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7 変な人


 奇妙な間のあと、金髪のイケメンはあたしの手をゆっくり話すと、逆に握ってきた。そしてそっと立ち上がらせられる。そういえば、座り込んだままだった。


「ごめんよ、そのままにしていくところだった」


 などと言われて首を振る。


「俺……僕はアル。今日伯爵家に訪問する予定でね。聞いてないみたいだね」

「はぁ、聞いてないな。あ、俺でいいよ」


 僕とか胡散臭いし。

 しかし、そうか、伯爵家の客か。だれか来るなんて朝の朝礼ではきいてない……。

 あ。時間がいつもより早いって聞いてなくて、遅刻して怒られたんだっけ。あれあたし悪くないでしょ。あたしに時間報告し忘れたメイドが悪い。忘れたのかわざとなのかちょっとわかんないけど。


「それで、アル……さんは道に迷ってしまったわけ?」

「アルでいいよ。そういうことになるのかな? まぁ、大丈夫、前にもこの辺りにはきたことがあるから、正面入り口まで戻れるよ」

「じゃあアルはなんでこんなところまできてんの?」


 思わず疑うような視線を向けてしまう。

 アルは困ったように笑うのみだ。散歩しててこんなとこまできたって言ってたけど、呑気にも程があるだろうよ。人の家で。

 そこであたしは気づいた。前にもきたことがあるなら、伯爵家と深い繋がりのある貴族だ。ということは身分はそれなりの人ということになる。例えば伯爵家より上の可能性もあるのだ。

 あわててこれまでの言動を見直そうとする。あんたとか言っちゃった気がするんだけど!

 内心で焦るあたしをよそに、アルはあたしが持ってるドレスの残骸を指差した。


「それ、どうしたの?」

「え?」


 慌てて背中に隠す。なんとなく、知られてなんか言われるのが嫌だった。虐められてるとか思われるのも嫌だし。

 かといって自分でやったというのはちょっと、かなり無理がある。


「えーっと、アルは気にしないでいいから……」

「誰かにやられた? 変だな。ここの召使いたちはみんなしっかり教育されている印象だったんだけど」

「……そんなん、お客の前ではそうだろうけど……人の裏なんてわからないもんだよ」

「……それは、そうだね」


 困ったようにアルが笑う。そしてさっとあたしの隠していたドレスの残骸をうばっていった。


「ちょっと!」

「うわぁひどいな。ナイフでザクっとって感じかな? いや、裁ち鋏かな。洗濯係か……わからないな。誰でもできるけど……」

「ちょっと返してよ!」


 あたしは相手がそれなりの身分だろうってことを忘れて思わず叫んだ。そしてさっと奪い返す。


「いいんだよ。犯人探しする気もないし」

「そういうわけにはいかないだろう」

「いーの。誰がやったかわかったら、フレデリカが悲しむし」

「フレデリカが?」


 失言。


「なんでもない。とにかく正面玄関いってください。お客様がいないってなって探されてるかもしれないですよ」

「ああ、それはそうだね。でもそれはそれ、これはこれ。やっぱり言った方がいいよ」

「いいって」

「でも……」

「ああもう! しつけーな! あたしがいいって言ってんだから良いんだよ! 無関係なんだから口出しすんなよ!」


 驚いた様子の相手にしまったとは思うけどしょうがない。だって。


「しつこい男は嫌われるよ」


 あたしは唇を突き出して、不貞腐れたポーズをとる。それでこの男がどういう反応をするのかはわからないけど、とにかくもう関わってほしくないんだ。

 ふっと、吹き出す音が聞こえた。


「あ?」


 胡乱に思って睨みつけると、クスクスと肩を震わせてわらい、やがて声をあげてわらいはじめた。


「あはははっっ!!! くくっ、ふふふ! 君、君それは口が悪すぎてびっくりだよ! 女の子なのに! ふふふっしかもそんなこと言われたことないよ」

「そ、そりゃ! 貴族は言われ慣れてないかもだけど……こんなん普通だろ! 普通! いや、かなり口は悪いのは自覚してるけど、って笑うなよ!」

「ははははは!」

「こんのっ」


 あたしの顔多分赤くなってる。こいつ絶対泣かす! そんなに笑わなくたって、なんかすごい変なこと言ったみたいじゃんか!


「レナ?」


 頭上から声が聞こえて、あたしとアルふたりで空を見上げる。

 バルコニーから、こちらをのぞいていたのはフレデリカだった。


「フレデリカ! 危ないから身を乗り出すなって!」

「あ、ごめん。じゃなくて、え、あの、殿下?」

「電化? 何?」


 でんか?


「あの、そこで何をしていらっしゃるのですか?アルクス殿下?」


 殿下?


 

 「え!?」


 あたしはたぶん、ここ数日で一番驚いたに違いない。

 唖然とするあたしをみて、アルが……アルクス殿下が余韻を引きずったまま肩をふるわせている。そして目尻に溜まった涙をぬぐい顔を上げた。


「やぁ。はじめまして。俺はアルクス・ワードライト。よろしくね、お嬢さん」


 アルクス・ワードライト。

 王位継承第一位。国王の息子。


「は?」


 あたし、またやらかした!

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