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6どこのどなた様?


 ズタボロの普段着用ドレスをもって、私はため息を吐き出した。

 これ、今はあたしのだけど、前はお嬢様、つまりフレデリカのものだったわけで、それにこんなことできる神経が理解できない。


 あの日、あたしがフレデリカに迷惑をかけているっていう話が、いろいろな噂とあわさって、すごい速さで屋敷中に広がっていっていることを知った。

 それからこんなことが起き始めた。

 侍女なのに、寝室のベッドメイキングもできないし、毎日のフレデリカの朝の準備も手伝えない。おやつを持っていくのも許されなくて、なぜか洗濯とかさせられている。

 侍従たちには無視されて、食事もなんかあたしだけ質素な感じ。

 これがいじめか。

 正直に思ったことを言っていいだうか。


 暇人か。


 私は不良だったけど、いじめはしなかった。だってみっともないことだから。それより私は義理と人情大事に仲間とバカやってる方が楽しかった。だからいじめとは縁がない。学校では怖がられていたから、いじめを止めに入ったからといって、逆に標的にされるとかそう言うこともなかったし。つまりこんな経験はまったくない。

 ただ経験してみて言えるのは、面倒臭いってことだけだ。


 ご飯が少ないのは少し困るけど、仕事がないわけではないし、黙々と作業するのは結構好きだったらしい。毎日それなりに充実してる。

 ただ、フレデリカからもらったものをめちゃくちゃにされて、こんな庭に捨てられるのは我慢ならない。今日は草むしりしてこいって、庭師の仕事を押し付けられたのは、多分これを見つけて悲しがる姿を見たかったのかも。

 暇人かよ。

 あきれて何も言えない。ともかく、裁縫が得意ってわけでもないから、このドレスは直せそうにないし、フレデリカにバレないように隠さないと。

 私は庭の木々のかげに隠れるように進んだ。

 もし散歩してるフレデリカに見つかったら困るし、他の侍従たちがみて、馬鹿にされるのもうざいからだ。

 

 もうじきお屋敷の裏口だっていうところ。

 ふぅとため息をはいて、木陰から走り出した瞬間、何かと正面衝突した。


「うわっ!」


 声を上げてあたしは盛大に前のめりに倒れた。


「「いたたた……」」


 ん? 声が二重に聞こえる?


「ごめん、ちょっと、退いてくれる?」


 はっと目を開くと、目の前に青い瞳。めちゃくちゃ整った顔の美男子が私を下から見上げていた。

 下から。

 下?


「うわぁ! ごめん!!!」


 倒れた相手の上に全身を預けた形になっていた。慌ててあたしは体を起こす。


「こちらこそ。でもいきなり飛び出してくるから驚いたよ」

「あ、慌ててて……」


 座り込んだままで言い訳をする。相手も服についた芝をはたいている。相手の様子をあたしはそっと伺った。


 いい服を着てる。縫製が良さそうだ。質も。でもそこまでゴテゴテしてない。普段着? 軽いシャツってとこか。タイもしめてないし……。

 フットマンとかバトラーではない。庭師という感じもしない。誰かの付き添いできた従僕? それとも身分を隠した貴族か?

 生憎と見た目ではよくわからなかった。

 ただ随分と綺麗な金髪をしている。目の色も、さっき見た感じだとそうとう澄んだ色をしていた。見目もいい。多分イケメン。


 あたしが観察している間、相手もこっちを観察していた。


「伯爵家の人? 侍女?」


 こくこくと頷く。

 相手は得心が言った様子で頷くが、あたしには誰なのかよくわからない。


「すまない。ちょっと散策していたら、随分裏まできてしまったらしいな。すぐに戻るよ」


 会釈して去ろうとする男を、私は慌てて袖をひいて引き留めた。

 だって、どこの誰かわからない人が敷地内を闊歩しているなんて、もし見逃して、どこぞのパパラッチとかだったらどうすりゃいいんだ。

 あたしの責任になるじゃんか。

 あたしは、相手をにらみつけて、とりあえずたずねる。


「その前に、あんたは、どこのどなた様?」

 

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