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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~子供のためのサンタマン編~
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弟子、ヨーローレーイヤッホッホー

 想像していなかった返答に、ピーリカは顔をしかめている。


「素直になりやがれですよ。本当は一緒に帰って欲しいんでしょう。おあいにく様、どんなに説得されてもサンタマンを連れてこない限りわたしは降りねーですよー!」

「好きにしろよ。寒いから俺は先帰るわ」

「待てです、かわいい弟子を置いて行くですか!?」

「寒いんだよ」

「そんな理由でかわいい弟子を置いて行こうだなんて許せない! 師匠なんて何もない所で転べばいいのにです!」

「じゃあな」

「ほ、本当に帰る気ですか!?」


マージジルマはほうきに跨り、ふわりと宙を浮いた。本当に弟子を残して帰ろうとしている彼に、一応シャバが声をかける。


「マージジルマ、本当にピーリカおいて行く気?」

「だって寒いからな。お前らも早く帰れよ。魔法使えばピピルピ以外は空飛べるんだから、目の前の道通れなくても上から通れるだろ。ピピルピは別に置いて行ってもいいんじゃないか。むしろ子供へストレスを与える用として置いておいた方がピーリカ達も早く帰るって言い出すかもしれない」


彼らの話を聞いたピーリカは、何故そんな酷い事が出来るんだと思っている。

同じく彼らの話を聞いたピピルピは、ストレスを与える気はないがピーリカ達と一緒にいて良いというのはとても素晴らしい案だと思っている。


「外に出られないのは困るけど、ピーちゃんとエトちゃんと一緒にいられるなら良いわ。三人でここに暮らしましょう!」

「こっちからお断りです。おい黒マスク、その変態連れて帰って下さい!」


名指しで頼まれたシャバはピピルピの腕を掴んだ。だが目線はピーリカ達に向けている。


「ピピルピ送るくらいは良いけどさぁ、ピーリカ達も帰んなよ。マージジルマ絶対喋んないよ」


心配されているピーリカだが、彼女は自信満々に答えた。


「そんな事ないですよ。師匠は寂しがり屋ですから、かわいい弟子がいつまでも帰って来なかったら寂しくて死にます。死を回避するには喋るしかないんです」

「マージジルマが寂しがり屋とか初耳だなぁ……」

「貴様は師匠の事を分かってねぇですね」


そんなシャバに、マージジルマは無言のまま『そいつの言う事は無視しろ』と言いたげな視線を送ってくる。

シャバはピーリカ達を残して帰る事に躊躇いがあるものの、自分の弟子でもない彼女達をどうする事も出来ずに。


「じゃあ帰ろっか」


色々と諦めた。彼の言葉を聞き、青と黄の民族代表も頷く。


「まぁ国には防御魔法かかってますし、緑の領土内ならそこまで物騒でもないですからねー」

「せやな。子供でも放っておいた方がえぇ事もあるやろうしな」

「じゃあ……ロロルレリーラ・ル・ラローラ」


イザティが呪文を唱え、彼女の足元に現れた魔法陣。そこから噴き出た水の柱は、わずかに水しぶきをあげた。柱は形を変え曲線を描き、その麓には水上バイクが浮かんでいる。

水上バイクにまたがるイザティ。ハンドルを掴み、皆に挨拶を送る。


「それじゃーお先に失礼しますー」


前を向いたイザティはバイクを操作して。水をかき分けて走っていく。

その光景を見ていたマージジルマとシャバは関心する。


「アイツ意外と豪快だよな」

「普段は泣き虫なんだけどな、怒るとバズーカ撃ったりするし。まるで勇ましきマーメイド」


青の魔法が消えたものの、周囲の葉には水滴が残っている。

シャバはピピルピの腕を掴んだままだ。


「じゃあオレも帰ろっと。ピピルピ、一緒に帰るよ」


ピピルピは悩んでいる。


「でも残ってピーちゃんとエトちゃんとイチャイチャするのも魅力的」


悩み自体はそこまで大したものではない。


「オレで我慢して」

「はぁい」


そしてピピルピはイチャイチャ出来れば誰でもいい。


「レルルロローラ・レ・ルリーラ」


赤の魔法で召喚された火の鳥。大きな翼を広げ、周囲の葉についた水滴を蒸発させる。


「じゃあ帰るけど、ほとぼり冷めたらその木どうにかしなよ。やっぱり邪魔だよそれ」

「皆またねぇ」


シャバとピピルピは火の鳥に乗り込み、空へと羽ばたく。

鳥を見送ったパンプルの大きめな腹が、グウと悲鳴をあげた。


「さてと、余分な水滴もなくなったし。ワイも帰るで。はよせんと昼飯に間に合わへんからな。レレロルラーラ・レ・レリーラ」


唱えられたのは黄色の魔法。パンプルの足元に魔法陣が現れ、その上にモクモクと浮き出た灰色の雲。バチバチっと音を鳴らす雷雲。

雲の上に腰を掛けたパンプルは、ふてぶてしい表情をしたマハリクに対して声をかけた。


「ばーさん、弟子……というか子供には優しくせなあかんよ」

「ふん」


マハリクはパンプルから目線を背けた。彼らの横ではマージジルマが「ババアが人の言う事聞く訳ねぇ」と言っている。

パンプルの乗った雲はふわりと浮き、宙を漂う。


「ほな、また」


次々と代表は帰って行き、残った代表は緑と黒。

マハリクはじろりと弟子達を見つめた。先ほどの事もあり、ピーリカは若干ビビっている。逆にエトワールは平然としていた。マハリクの怖い顔には慣れているらしい。


「エトワール、お前も帰る気はないのかい」

「はいお師匠様。置手紙もしてまいりましたが、私はしばし旅に出ます。サンタマンを探しお礼を言う旅を」

「……お前がそんな事を言うとは思わなかったよ。まぁ好きにしな。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


緑の呪文により、現れたのは太い草の蔓でできた巨大な龍。先頭部はマハリクの体を丁寧に押し上げ、空高く上り舞う。

そして残る代表はマージジルマだけになった。その状況にピーリカは怒っている。


「大人が子供を置き去りにして次々と帰って行く! なんて薄情な大人達だ、ひどい奴らです!」

「置き去りも何もお前らが帰らないって言ってんだから。薄情もクソもねぇよ」

「そんな事ないです。それで、師匠は言う気になったですか? 実は恥ずかしがり屋なサンタマンのためを思って皆の前ではワザと言わなかったのではないですか?」


ピーリカの願望を聞き、マージジルマはニコリと笑った。彼女は思わず、ドキリと胸を弾ませる。

しかし。


「そんなんじゃねぇよ。じゃ、帰る!」


ただそれだけを言い残し、ピューっと空を飛んで行ってしまった。ピーリカは悔しそうに木の床を殴る。


「あのダメ師匠、かわいい弟子を置いて行くなんて信じられねーです!」


置いて行かれた事も悔しいが、そんな男にときめいてしまった事も少し悔しく思っている。

ピーリカの肩に手を添え、エトワールは申し訳なさそうな顔をした。


「何だか心苦しいですし、ピーリカさんは帰っていただいても結構ですよ。それにピーリカさんの所にはまだサンタマンが来てくれるかもしれないのでしょう?」

「いいえ、こうなったら付き合います。師匠が帰って来てって泣いてすがるまで帰りません」

「……マージジルマ様がそんな事するとは思えませんが」


エトワールはとうとう耐えていた言葉を言ってしまった。だがピーリカは常に前向きだった。


「そんな事ないです。だって師匠はわたしの事がとっても大事ですからね!」


ほぼ願望である。


「そうでしょうか……」

「そうですよ。だからきっと、ここにいれば師匠も泣いて戻って来るです。まぁ、それまでは暇でしょうからね。遊んでやってもいいですよ」


ピーリカには師匠を当てにすることなくサンタマンを探しに行くという発想はない。それどころか年の近い友達のいないピーリカは、エトワールと遊びたい気持ちもあった。

逆にエトワールはサンタマンを探しに行くという発想はあったものの、どこにいるか分からないサンタマンをやみくもに探すよりは、マージジルマを問い詰めた方が早いと考えた。だからこそ彼の弟子であるピーリカを引き留めるために、彼女の願い通り遊ぶ事を試みる。


「まぁ勉強だけではなく遊ぶ事も必要だと聞きますし。ではブランコで遊びましょう。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


ピーリカ達がいる穴の真横にある枝の上に、魔法陣が光り輝く。そして太目の丸太と蔓で出来たブランコが設置された。

ピーリカはパッと顔を明るくさせ、再び蔓を地面へと垂らす。穴から降り、ブランコへと一目散に駆け寄ったピーリカ。エトワールもブランコの前まで移動。二人で並んで座っても余裕のある大きなブランコ。二人揃って片側の蔓を掴み、一斉に揺らす。


「ヨーローレーイヤッホッホー!」


謎の曲を歌いだすピーリカは、もう師匠への悔しさは忘れていた。

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