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覇業の大地~未来転移から始まる無双戦記~  作者: 陽山純樹


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魔王の動き

「――ジーク、こんな急進的に動く必要があるの?」


 ふいにティナからそんな質問が飛んできた。時刻は夜、場所は森の中……魔王レゼッドの居城近くである。俺達は討伐隊が敗北したという情報を聞いて、すぐさま敵の本拠へと向かっている。


「情報を得てからなんだか急いでいる雰囲気だけど」

「……千年前、色々な魔王と戦った時、その行動パターンというのは結構似通っていた。魔族というのは、人間や天上神と同様に世界の支配を目論む種族。そしてやり方はずいぶんと強引なパターンがほとんどだ。これは持っている力が破壊などに特化して、力による支配が容易いことが原因だと思う」


 ガサガサと茂みをかき分けつつ、俺は彼女へ解説を始める。


「その中でよくあったのが、攻撃を仕掛けた国や人に対し報復として軍事侵攻するというパターンだ」

「つまり、討伐隊が攻撃を仕掛けたわけだから、エリュテ王国に報復を……ってこと?」

「魔王が人間の行動に怒っているのか、あるいは見せしめのためにやるのかはわからないが、最終的な行動はそんな感じが多かった。つまり、討伐隊がやられてエリュテ王国は次の対策に迫られているわけだが、それより先に魔王が攻撃……そんな展開になると思う」


 そこで、俺達は森を抜ける。真正面に、闇に浮かぶ巨大な砦が見えた。

 漆黒の城壁は高く、加えて細部に色々と装飾が施されている。堅牢重厚なイメージと同時に、わざわざ軍事拠点に細工をしていることから尊大な印象も受ける。


「あれは魔王が建造したのか?」

「情報では確かにそうだね……と、待って」


 ティナは目を凝らし砦を観察する。


「魔法で生み出したみたいだけど、大地の魔力と密接に結びついているから、魔王を倒しても残り続けるね。それと荘厳美麗な城ではなく、軍事的な砦にしているのはエリュテ王国の軍勢を迎え撃つ意図があるんだと思う」

「国を支配したら、改めて権威を誇る城を建造するんだろうな……ティナ、この距離なら魔王の能力について、解析できないか?」

「可能だけど、精査するのなら魔法を使う必要があるし、魔力で怪しまれる危険性があるよ?」

「漂ってくる魔力を解析するくらいでいい」

「わかった……実力については……ん、予想より強いかも。私が調査した際よりも強くなっているのか、遠距離で気付かなかったのかはわからないけど」

「わかった。それじゃあ――」

「あ、ちょっと待って。城の中に人がいる。しかも大人数」

「……もしかして、討伐隊か?」


 問い返すとティナは「かもしれない」と答えた。


「人数まではわからないけど、結構な人が砦の中にいる」

「ということは、魔王は討伐隊を倒したんじゃなくて捕虜にしたのか」

「……その目的は――わからないなあ」

「ティナの同胞だけど、魔族の心理は読めないか」

「さすがにそれは無茶だと思うけど……第一、千年経っているわけで、まったく知らない魔族の心理を知るなんて……」

「いや、そうでもないぞ。千年前にいた魔王に通じるものがある……ティナは討伐隊を生かした理由をどう考える?」


 問い掛けられて彼女は少し沈黙し、


「捕らえているということは、それだけ戦いに余裕があった……人間を味方にする、というのはさすがに戦力的にも意味はないしあり得ないか」

「そうだな。後は実験にでも使う……という可能性もあるが、これまで聞いた情報の中で研究をしているという話はない」


 ここで俺は砦を見据える。


「たぶんだが、力を得てその優越感によって人間をあえて殺さず、心を折ろうとしているのかもしれない」

「心を……?」

「魔王レゼッドは出現した経緯から考えても何かの要因で急速に力をつけたタイプだ。砦の様子から、軍事拠点であっても自分の権威を見せつけようとしていることから、相当自意識が高いことが窺える」

「そこまでわかるとは、さすが魔王討伐の専門家」

「別に専門家じゃないさ……単に過去の経験に基づいて行動を推測しているだけだ。で、魔王が人間を殺さず捕らえているというのは、たぶん自分の力を誇示し見せつけ、人間達に教えてやろうという気概なんじゃないかと」

「力を誇示、というのはわかるけど教えてやろうというのはどういう……?」

「つまり、間近で自分の力を見せつけて、他の人間……他国などに伝える役目をさせようってことだ。そうすることで恐怖による支配が容易になる。大陸……ひいては世界を支配する足がかりとなる」

「まだ何もしてないのに、ずいぶんと遠大だね……」

「力を得て自信を持っているというわけだ。討伐隊を倒したのも魔王自身ではなく配下だろうから、自分の手を下さずとも人間達に勝てる……自意識が肥大するのも無理はないさ。それは魔族であろうと魔王であろうと、人間であっても同じだ」


 ――世界統一戦争の中で、帝国に勝てると踏んで様々な兵器を持ち出して戦う存在がいた。俺はその全てを直接打ち砕き続けたが……強力な武器とか絶大な力とかは根拠などない勝機というのを人や魔族に抱かせ、無謀なことを平然とさせる要因になると俺はわかっている。


「魔王レゼッドについては、強大な力を持っている……それがどういうものかわからないが、少なくとも世界を征服できると確信させられるほどの莫大な力だ。実際、人間の精鋭部隊を一蹴していることから、自信は確信に変わっているに違いない」

「なるほど……だから、いつ何時戦争が始まってもおかしくないと」

「正解。早ければ数日以内……いや、明日にでも攻撃を仕掛けると俺は踏んでる。被害が出ないようにするには、今のうちに叩かないと」


 俺達はさらに砦へと近づく。魔法により相当強固になっている城壁。あれを破壊して侵入することもできるが……、


「ティナ、正面突破でいいか?」

「……考えるのが面倒になってない?」

「推し量った魔王の実力から考えると、強行突破できそうだしなあ」

「そうだね。私は後方で援護ってことでいい?」

「ああ。魔法を使って違和感とかあったらすぐに言ってくれ」

「うん、わかった」


 ――もし砦に捕らわれている戦士の誰かがこの会話を聞いていたら、何を言ってるんだとツッコミが入っているところだろう。

 精鋭部隊は間違いなく魔王に辿り着く前に負けている。となれば、魔王との力の差は推して知るべしであり……そんな敵に対して俺達は楽勝だと言っているわけだ。


 これは決して過信しているわけではない。世界統一戦争……あの戦いで遭遇した敵が、砦の中にいる魔王と比べ遙かに強かったというだけの話だ。


「よし、行くか」

「門はどうするの? 閉められているけど」

「適当な部分を破壊すればいいだろ」


 会話をしながら俺達は城門へと歩き出す。そこで門番をしている魔物が気付いた。

 それは全身鎧姿の黒騎士……十中八九中身はないだろう。いわゆるリビングアーマーというやつで、砦に近づいてくる存在に対し反応し、攻撃してくるタイプだ。


 とはいえ、門の周辺からそう離れられないようで……俺達が間近に迫るまで手に持っている槍を構えたが襲ってはこない。


「城門周辺に敵はいないか」

「魔王の配下は全部砦の中みたい」

「確認するけど、他の魔族はどうする? 現段階で魔物をけしかけて町を攻めようとしているくらいだし、倒すか?」

「そうだね」


 ティナは同意した。同じ魔族であり、思うところはないのか……他者がいたらそう考えたかもしれないが、俺は違った。彼女はオルバシア帝国の意思を胸に刻み、帝国に仇なす存在――つまり同胞とも戦ってきたのを知っているためだ。


「では進むぞ」


 俺は剣を抜きながら足を前に出す。ティナがそれに続いた時、門番で魔物が反応。俺達へ向け動き出した。


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