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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~子供のためのサンタマン編~
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弟子、好奇心に負ける

 パンパンに詰まったリュックサックを背負っていたエトワールは、かけている眼鏡の淵をクイっとあげる。


「やはりお礼は本人に直接言うのが筋かと思いまして。しばしサンタマンを探す旅に出ます」

「サンタマンを!?」

「えぇ。お師匠様にもお話を伺おうとしたのですが、サンタマンは来ないとしか説明していただけませんでした。もしかしたらお師匠様はサンタマンの死を伝えたくなかったのかもしれません」


マージジルマの適当な言葉を信じている子供達。ピーリカは首を傾げた。


「でも死んだ奴を探しに行くって、どうするですか。お墓があるですか」

「そうですね。まずはお墓のあるロフィーナーレに向かいます。ですがあそこは人間用の墓地。サンタマンのような妖精のお墓があるかどうかは分かりません。もしなかったら、他の場所を探しに行きます。他にもサンタマンはいるでしょうから、その者達も探します」

「探すったって、サンタマンたちは恥ずかしがり屋です。そんなに簡単に見つかるですかね」

「分かりませんが、私はどうしても今までのお礼が言いたいのです。それに恥ずかしがり屋のサンタマンの姿を見てしまったとしても、私の元にはもうサンタマンは来ない事は決まっていますから。見つけても問題はないはずです」


エトワールは少し寂し気な表情をした。

そんな彼女を大人っぽいなと感じたピーリカだが、悔しいので口にはしない。わたしだって大人っぽく出来る。そう思っている。


「そ、そうですね。でも貴様、旅に出たらすぐ帰って来れないんじゃないですか。ご飯はどうするですか」


旅をする事に対し危険よりもお金よりも、まずご飯の心配をするところがピーリカらしさ。エトワールはリュックサックをポンポンと叩く。


「多少の食料はお小遣いで買ってきました。ですが私だって緑の魔法使いの弟子。困った時には果物を実らせるくらいは出来ます」

「ほう、それは良い魔法ですね。あっ、そうだ。師匠は。ばーさん今会議してるでしょう。黙って旅に出たら心配するですよ。私の師匠だってわたしが急にいなくなったらきっと泣きます」


マージジルマ様が泣くとは思えない。そう思ったエトワールだったが余計な事は言わない。彼女は無駄な争いをするデメリットを考えられる少女であった。


「お師匠様には修行の旅に出ると置手紙をしてまいりました。旅をする事は自身の成長に繋がります。嘘はついていません」

「なるほど……貴様も賢いですね」

「貴様……も?」

「えぇ、わたしも天才なので」


エトワールは余計な事は言わないよう気を付けている。


「お褒めいただきありがとうございます。では、私はこれで」


深く頭を下げて、エトワールは歩いて行ってしまった。

ピーリカは迷った。

師匠曰く自分はまだサンタマンに来てもらえるらしい。つい先ほどゆっくり大人になってもいいと思ったばかりだし、何よりもらえるものは全て欲しい。

だがそれはそれとして、未だ見た事のないサンタマンを見てみたいという気持ちもあった。サンタマンを見てしまったら、もう二度と来てもらえなくなるかもしれない事は十分理解している。しているけれど。


「ま、まてです。一人じゃ心細いでしょう。わたしは心優しいのでついて行ってあげるです!」


好奇心に勝てなかったピーリカは、エトワールを追いかける。



 ロフィーナーレに到着した弟子二人。並んでいる墓石の一つ一つに目を向けて、あれじゃないこれじゃないを繰り返す。

そんな事をしている間に、ピーリカにとって見覚えのある名前の墓の前にたどり着いた。ピーリカはその場にしゃがみ込み、手を合わせる。その様子を見たエトワールはピーリカに訊ねた。


「お知り合いですか?」

「友達の大事な人です。なむなむ」


そういえばサイノスを探すの大変だったなぁ、と思い出すピーリカ。思い出している内に、ある謎が浮かび上がる。

ピーリカはエトワールの顔を見つめた。


「サンタマンって実在します?」

「するに決まってるでしょう。そうでなければ誰がお菓子を配っているというのですか」

「そうなんですけど、人を探して存在しなかったガッカリ感を知っているだけにですね」

「それにマージジルマ様だってサンタマンと連絡を取ったと言っていたではありませんか」

「おぉ、確かに。んん、いえ、分かっていましたとも」


絶対に分かってなかったでしょうに、と思いながらも。エトワールは眼鏡の淵を軽く持ち上げる。


「いっその事、マージジルマ様にお聞きしてしまいましょうか」

「うーん。師匠が素直に教えてくれるとも思えねーですね」

「あぁ、お金ですか?」

「そうですね。お金を払えば教えてくれるでしょう。それか、わたしが危険な目に合えば助けてくれるはずですので……エトワール、わたしの事誘拐します?」


ピーリカの提案に、エトワールは少しだけ表情を歪ませた。


「誘拐……してもいいんですけど、そうしたら私は犯罪者ですね」

「そうか。エトワールは緑の魔法使いでしたね。黒は魔法が魔法だから多少の悪い事は許されるですが緑はそうもいかない」

「えぇ。なのでここはピーリカさんが私を誘拐するというのはどうでしょう」

「誘拐するのは構いませんが、エトワールだと師匠が動くかどうか。わたしは師匠にとって、すっごく可愛い弟子なので誘拐されてもきっとタダで助けてくれるですけど、エトワールはばーさんの弟子ですからね。もしかしたらわたしからエトワールを助け出した後、ばーさん相手に引き渡し代を要求する可能性があるです」

「そんな!」


マージジルマは相当がめついと思われているようだ。

ピーリカは頭を抱え、どうすればエトワールの願いを叶えられるかを考える。


「分かった、自分で自分を誘拐すればいいです。サンタマンに会わせてもらえるまで、師匠達の元へは帰らないのです。師匠の事ですから、わたしが長い事帰らなかったら寂しくて死んじゃいます。ばーさんだって、きっと寂しい老後は送りたくないでしょう」

「なるほど。ボイコットですね」


ピーリカは大きく頷く。だがボイコットが何か正直よく分かっていない。


「あとエトワール、貴様の親は?」

「両親ですか? 緑の領土にある学び舎で子供達に勉強を教える仕事をしておりますが」

「違うですよ。エトワールだって、まだ自分でご飯作れないでしょう。親がご飯作ってくれるですか? それともばーさんが?」

「食事は母が作ってくれます。お師匠様の分も作って毎日届けてくれているのです」

「それは優しいですね。ですがわたし達が帰らなければ、その食事は誰にも食べられずに捨てられてしまうかもしれません」

「……なるほど! 食材を無駄にするだけでなく、成長期の私達に食事を与えない事になる。世間体としても悪いですし、それを改善するには私達の要求通りサンタマンの居場所を教えるしかないと。素晴らしい考えです!」


ピーリカは大きく頷く。そこまで考えてなかった事は内緒である。お腹が空いたら皆わたしを可哀そうって思う、くらいにしか考えてなかった。


「そうでしょう、そうでしょう。では早速、師匠達の元へ戻って要求するです」

「はい!」


常にとんでもない事をしでかすピーリカと、生真面目過ぎて一周回ってとんでもない事をしでかすエトワール。真逆に見えて実は似たもの同士だ。二人は足並み揃えて師匠達のいる建物の前へと戻って行く。



 建物の前に到着した二人。建物の前は開けている草むら。


「ところでピーリカさん。相手は一応代表。ただ要求するだけだと無理やり連れ帰らされてご飯を食べさせられてしまうかもしれません」

「そうかもしれねーですね。じゃあどうしましょう」

「ここはひとつ、私にお任せ下さい。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


唱えられたのは緑の呪文。開けた草むらの上に魔法陣が光った。

魔法陣の中から生えてきた一本の小さな木。みるみる内に成長し、大きな木になり。建物の前と繋がる道を封じてしまった。木の中央には大きな穴が開いており、その中から草の蔓が垂れている。エトワールが草の蔓を引っ張ったと同時に、木の下にあった魔法陣は消えた。


「すごい、大きな木です!」

「これならすぐに連れて行かれるという事はないでしょう。ここを拠点にしましょう」

「木のお城という事ですね。悪くないです」

「お城というよりは隠れ家をイメージしましたが、お城というのも悪くないですね。では登りましょう」


蔓を掴み、木をよじ登る弟子二人。穴の中に入ると、丸い空洞になっていた。子供二人にとっては十分広さ。エトワールは蔓を巻き取り、穴の淵に置いた。


「これで誰も登ってこれません」

「登りたい奴は要求に応じろって事ですね」

「私達も降りられません」

「かわいいわたしに会いたくば要求に応じろと」

「まぁそうですね」


ピーリカの自信の強さをエトワールはさらりと流した。

そこへ丁度、建物の中からわらわらと出てきた代表達がやって来る。

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