19 初心でわるいか!
端的にいえば。
逃げ出しました。
だって! あんなん初めてだもん! びっくりしたんだもん! いや、びっくりするだろう!
地面にうずくまって深呼吸をする。そうすると自然とアルクスの腕の中にいたときの体温を思い出して……。
「ああああああ!」
はずかしい!
悶々と考えてみると、そういえば随分前からアプローチされてたような気がしたきた。城で働かないかって言った時も、あたしのこと好きって、好きって……。
「好きってそういう意味かい!!!」
あたしは1人で城の庭の木々の間で叫んだ。
ここはあたしのいい逃げ場だ。誰も来ないし。っそれはどうでもよくて。
「はぁ」
思いもよらないとは思わないかね。
相手は王子だ。むしろフレデリカとお似合いーとか思ってたくらい。年齢もあっちの方が上だし、あたしはガサツすぎて売れ残った令嬢だし。そもそも子爵だから価値もない。
王子といったら政略結婚は免れられないし、恋だの愛だの言ってもそんなの遊びで終わる……。そうなのだ。遊びの範疇でしかないはず。
でも、好きって言われた。
「どこまで本気なのかな……」
仮にうまくいくとしたら、それはまるでシンデレラだ。
あたしはシンデレラほど心優しくも、美しくもない。ガラスの靴より団子がいい。花より団子。靴より団子だ。そんなあたしのどこに王子様が惚れる理由があるってのよ。
そりゃ、アルクスはかっこいいし? 話しててたのしいし、す、す、す……。
「好き……」
うわぁ。
呟いてあたしはまた頭を抱えてうずくまった。
やばい。やばい。告白されたら意識しちゃうでしょ。そしたらほら、いつもの距離の近さとかが気になってしまう。もしかして、色々ミゲルさんも知ってて忠告してきたんだろうか。そりゃ言いづらいよね! アルクスにバレたらミゲルさん怒られそうだし、あたしミゲルさんに言われたことぜったいアルクスには言いません。
とにかくアルクスからは逃げている。
今はとにかく、あったら何言うか、というか言われるかわからないから……。
「レナ! どこだ」
あああああああ! なんでくる!?
あたしは全力で逃げた。逃げました。
木々の間をぬって、城の中に直行する。一瞬視界にアルクスが映った気もするけど気にしない。見えなかった!
そう言い聞かせてあたしは走った。
それからはお茶を持ってくるように言われてたも仮病なり使って他の人に頼む。不敬? 知ったことか! それどころじゃないってんだよ!
掃除もアルクスがいない間にこそっと。他にも色々とにかく避けに避けまくった。
だって、顔見ただけで憤死しそう!
迷惑かけるかもとか悩んでいたのがバカらしくなるくらいだった。
ある時シルビアに
「まだいらっしゃったの?」
とか言われたが、それどころではないので、正直に「それどころじゃない!」って言ったら全力で引かれた。どうでもいいけどあたしをそういう珍獣を見るような目で見ないでほしいんだよね。主にメイドさんたちとか。
あとミゲルさんとか。
ミゲルさんはそういえば、あの謎の告白ののち会ったが、ひどく不憫なものをみるような目でみられた。どういうことだ。哀れまれる筋合いはないと思うのだけど。頭のいい人の考えは読もうとして読めるものじゃないから気にしないようにしよう。
ともかく、あたしは今いっぱいいっぱいだった。
初心だって?
鈍いって?
悪いか!!