の座に着いた。歴史において、永遠に刻まれる事実……全世界統一。それを成し遂げ、帝国はまさしく絶頂期を迎えようとしていた。


 その中で、俺は……終焉の魔王と共に戦った仲間と共に帝都へ凱旋した時、俺の名を称える人の声を聞いた。仲間に「手を振って」と言われるまで呆然としていた俺は、ここで一つの事実に気付いた。

 人々は、俺に向けている声……それは単純に名を呼ぶだけではなかった。英雄ジーク、最強の剣士ジーク……そんな声を聞いた瞬間、俺は改めて気付いた。


 ――自分は、世界最強の存在になったのだと。






 凱旋の後、皇帝となったアゼルと謁見した際、彼は俺へこれからのことを告げた。


「おそらく、帝国に恭順した者達の中でもやり方が気に食わないとして反旗を翻す者が出てくるだろう」


 その指摘に俺は頷いた。ならば自分の役目は帝国内における秩序の維持か――


「だが、そこにジークの力はなくてもいい」


 けれど皇帝は思いも寄らぬ言葉を投げた。


「これからは個の力ではなく、帝国の力で秩序を維持する……最大の脅威である終焉の魔王は潰えた。もう個の力……絶対的な存在は必要なくなる。だからジーク、君は自由にしていいし、もし何かを望むのなら帝国の威信に賭けてそれを用意しよう」


 唐突な選択に俺は最初戸惑い、言葉をなくした。


「要望は思うがままだ。この国で一生遊んで暮らしたいのならば、望みを叶えよう。自由になりたいのなら、余は快く送りだそう。もし成し遂げたいことがあれば、帝国の威信を賭けてそれを果たすべく助けよう」


 それこそ、最後まで戦い続けた俺に対する報酬……ただ、皇帝の目は俺が何を選ぶのか、わかっている様子だった。

 その目を見て、俺はすぐに決意が固まった。次いで要望を告げ……皇帝は、俺に向け笑みを浮かべたのだった――



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