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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~チョコレート・クライシス編~
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弟子、モブにすらバカにされる

「ししょーっ!」

「ぶっ倒れた!」


床上に倒れたマージジルマの元に駆け寄る三人。ピピルピはマージジルマに抱きついた。


「キスをするなら、今がチャンス!」

「違う!」


シャバがマージジルマからピピルピを引き離した。ピーリカはピピルピに向けて怒りをぶつける。


「何なのですか、貴様も師匠の事好きですか。でもだからって師匠にチューしようとするなんて一億光年早いですよ!」

「そうね。マー君の事は好きよ。でも特別好きだからキスしたい訳じゃないの。今倒れたのがピーちゃんでもシーちゃんでも、私は同じようにキスしようとしたわ」

「誰でも良いんですか。悪い奴です!」

「だって皆好きなんだもの」


騒ぐ女たちを前に、今度はシャバが怒る。


「今そんな事言ってる場合じゃないだろ」

「じゃあシーちゃんがキスして?」

「うん後でな。それよりマージジルマ部屋に運ぶから手伝って」

「抱くの?」

「抱かない」


マージジルマの頭の上に、一匹の白いフクロウが止まった。


「ラミパスちゃん、ラミパスちゃんも師匠を心配してるですね。なんてお利口さん」


ただ止まっただけのフクロウを褒めるピーリカ。

その白いフクロウを見て、シャバはとある事を思い出した。


「そうだ、白の魔法使いでなくても薬草があればどうにかなるかも」

「薬草? あぁ、そう言えばたまに白の民族から買ってきたとかって言って、師匠が部屋に干してるですね」

「そうそう。白の民族、薬草作るのに長けてるから。マージジルマの部屋にも良いのあるかな?」

「分かりませんが、見る価値はありそうです。行くですよ下々」

「下々て」


ピーリカは廊下を走り、地下へ続く螺旋階段を降りる。シャバとピピルピはマージジルマの体を起こし、ゆっくりとピーリカの後に続く。





 地下室には窓もなく、小さな豆電球が一つだけ。怪しげな薬品や薬草、書物で溢れている薄暗い部屋の中。多くの紙が乗った茶色いデスクの後ろには、赤いクッションのついた椅子もある。


マージジルマをベッドの上に寝かせたシャバは、部屋の中に吊るされていた草を一つ一つを見て首を横に振る。


「ダメだ、薬草だけどどれもニャンニャンジャラシーじゃない」

「にゃんにゃん……何です?」


シャバはベッドの向かいに置いてある本棚から一冊の本をスッと取り出し、開いた。

小難しそうな事が書いてある文章。その横に、根元は細く先端がフワフワした毛玉のような草の絵が描かれていた。


「ほら、これがニャンニャンジャラシー。呪いを軽くする草だ。これさえあれば、マージジルマ助かると思う」

「こんなバカげた名前のもので師匠の命が救えるのですか。何だか安っぽいですねぇ」

「救える可能性があるんだからどうしようもないよな。探して来ないと」

「そうですか。いってらっしゃい」

「ピーリカは行く気ないんだな……まぁ小さいピーリカが行くのはちょっと大変そうだし。分かった。オレ行ってくるから、ピピルピと一緒にマージジルマの事見ててな」


本を閉じ、棚に戻したシャバはすぐさま部屋を出て行こうとする。だがピーリカが言葉でもってその足を止めさせる。


「待てです。わたしに出来ない事なんてないんです。わたしが行きます」

「ひねくれものだなぁ」

「師匠は白の民族から薬草買ってたみたいですし、白の領土に行けばいいですか?」

「いや、白の領土は遠いし崖の上だしで危ないから、あんまり行かない方が良い。ぶっちゃけニャンニャンジャラシーって雑草レベルによく生える種類の草だし、うまくすれば黒の領土にも生えてるかも」

「雑草レベルで助かるなんて、やっぱり師匠はド平民なのですね」

「そんな雑草レベルでも、急いで取って来ないと。最低でもあと三日以内には、かな」

「雑草如き引っこ抜いてくるのなんて、一日もかかりませんよ。行ってきますです」


ピーリカは一人、階段を駆け上り。両腕を振って外へと出て行く。




 雑草なら街より山の方が生えてそうだと考えて、ピーリカは山の中で草を探す。木の根元に岩の隙間、雑草の生えてそうな所は全て見て周るが中々見つからない。

しばらくして、山小屋の前に黒髪の男がいるのが見えた。髪色は民族の色と同じ。彼もまた黒の民族。


「そこの愚民ーっ!」


愚民と呼ばれた男。だが微笑みながら挨拶を返す。


「おや。クソガキのピーリカ嬢、ごきげんよう」


口が悪いのは黒の民族性。ピーリカは顔を真っ赤にして怒る。


「何を言うですか、庶民の分際で生意気なのです!」

「ピーリカ嬢も庶民でしょ。かわいいけど態度がデカすぎるから皆ピーリカ嬢って呼んでるけど」

「わたしは生まれながらのレディなのですよ。それに未来の黒の民族代表です。今から敬いなさい。そんな事より、ニャンニャンジャラシーという草知らないですか?」

「何そのふざけた名前の草。こちとら遊んでる暇ないんだよピーリカ嬢。この後友達の木こりと遊びに行くんだ」

「遊んでません! これがないと師匠が死んでしまうのです……遊ぶ暇あるんじゃないですか!」


からかわれているピーリカ。彼女周りにいた黒の民族は、父親含め人を小バカにする態度がデフォルト。だからこそ彼女は唯一自分を信じてくれている男に惚れた訳だが。

だが彼女は決して嫌われている訳ではない。どいつもこいつも、ただ不器用なだけだ。


「マージジルマ様が死ぬ? あぁ、だから扉開きづらいんだ」

「扉?」

「そう。農具が入った小屋の扉が開きづらくなっててさ。開くには開くけど、時間がかかるって言うか。鍵なんてついてないし、急に立てつけ悪くなるなんてって思ってたんだ」

「そうか。師匠が具合悪いと地味に嫌な事が起こるんでしたね」

「まぁ農具しか入ってないから、死にはしないし、すごく困る訳じゃないけど。すんなり開いてくれた方が仕事的にも助かるんだよねぇ」

「なるほど。ならばこの天才のわたしがどうにかしてやるですよ。師匠の失態を補うのも、弟子の務めなのです」


胸を張るピーリカを前に、男は首を左右に振る。


「ダメだよ。ピーリカ嬢が魔法使ったら小屋吹っ飛ぶかもしれない。害悪害悪」

「誰が害悪ですか!」

「だって今まで散々魔法失敗してきて、色々なものを壊してきたでしょ。ピーリカ嬢が破壊魔なのは、カタブラ国の人ほとんど知ってるよ?」

「そんな事ないです。わたし失敗した事ないですから」

「失敗じゃなく破壊しまくってたんなら、それはそれで問題だけど」

「う、うるせーですよ」

「別に小屋はどうにかしなくていいからさ、その変な名前の草を探しなよ。マージジルマ様の体調が良くなれば小屋も開くかもしれない」

「そうでした。こんな下等生物の相手してる場合じゃなかったです。それで、ニャンニャンジャラシーという草がどこにあるか知らないですか。先がフワフワしててる草です」


ピーリカの言葉を聞き、何かを思い返す男。


「……あぁ、それ先週マージジルマ様が他国に売り飛ばすって言ってこの辺に生えてるのは全部刈り取ってったやつかも」

「あのダメ師匠!」

「緑の領土にならあるんじゃない?」

「緑?」

「あそこは植物の魔法使うだけあって、珍しいものもいっぱい咲いてるって聞くし。やみくもに探すより早いと思う」

「ほうほう。ならそこへ行く方法を教えろ下さいです」

「歩いて行く気? 結構かかるよ。ルート的には、まず黒の領土から出て、桃の領土、青の領土、それから緑の領土。逆方向で赤の領土、黄の領土、緑の領土、でも良いけど」

「や、ややこしい上に遠そうですね。もっと早く行く道はないのですか」

「空飛べば? 黒の魔法でも一応飛べるでしょ? 教わってない?」

「なるほど。言われてみれば教わりましたね。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


ピーリカの手元にほうきが現れた。珍しく成功した事に内心喜んでいたものの、庶民の前でそんな態度は見せられない。

男はニヤニヤと笑っている。


「あーあ、どこの誰のものかも分からないほうき召喚しちゃったねピーリカ嬢。仕方ないね、呪う事しかできない黒の魔法は、盗んだものでないと空飛べないもんね。いともたやすく行われた犯罪、やーい泥棒」

「貴様が飛べばと言ったんでしょう! それにほうきは後でちゃんと返すです。持ち主が見つかればですけど」

「見つからなかったらそのままなんだねー。持ち主可哀そうー」

「だ、だってそうじゃないと空飛べないです。貴様とて黒の民族なのですから、分かっているでしょう。なんかあった時に助けてやるですから、見逃してくれですよ」

「うん。まぁ多分そのほうき、この小屋の中にあったやつだけどね」

「……じゃあ貴様のじゃないですか! だったら遠慮なく使うです。許可がなくとも使ってやるです!」

「許可したらピーリカ嬢空飛べないじゃん。むしろ許可取ろうとしちゃダメだよ」

「なら煽るな! 貴様モブの分際で態度がデカいのですよ!」

「モブなのはピーリカ嬢の中でだけでしょ。こっちからしたらピーリカ嬢こそモブだよ」

「この美少女をモブにするなど、貴様はどうかしてるです。今に見てやがれです。ニャンニャンジャラシーを手に入れて、その扉もすんなり開けてやるですから。そんな態度をとって申し訳ありませんでしたって言わせてみせるです。首を長くして待ってやがれです」

「へー。頑張れー」

「もう少し期待してろです!」


ピーリカは怒りながらほうきに跨った。風もないのに彼女の体は、フワッと空へと浮かび上がる。

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[一言] 難儀だなぁ黒の魔法…
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