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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~子供のためのサンタマン編~
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弟子、ちょっとだけ考えが変わる

 マージジルマはピーリカを抱いていない方の腕を上げ、耳を抑える。


「何だよ、皆揃ってうるせぇなぁ」


きっと全員が思っているであろう事を、代表してシャバが言う。


「うるせぇじゃない。何でそんな所にピーリカ入れてるんだよ」

「寒いっつったろ。コイツ子供だから体温高いんだよ」

「それじゃさっきのピピルピの事言えないじゃん」

「俺はあんなバカみたいに薄着じゃないぞ」

「人肌求めて弟子触ってんだろ?」


マージジルマは目線を逸らした。


「……目的が違うから俺とピピルピは違うと思う」

「せめて目を合わせて言えっての」

「俺は下心とかないから」

「それはそれで問題だって気づいて親友」


目線を逸らしたままのマージジルマ。

そんな彼に対しマハリクが怒る。


「いい加減にしな! いくら弟子でもここは本来代表以外立ち入り禁止だよ!」


マハリクの鬼のような形相に、ピーリカは思わず体を震わせた。だが逃げはしない。自分の方が強いと信じている。

弟子が怯えている事に気づいた師匠。


「喚くなよ。ピーリカがビビってんじゃねぇか」

「お主のせいじゃろ!」

「大丈夫だって。つい声かけはしちゃったけど、ピーリカの耳は何も聞こえなくなるよう呪いかけてある。と言っても一時的にだけだけどな。この建物出た時点で解けるようにしてあるから、何も問題はない。ラミパスも連れてこなかったし、心配すんなよ」

「心配はしておらん。ただ怒っているだけじゃ」

「そうかよ」

「そうかよじゃない、反省せい!」


マージジルマから反省しているような態度は見られない。それどころか彼はピーリカの両耳に軽く、自身の人差し指を突っ込んだ。これもまた暖を取っているだけ。といっても、彼女の小さな耳では本当に指先しか温まらない。

そんな暖房扱いでもピーリカからしてみれば、撫でられているのと同じような状態でしかなかった。ただでさえ抱っこされただけで胸が弾けそうなのに。

彼女が怯えた事には気づいたマージジルマだが、彼女の想いに気づく事はなく。彼はイザティの方を向いた。


「おいイザティ、お前裁縫得意だろ。ピーリカのワンピースにデカいポケット二つ、くっつけてくれ。俺が手ぇ突っ込むから」


マハリクが「まだ話は終わっとらんぞ!」と怒っているがマージジルマは無視。

イザティは泣きながら頼まれ事を拒否した。


「またマージジルマさんがパシリにしようとしてるー、嫌ですー。それにセクハラ―」

「失礼な。どこがセクハラになるんだ」


そんな事を言う彼の目の前に現れた一人の影。


「全てにおいてセクハラよ!」

「うわっ!」


いつの間にかマージジルマの目の前にやってきたピピルピは、彼の顔を両手で掴んだ。マージジルマに抱えられたままのピーリカは、突然近寄って来たピピルピの胸をぺちぺちと叩く。だがピピルピは気にせずマージジルマに問う。


「マー君、本当にピーちゃんの事なんとも思ってないの?」

「ない」

「ピーちゃんが『ししょーらぶらぶワンナイトしましょー』って言って来たらどうする?」

「ピーリカがそんな事言う訳ないだろうが。俺はお前と違って、やらしい意味でガキに手ぇ出す気は微塵も無いんだよ」

「じゃあこれは何なの? そんなに抱きしめて、女の子として見てるんじゃないの?」

「暖房として見てるんだよ」


ピピルピは眉を吊り上げ怒る。愛を愛する桃の民族として、彼の発言は許せずにいた。


「もう! マー君は人の扱いが雑すぎるのよ! 好意がないのに女の子に触らないで頂戴。どんなに子供扱いしてても、ピーちゃんだっていずれは大人になるのよ」


マージジルマは渋々ピーリカの耳から手を離した。

誰にでも好意を持つピピルピは、その隙を狙ったと言わんばかりにピーリカを自身の胸の谷間に埋めさせた。ピーリカは師匠の膝上に座ったまま、ピピルピの胸の中で暴れる。

そんな彼女達を見ながら、マージジルマはボソリと呟いた。


「……分かってるから暖房として見てるんだろうが」

「どこが分かっ……意識しないように暖房として見てるの?」


ピピルピからの質問に返事をする事なく、マージジルマは無言になった。肯定もしてないが、否定の言葉もない。

手のひらを反すように、ピピルピは笑顔になった。


「もう、マー君も素直じゃないんだから。そういう事ならガンガン触りなさい。触る内に芽生える愛だってあるわよ」

「……さっき触るなって言ってたじゃねぇか」

「中途半端はやめなさいって言ってるのよ。ピーちゃんが大人になったら手を出す可能性がゼロじゃないって言うなら、触ったって構わないの。ゼロだって言い切るなら触らないであげて。期待させたら可哀想でしょ」


ピピルピはピーリカに手を出す可能性がゼロではないので彼女に触りまくっている。

ピピルピの言葉に、何か思う事があったのか。マージジルマはジッと弟子を見つめた。

その時だ、シャバが気まずそうに声をかけた。


「あー。ピピルピ、マージジルマ。ばーさんの顔見てみ」


そう言われて一斉にマハリクの顔を見る二人。

ものすごく怒った様子のマハリクを、青と黄の代表が必死になって抑えつけている。


「すげー怒ってんな」

「ちょっとお喋りし過ぎたかしら」


マージジルマは膝上からピーリカを降ろし、出入口を指さした。耳が聞こえなくなっているピーリカだが、流石に師匠の言いたい事を理解して。


「分かったですよ。わたしお利口さんですから。お外で待っててやるですね」


そう言って外に出て行った。普段のピーリカならどんなに周りの者が怒っていようとその場に留まったのだが、今ばかりは逃げ出して頬の熱を冷ましたいとも思っていた。


「ほらよババア、これでいいだろ」


弟子が外へ出た事を確認し、マージジルマは開き直る。


「いい訳があるか。見聞きされなければ良いという訳ではない、これは規則なんだ! いくら将来代表にさせるとはいえ、許されんぞ!」

「ラミパスだって代表じゃないだろうが」

「あれは元代表だから仕方ない。大体、お主のような特例だってワシは認めてない。二つの代表だなんて、どうかしている」

「どんなにババアが認めなくてもこの席は俺のもんだ。どう使おうと勝手だろ」

「そうやって自分勝手な行動をする事が代表としてふさわしいとでも思っておるのか!」


何だかんだと言い合いが始まり、次第に喧嘩へと発展。


「あれ放っておいていいんですかー」

「いいんだよイザティ、いつもの事だ。入り込んだら怪我するだけ」


青以外の代表は皆諦めて喧嘩の様子を見ていた。


           ***


 ピーリカは森の中で切り株の上に座り、体に冷たい空気を当てる。頬に手を当て、まだ冷めそうにない熱を確認する。

子供扱いされた事に腹は立つものの、子供でなければあんな事はされなかったかもしれない。嬉しそうに笑って。


「……ゆっくり大人になってやるのも、悪くねーかもしれねーですねっ」


ちょっとだけ考えが変わった。

そんな彼女の前に、ある少女が通りかかる。


「おや、ピーリカさん。先ほどはどうもありがとうございました」


耳にかけられた呪いは解けられている。少女の声はピーリカの耳に、しっかり届いた。


「おぉエトワール。そんな大荷物で、どうしたですか」

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