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世界最強の魔法使い

 ティナと呼ばれるようになった彼女の膨大な力は、言わば突然変異のようなものであるらしく、莫大な力を制御できず何もできなかったが故に、疎まれていたらしい。

 とはいえ、オルバシア帝国は違った。強大な力を制御する術を、エルフや恭順した魔族により教えることが可能……結果、訓練によりティナはすぐ自らの力を操れるようになった。


 そこから、彼女の成長が始まった。速度だけを考慮すれば俺を遙かに凌ぐほどで、魔法を次々と体得していった。圧倒的な力だけではない、鍛錬により培われた魔法技術によって、世界統一戦争においてなくてはならない存在となった。

 最後の戦い……それにも参戦し俺の横で援護を行い、世界最強の魔法使いという称号が与えられることとなった。魔族ではあったけれど、人間を含めたどんな種族にも対等に接し、心優しい性格……美貌も相まって人気が出るのも頷けるほどで、子供達の声援を受けてうれし泣きをする姿を俺は見たことがある。


 そんな彼女は、俺が帝都を離れる前には国に尽くすと言っていた……しかし、封印され今も存在している? なおかつここはオルバシア帝国から遠く離れた場所だが――


「ああ、そうか……」

「どうしましたか?」


 ふいに呼び掛けられる。世界統一戦争のことを思い出して感慨深くなってしまった。目前には情報をくれた詰め所の騎士。


「いや、ごめん。何でもない。とにかく、魔王ティウェンナールは動いていないってことだな?」


 確認の問いに騎士は頷いた。


 ――すっかり忘れていたが、この大陸で俺はティナと出会ったのだ。とすると、城というのは彼女を身代わりにしようとした魔王がいた城だろう。

 俺はひとまず魔王二人の居場所を教えてもらう。それから礼を言って俺は詰め所を後にした。


「まず、ティナの方から調べるべきだな……」


 同姓同名でなければ……いや、封印されていたということを考慮すれば、俺の知るティナだろう。どういう経緯でこの大陸にいるのかを含め、オルバシア帝国についても何か知っているかもしれない。

 これからの方針は決定し、俺は町に別れを告げて即座にティナの待つ城へ向かうことにしたのだった。






 翌日から俺は旅を始め、地図とにらめっこしながら、進んでいく。無論、その間も情報収集は欠かさない。活動的な魔王レゼッドはエリュテ王国の西側に陣取っており、なおかつ山岳地帯を背にした根城にいるらしい。山の向こうは別の国で、他国への侵攻はしていない。

 まずはこの国を……という腹づもりなのは間違いない。なおかつ拠点にしている関係上、魔王レゼッドは反対側の国にもやろうと思えば干渉できる。


「人間側にすれば、攻めにくいな……」


 だからこそ、精鋭部隊で魔王を狙うということなのだろう。大部隊を動かしても身動きが取れないためやられてしまう……そんな風に考えているのが俺にもわかる。


 移動中、その精鋭がいよいよ攻撃を仕掛けるという話が舞い込んできた。ティナの所へ向かって、その足でレゼッドの所へ向かえば間に合うかな?


「さすがに仲間に入れてくれって言っても無理だろうから、乱入という形になるだろうな」


 俺の噂を知っているはずもないし……ま、討伐隊が勝利しても問題はない。他の手段で名声を得て、過去へ帰れる方法を見つけるべく動くことにしよう。

 というわけで――俺はティナがいる場所の近くまで到達。そこは千年前とだいぶ様変わりしている……のだが、山の形になんとなく見覚えがあった。


「間違いないな……けど、ティナは帰るつもりはないと言っていたはずだけど」


 何か理由があるのだろうか? ここで俺は目をつむり、気配を探る。すると山方向から明らかに異質な魔力を発見した。それがティナの魔力であることも、俺は認識する。ただ、


「少し、違うな?」


 感じ取れる魔力はティナのものだが……何か、混ざっているように思える。もしかするとこの混ざる何かが、封印されていたことと関係あるのかもしれない。

 俺は跳ぶように駆け出し、一気にティナが待つ城へと向かう。道中は獣道などと呼べるレベルですらない険しい道だが、俺ならどうにかなる。というか、魔力で足場を作って空中を歩くことだって可能なのだ。城へ向かうことは問題ない。


 ただ城へ至る途中で、幾度となく魔物と遭遇する。それはティナの魔力を受けてなのか、かなり強い個体だった。皮膚が強固であったり、所持する魔力が多かったり……封印されていた際も、魔力が漏れ出ていて魔物が強くなったのだろう。おそらくこれにより、人が寄りつかなかったに違いない。

 そうした魔物を俺は瞬殺しつつ、あっという間に城へ到達した。そこは、もはや廃墟と呼べるくらいにはボロボロで……いや、むしろ千年経過して原型があることの方が驚くべきかもしれない。


 建物の中に入るが……正直外と中の区別がつかないレベルだ。瓦礫の隙間から太陽が差し込んでくるくらいには壊れており、気配を感じ取れなければこんなところに魔王がいるとは思えない。


「そもそも、居城だとも思わないよな、これ……」


 人間側はここにいる魔王が復活してどう思ったのだろうか……疑問を抱きつつ玉座の間だった場所に辿り着いた。過去、ティナの瞳を覗き捉えたイメージで垣間見た場所。広間はボロボロで玉座なんてものはもう存在していないが……その場所に、見覚えのある存在が立っていた。


「ティナ!」


 間違いない、と断じながら俺は呼び掛ける。統一戦争の間に成長し、世界一の美女とまで言われるようになった彼女。玉座のあった場所で立ち尽くしており、その表情はどこか虚ろだった。

 再度名を呼ぶが反応はなし。何か様子が変だ……封印されていた状況から解かれ放心状態になっている……と説明できなくもないが、人の噂に上るくらいには時間が経過している以上、その間ずっとあの状態だったとは考えにくい。


 では、一体……俺は近寄って瞳を覗く。その姿は白いローブ姿……俺が別れた時と、ほとんど変わっていない。見た目も変化がほぼないため、もしかして俺が旅をしていた千年前に、封印されたのだろうか?

 何か、読み取れないだろうか……俺はじっとティナを見据える。目が虚ろでも、魔力を通せば何かしら情報を得ることはできるはず。それをきっかけにして、彼女の状態を改善する。


 その時、俺は彼女の瞳を通してあるものを見た――それはどうやらオルバシア帝国の首都にある研究所。その一室で、白衣を着た男性――研究者と思しき人が数人集まり、何やら話をしている。


『――彼女であっても、この力は暴走するのではないか?』

『そうなのかを検証せねばなるまい。この世界で今、もっとも力を持つ魔族は彼女だ。その彼女でさえ背負えない力ならば、おそらく陛下の願い通り、あらゆる存在を、あらゆる脅威を凌駕するだけの力となる――』


 それだけ見た瞬間、ティナの瞳が揺らいだ。同時、彼女の体から魔力が溢れ出す。


「っ……!?」


 そこで、俺は一つ呻いた。理由は……その魔力に、心当たりがあったためだ。


「終焉の魔王……!?」


 最後の最後、千年前の世界統一戦争……そこで戦った、世界を滅する力を持つ最強最悪の魔王と同質の力。

 いや、先ほどの垣間見たことが事実ならば……終焉の魔王が持っていた力を、彼女に付与したのだ。


「まったく……そんなことをしてアゼルが喜ぶとでも思っているのか!?」


 千年前にいなくなった研究者へ叫び――途端、ティナから爆発的な魔力が生まれ、廃墟と化した広間を包み込んだ。


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