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彼女を救う技法

 終焉の魔王が持っていた魔力……ティナが受けた力はごく一部のはず。だが、目前で発せられる濃密な気配は、ただ放出しているだけなのに人を殺しそうなほどの凶悪さを含んでいた。

 いや、実際に一般人がいたらショック死していたかもしれない――俺は一度後退しながら戦闘態勢に入る。終焉の魔王……その力が相手であるなら、こちらも全力で応じなければならない。


「……ティナ」


 名を呼ぶ。彼女は当然ながら声は聞こえていない様子。


 目は相変わらず虚ろなまま、俺が接近したことで攻撃しようとこちらを窺っているような状況だ。俺の魔力を警戒しているのか、それとも魔王の力が俺のことを憶えていて警戒でもしているのか。

 俺は一度大きく息を吸った。次いでゆっくり吐き出すと共に、魔力を一気に高めていく。


 ――今から使う技法は、終焉の魔王と戦った中で手にした技術。世界全てを壊す力を持つ相手に、通用する魔法技術。これが戦いの中で完成したからこそ、俺は勝者としてここにいる。

 やり方は単純で、手にした技術を剣に付与するだけ。しかし、その力は俺が持つありとあらゆる技術の上をいく……剣に魔力を込めただけで、周囲を震わせるだけの魔力が発せられる。


 俺の魔力とティナの魔力が激突し、風を生んで広間に吹き荒れる。それと共に思うことは一つ。

 すなわち――勝負は一瞬で決まる。


 刹那、ティナが動いた。右手をかざして魔法を放とうとして……俺は全速力で駆ける。瞬きをする程度のわずかな時間。俺は間合いを詰め、対するティナは渾身の魔法を放とうとしていた。

 だがそれに、俺は真正面から相対する……終焉の魔王本体と戦った時と今で決定的に違うことが一つある。それは、この魔法技術に対する練度。


 戦いが終わった後も、俺は鍛錬を欠かさなかった。その結果、無我夢中で習得した魔法技術は、さらに強力なものになった。

 終焉の魔王としての記憶があるのかはわからない。だが、もしそうだとしても、俺は相手の予想を覆せるだけの力がある……はずだ。


「はああっ!」


 先日、魔物の群れを前にしても張り上げなかった声を発し俺は剣を振る。それと共に、ティナがとうとう魔法を放った。それは極めてシンプルな光弾。真っ白い光で視界が埋め尽くされ……直撃すれば、俺であっても無事では済まないであろう、恐ろしい魔力。


 だがそれを――真正面から迎え撃つ!


 剣と光弾が激突する。直後、凄まじい衝撃が両腕を襲った。しかし、俺は足に力を入れそれに耐えて……剣を、振り抜いた。

 光弾が一気に力をなくし、かき消えた。相殺できた――が、ティナは続けざまに攻撃を仕掛けようとしていた。魔法には身振りや詠唱が本来必要だが、彼女はない――無詠唱魔法を自在に扱える。敵にいつ何時襲われるかわからない戦場において、一瞬の間に魔法を放てる彼女の力に、何度助けられたことか。


 彼女が握る杖先に新たな魔力が宿る。そこで俺は一つ察した。それを防いでもさらなる魔法が来る。俺が相殺したら衝撃で動きが少し鈍る。その間に彼女は体勢を整えて魔法を放てる……これでは勝負がつかない。

 ならば、方法は一つ……彼女の魔法を消し飛ばしながら、剣を彼女へ当てるしかない。


 俺は決心して足を前に。剣に宿る力をそのまま叩きつければ、ティナであっても無事では済まない。けれど、それをしなければ……勝てない。

 ならばどうすればいいか――彼女を救い、勝つにはたった一つ。魔法を消し飛ばしながら、彼女の体の中にある終焉の魔王の力……それだけを、剣で斬る。


 そんなことが可能なのか。全力で攻撃を弾き、それでいて加減をして彼女を斬る……けれど俺の体はできると応えた。数え切れない経験――竜もエルフも、天上の神でさえも殺めることなく倒しきった俺の剣。滅ぼすだけではない、生かす剣。それを極限状態で使い、彼女を救う――!!


 彼女の魔力が杖先で収束する。同時、彼女は杖を構えた。それは間近に迫る俺に対し防御しようという雰囲気。

 ティナは、杖術の使い手でもある。さすがに世界最強レベルなんてほどではないが、達人級であるのは間違いなく、訓練の際に幾度となく全力の剣を受け流された。


 さらに一つ障害ができた。魔法を消し飛ばし、杖術を突破し、彼女の体にある魔王の魔力を――そこで俺は、彼女について様々なことを思い出した。

 出会いから、魔法の訓練により頭角を現し始め、戦場で瞬時に多数の魔物を倒す姿……自分も役に立てることがあるのだと、彼女は微笑んだ。


 オルバシア帝国に保護されるまで、ずっと虐げられてきた。だからこそ、恩を返すために彼女は戦い続けた。世界を統一したその日まで、彼女は俺と共に戦い続けた。

 ――渾身の剣戟を繰り出す。その鋭さはまさしく終焉の魔王と戦った時と同じ……いや、それ以上かもしれない。あの戦いの際に生み出した技法。それがより洗練され、彼女へ放たれる。彼女が助かるのかどうか。それは、放たれる俺の剣に委ねられた。


 俺の剣と彼女の杖が、激突する。大量の魔力が拡散し、周囲に吹き荒れる。彼女の力が黒色と形容されるなら、俺は白。二つの力が衝突したことで、混ざり合い天へと昇っていく。

 俺とティナはせめぎ合いとなり、一時拮抗した。ただ感触からして、このまま押し込めばく杖を両断することはできる。だが、全力でそれをやれば勢いを維持し刃に収束している魔力が彼女を斬ってしまう。


 終焉の魔王を討っただけの力を彼女が受ければ、ただでは済まない……極限状態の中で、俺は誤差が許されない精密な魔力制御を要求される。ティナは剣と杖がかみ合う間にも魔法を解き放とうとしている。それを受ければどうなるかわからない。

 杖を一度弾いた上で、全てを両断する……ティナが身じろぎする。今まさに魔法を放とうとしている。だがその瞬間こそ、最大の好機だ。


 刹那、彼女がゼロ距離から魔法を繰り出そうとした――直前、ほんのわずかだけ、俺の剣を抑え込む杖の力が緩んだ。

 それは百あった力が九十九とか九十八になる程度の違いしかない。だが、俺にとってはそれで十分だった。即座に剣で杖を弾く。そして隙とすら呼べない変化を感じ取り、俺は斬撃を叩き込む態勢に入り――彼女へ目がけ、振り下ろした。


 瞬きすらできないような刹那の出来事。こちらの攻撃にティナは杖をかざし、それでもなお魔法を放とうとしていた。光が周囲を包み、俺の剣が届かなければティナの攻撃が成功して終わる――


 その時、俺は一つ確信することがあった。もしティナが……この城から出て暴れることになれば、それだけで国が崩壊するだろうと。いや、俺と同じレベルの使い手がいなければ、世界は滅ぶ。

 千年経過して、人はどれだけ力をつけたのか……詳細はまだまだわからないが、彼女を放置すれば、どうなるか……帝国のために戦い続けた、人のために戦った彼女にそんなことはさせないと、心の中で叫びながら俺は今まさに解き放たれようとしていた光を――斬った。


 彼女の魔法が消え去る。まだ剣に魔力は残っている。俺はそこで瞬間的に剣へ魔力を注ぎ、杖をも斬ろうとした時、虚ろなティナと目が合った。

 そこで、もう一つ思い出した……ああ、そうだ。


 帝都を出る前日、俺はティナと話をして、約束を交わしたんだ――


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