師匠、放火を要求する
シャバからの問いにマージジルマはどうでも良さそうに答えた。
「別にいてもいなくても変わんないだろ。寒さで風邪引いたら厄介だし、置いて来た。アイツは暖房にさせてくれないしな」
「暖房にさせてくれたら連れて来たのか……確かにラミパスが風邪引いたらテクマも風邪引いちゃうから困るけどさ。にしてもマハリクのばーさん、何で緊急招集かけたんだろ」
「どうせ規則がどうとか頭固い事言うだけだろ。もうめんどくせぇから来た瞬間ぶっ飛ばそうぜ」
「ダメに決まってんだろ。ぶっ飛ばすぞ」
こんな事を言っているが、二人共本当にぶっ飛ばす気はない。
そこへやって来たのは黄色の代表と青の代表。それぞれ厚めの上着を着、長ズボンを履いている。
「おはようさ……なんやピピルピ、その恰好!」
「見てる方が寒いですよーっ」
二人揃ってピピルピのアホみたいな恰好に驚いている。マージジルマでなくとも、それほど今日は寒いと感じるようだ。
ピピルピはシャバの膝上でとぼけている。
マージジルマはもうピピルピには目をくれず、円状に並んだ椅子の一つの前まで歩いた。自身の腹を抑えながら、シャバの左隣の席に座る。その妙に硬い動きを、シャバは妙に感じた。
「どしたのマージジルマ。腹でも痛いの?」
「至って健康。ただ寒いからな」
「理由になってないんだけど……まぁいいや。ピピルピもそろそろ自分の椅子に座んな」
シャバは目線の先をマージジルマからピピルピに映す。だがピピルピはシャバに抱きつき、離れようとしない。
「嫌よ、寒いもの。シーちゃんあっためて?」
「あぁもう、分かった。分かったから離れて」
そう言われたピピルピは素直にシャバから降りた。シャバは自分が着ているダウンを脱ぎ、ピピルピに羽織らせる。まだ生足は出ているピピルピだが、何も着ていないよりは暖かそうに見えるようになった。
「とりあえず貸してあげるから、席ついて」
「……シーちゃん抱いて!」
「うん後でな。席ついて」
「はぁい」
ピピルピは大人しく自分の席、マージジルマの左隣りの席についた。
パーカー姿になったシャバをマージジルマは心配した様子で見る。
「おいシャバ、それじゃ寒いだろ。放火しろよ」
「炎の魔法の事放火って言うのやめて。あとそれマージジルマがあったかくなりたいだけだろ」
「だって寒いから」
「全く……レレルロローラ・レ・ルリーラ」
丸い椅子の内側に現れた魔法陣。その上で炎が揺らめき、まるで焚火のように皆に暖を配る。
マージジルマは腹を抱えたまま顔を緩ませた。
「あー、良い感じになった。でも体の芯はまだ冷えてるんだよな。おいイザティ、ひとっ走りしてコーヒー買って来いよ」
指名された青の魔法使い代表、イザティは左右に首を振った。
「嫌ですよぉー、人をパシリにしないで下さいー」
「最年少に動けって言って何が悪い。働け若人」
「あーん、パワハラー」
イザティの目元に涙が溜まる。
そこへ一人の老婆が、木の棒で出来た杖をつきながらゆっくりと歩いて来た。
「なんだい、騒々しいね」
フードのついた紫色のロングマントを身にまとう老婆。顔とフードの間からは緑色の髪が零れている。
老婆の名前はマハリク・ヤンバラヤン。緑の魔法使い代表である。
「待たせたね。皆揃って……ないけど、いいか」
空席を見てラミパスがいない事に気づいたマハリクだが、気にせず歩き続ける。マージジルマがいる限り、彼の影武者がいなくても困らないと判断したのだ。
「ババアめ、もう来ちまったか。仕方ねぇ。イザティ、次の会議の時コーヒー買って来いよ。お前の奢りな」
「えーん、マージジルマさんが苛めるー」
マージジルマにからかわれイザティは涙をこぼした。そんな彼女の右隣に座るピピルピが、大きく両手を広げる。
「かわいそうなイザちゃん。おいで、お姉さんが可愛がってあげる!」
「舐められるので行きませんー。お気持ちだけで結構ですー」
泣き虫ではあるものの、度胸と賢さはある。経験不足な最年少でマージジルマ達にからかわれがちだが、いざという時にはバズーカだって撃ち込める。それが青の魔法使い代表、イザティ・メヒナム。
マージジルマから見て真正面の席に座ったマハリクは、早速皆を呼び出した理由を述べた。
「静かにしな。早速だが、今日呼び出した理由はただ一つ。サンタマンなんて馬鹿げた伝統、廃止するよ」
マハリク以外の全員が目を丸くした。
最初に啖呵を切ったのはマージジルマだ。
「このクソ寒い中そんな事で呼びだしたのかクソババア!」
「おだまり!」
マージジルマは廃止うんぬんより外に出させられた事に対して怒っている。シャバがおずおずと手を上げた。
「何でそんな事急に言い出すのさ、ばーさん。流石にオッケー出しずらい。お祭りっぽくて楽しいじゃん」
「ふん、架空の妖精の真似事をする祭りなんてやる意味がないって言ってるだけさ。そんな事をして何になるんだ」
「子供達の笑顔が見れるってだけだけどさぁ、楽しみにしてる子達だっているし。俺は直接あげる子いないから強くは言えないけど、近所に住んでる子供達なんか喜んでる姿をよく見るし。大人だってお菓子選ぶの楽しいって言ってる人が多いよ」
「ワシは楽しいとは思わんからの。大体菓子なんて、歯が悪くなるわ太るわで良い事なんて何もなかろう。大体、ワシが子供の頃はそんな制度なかったしな。なくても何も困らんわ」
マージジルマが「ひがむなよババア」と怒っているが、マハリクは無視。
「そうだ、子持ちのパンプル。子を持つ親としての意見はどーよ」
シャバに指名されたのは黄色の魔法使い代表、パンプル・ピエロ。
黄色い短髪の小太りの男。ただでさえ小太りで魔法使い代表の印である右頬の黒い三日月印が横に伸びているというのに、「うーん」と言いながら手を頬の肉に添えて考えたせいで余計に歪む三日月。
「確かに菓子選ぶのは楽しいで。菓子言うても最近はいろんなもんあるからな。あまりにもうまそうなもんは、多めに買うてワイだって食ってまうわ。確かに体にはあんまり良くないのかもしれへんけど、それで子供が喜ぶならええんとちゃう? まぁうちのヤツは子供いうても、一番上は独り立ちしとるし。一番下だってもうデカいからなぁ。もうサンタ来うへんで言うても『へぇそうなん』としか言わん気もするわ。泣くとしたら、それこそピーリカとかやろ」
パンプルは左斜めの席にいるマージジルマを見る。マージジルマは両腕で腹を抱えたまま大きく頷いた。
「全くだ。子供だって泣くに決まってるだろ。なぁピーリカ」
突然ピーリカの名前を呼び始めたマージジルマ。他の民族代表は彼女がどこかに隠れているのかと、辺りを見渡す。だが誰一人見つける事は出来ず、しびれを切らしたシャバが答えを問う。
「ピーリカって何だよ、誰かと呼び間違えたのか?」
「あ? 違ぇよ。ここにいるから」
「ここって?」
「ここ」
そう言ったマージジルマはコートの前を少しだけ開けた。中から顔を出したのは、両頬を真っ赤にさせたまま黙り込んでいる弟子。椅子に座る師匠の膝上に座り、腹を抱えられている。
「「「「「ちょっと待て」」」」」
その場にいたマージジルマ以外の代表が声を揃えた。




