魔族との交戦
門を守る魔物は合計して二体。双方とも槍を携えた黒騎士という風貌で……その動きは重厚な鎧に反し素早く、しっかりと間合いを把握して刺突を決めてきた。
だが、俺の腕が動くと――槍の先端が、綺麗に両断されて地面へ落ちる。どうやら武器は魔力により作成しているらしく、魔物の腕から離れた槍は溶けるように消え失せる。
魔物二体はそれで動きが止まった。こいつらは一定の命令に従い動いているはずだが、武器が破壊された場合の想定はしていなかったらしい。すかさず俺は剣を切り返して魔物の首へ一閃。綺麗な弧を描いた斬撃は魔物二体の首を跳ね飛ばすことに成功し……滅び去った。
「さて、と」
門へ近づく。大きな扉で仕掛けにより開閉するはずだが、俺は門の端っこへ剣を放つ。おそらく扉も魔法により強化されているはずだが、ガランガランとでかい音を立てて一部分が切断。人が二人くらい通れる穴ができる。
「よし、入ろう」
「うん」
俺はティナと会話をしつつ、砦の中へ。途端、気配……魔力が濃くなった。
「魔力を砦の外へ出さないようにしているのか……ん、この気配は――」
俺は気になって周囲を見回していると、砦の入口から人影が現れる。
「何をするのかと思えば、ずいぶんと無謀ですね」
丁寧な口調で話す魔族だった。黒い貴族服を身にまとい、白銀の髪と瞳に加え線の細い外見は、世の女性を虜にしそうな雰囲気だ。
「お仲間の救出に来ましたか。しかし正面からとは大胆ですね」
「あー、ここにいる人間を助けに来たってわけじゃないんだ」
剣を持たない左手をパタパタと振りながら言う。すると相手は――魔族は眉をひそめ、
「これは異な事を……では何のためにここへ?」
「エリュテ王国へ攻撃しようとする前に、魔王を成敗しようかと」
その言葉に対し――魔族は一時沈黙した後、笑い始めた。
「何を言い出すかと思えば……たった二人で、ですか?」
「そうだ」
「意味不明ですね、勝てると思っているのですか?」
その瞬間、魔族は威嚇のためか魔力を噴出した。俺とティナの体にそれが当たり、まるで全身に刃を突きつけられたようだった。
「この力……陛下の力は圧倒的です。あなた方人間に勝てる道理はない」
……魔族が放つ気配を明確に感じ取って、俺は一つ確信する。
「ティナ」
「うん、そうだね……終焉の魔王。その気配がある」
ティナが持っていたものと比べると、相当薄い。とはいえ、あの力はほんの一欠片所持していただけでも、力を相当強くする。
どうやら魔王レゼッドは何らかの理由で終焉の魔王の力を所持している……であれば、
「魔王に確認しないといけないな。その力はどこで手に入れたのか」
「まさか陛下に会うつもりですか? そんなこと――」
できるはずがない、と魔族が言おうとした瞬間に俺は間合いを詰め剣を振った。並の剣士なら対応すらできない速度の剣戟。だが魔族は俺の剣を、足を後退させて紙一重で避ける。
「……ほう?」
魔族が呟く。思わぬ攻撃に驚いているか。そして俺も、
「これをよけるのか。終焉の魔王の力を持っているし、少し気合いを入れないといけないか」
「みたいだね」
右腕に力を込める。その矢先、魔族は目を細め、なおかつ事態に気付いた他の魔族が砦のあちこちから顔を出す。
「力は多少あるようですね。しかし、その程度では――」
次の瞬間、俺は身の内にある魔力を、血液を循環させるような要領で全身へと流した。それにより、体全体が活性化される。筋肉に魔力が注ぎ込まれ、能力が一段階アップする。
――ティナとの戦いを除き、今までは魔力が付与された剣と自分の膂力だけで剣を振っていた。しかし筋肉に魔力を流し浸透させることで、通常では考えられないような身体強化を施す。例えば、
「ふっ!」
腕を振った。その速度は筋肉の動きだけでは到底あり得ない速度であり――気付けば、目の前にいる魔族の両腕が、切断されていた。
「……は?」
次いで、その首に切れ目が入る。あまりの速度であるため、斬られたことすら気付かない――そのレベルだ。
「は……があああっ!?」
声と共に、魔族が消滅する。肉体を所持していても魔力量が多い魔族は、死ねば塵となって消え失せる……事態の変化に気付いた他の魔族達が、砦のあちこちから俺達へ向かってくる。
上階にある廊下の窓から飛び降りる魔族もいれば、室内へ繋がる真正面の扉から弾かれるように飛び出す魔族もいた……その中で一番早く接近してきた魔族は、剣を持っており斬撃を繰り出すべく剣を掲げた。
けれど、攻撃には繋がらなかった。俺は一歩で相手を間合いに入れると剣を振る……それで、先ほどの魔族と同様に腕と首が胴体から離れた。相手は何が起こったのかわからないまま、悲鳴を上げることすらできず消滅する。
次に来たのは三体同時。一体は後方で魔法を撃つ構え、残る二体は真正面と右側から攻め寄せてくる。
そこで俺は迎え撃った。能力を駆使すれば足を前に出しても瞬殺できると思うが、不詳するリスクは多少ある。後方にはティナもいるし他に観察している魔族もいる。ダメージは喰らわないよう、着実に進めていくとしよう。
二体の魔族が間合いに入った瞬間、俺は剣を振り抜いた。傍から見ればそれは右から左へ一閃しただけかもしれないが……気付けば突撃する魔族の体が首、胸部、腹部、膝とかかとの部分で切断される。合計五往復、剣を一瞬で振った……魔族達は何が起こったのかわからないという顔のまま、滅び去った。
この強化を施して戦うのは久しぶりだが、思ったように動けている。そして後方に控え魔法を放とうとしていた魔族は目を見開いた。あまりの光景に絶句したようで……俺はその隙を突いて足に力を入れた。
相手は驚愕しているが、数秒後には立て直し攻撃を仕掛けてきただろう――けれどそうはさせなかった。魔族の目には、バラバラになった魔族の体の奥、俺の姿が消えたと映ったことだろう。
――魔族二体の体が地面に落ち塵になろうとしている時、俺は三体目の背後に回った。直後剣を振り、同じように剣で首を両断し……相手は声もなく滅び去る。
ここに来て異様な相手だと悟ったらしく、砦から魔族や魔物が多数出現し、俺へ向け襲い掛かってきた。数で押し切り、倒す……そういう意図なのだとはっきりわかった。
獅子のような魔物が吠え、魔族と共に押し寄せてくる。それに対し俺は、立ち止まって状況を確認。攻める敵の全ては俺を標的にしている。後方にいるティナへ向かう個体はいない。それを確認すると同時……右腕を、動かした。
次の瞬間、轟音が鳴り響いた。それは攻め寄せる魔族の剣が俺の刃によって何の抵抗もなく両断される金属音や激突音。さらに魔物が頭部を斬られ消滅する寸前の断末魔や、他ならぬ魔族の悲鳴――そうしたものが混ざり合い、ただ一つの轟音となって俺やティナの体を響かせた。
それは、一方的な蹂躙だった。俺の剣が走れば例外なく魔物も魔族も全て等しく消え失せる。魔族が剣を盾にして防御する意味すらない。俺の方は魔物や魔族を見て、どのくらいの力を込めれば両断できるのか……頭部に魔力を流し集中力高めることで瞬時に判断し、必要な力を引き出して剣を放つ。それをひたすら繰り返すだけ……連撃の応酬によって、一振りごとに魔物や魔族が消え失せていく。
そして、戦闘開始から三分ほどだろうか。轟音は鳴り終わり、俺の目の前に敵がいなくなった。後に残ったのは全てが等しく塵となった光景。まるで、最初から誰もいなかったように……俺とティナは怪我することなく、戦闘は終了した。




