師匠、認める
「んにゃ、一応言った」
『へぇ、じゃあ白の魔法もピーリカに教えるんじゃないの?』
「まだ黒の魔法もまともに出来ない奴に教える訳ねぇだろ。それとも、元白の代表様はアレに引き継がせて良いっていうのか」
『うーん。ちょっと心配だけど、生命力はめちゃくちゃ強そうなんだよなぁ。そこだけは魅力的』
「考え直せよ」
『んで、この後どうするの?』
考え直す気なさそうだな、と思いながらも。マージジルマは質問に答える。
「どうもしねぇよ、元に戻すだけだ。既に他の代表達には平謝りした上で口留めしてあるからな。そんでもって、ピーリカの記憶は後で消す」
『流石黒の代表。発想がおっかないね。同時に白の代表であるだなんて到底思えない』
「そうでもねぇって……いつかはちゃんと教えなきゃなんだろうし、それこそ引き継がせてやってもいいけど、今はまだ教えてやらない。そこまでのレベルに達してないからな。まだテクマとラミパスの繋がりも教えてねぇし」
『そうだねぇ。ピーリカの前ではまだラミパスの姿で喋ってないしね僕』
「こっちは大変なんだからな。表では黒の魔法の仕事やって、裏では白の魔法の仕事やって。加えてお前の世話にピーリカの世話だ。特にピーリカは、今回みたいなどえらい事したりするし」
『うん、ピーリカはいつだってやらかすね。でも、それはそれで楽しいだろう?』
「大変だって言ったの聞こえたか?」
『聞こえた上での発言だよ。にしても、いつになればピーリカのレベルは達するのかねぇ』
「まだまだ先だろうな。やれば出来るタイプなのにやらないから伸びないんだよ」
彼を見つめる白フクロウ。ぱちくりと瞬きをしたのは、驚きを表しているのだろうか。
『やれば出来るとは認めてるんだ。そういやピーリカは窮地に立った方が伸びるとか何とか言ってたけど。君から見たらどうなの』
「一応謝ったから少しは伸びた、と言って良いかな。あのアホ、自分を過信して失敗を認めないから。間違ったまま次に進んだって後々悪化するだけなのに、アイツは次を別のをってガンガン先に進もうとしてさ。今回の事で懲りれば良いんだけど……待てよ。もしかして記憶消したら謝った事も無かった事になるんじゃ」
『まぁなるだろうね』
「それは困る。よし、てめーの夢だよで通そう」
『通るのかな』
「何が何でも通す。反省させないとまた厄介な事引き起こしかねない」
『そうだねぇ。でもピーリカの行動は、君が彼女の相手をしなさすぎたって事もあっての行動だ。もう少し位彼女の魔法、見てやんなよ』
「そうは言ってもだな……まぁ、うん。確かに思い返してみると、テクマや山狂いのクソジジイと比べたらピーリカの事見てやってないかも」
『おっ、マージジルマくんが珍しく納得してる。君も結構素直じゃないからな』
「ピーリカに比べたら俺は素直だと思うんだが」
『どっちもどっちだよ。あとファイアボルトも君の師匠なんだから、山狂いのクソジジイって呼ぶの止めてあげなよ。確かに引退してから色々な山登りまくってるみたいだけど。僕にはとてもできない』
「呼び方に関しては向こうだってクソ弟子って呼んでるんだからお互い様だろ」
リビングの大きな窓を開けて、冷たい外の空気を吸う。窓の外から見える畑は、月明かりというスポットライトに照らされているというのにまだ萎れたままだ。
フクロウはマージジルマと同じように外を眺める。
『ところでマージジルマくん、一つ聞きたい事があるんだ』
「何だよ」
『君は白の魔法使いがラミパスを預けに来た時、ピーリカの母親……パイパー・リララが一緒に来たと言ったね。そしてそれをピーリカに説明した』
「……おう」
『ラミパスを預けた白の魔法使いはこの世でただ一人。それは僕だ。それは間違いない。ただテクマがラミパスを預けに行った時、一緒にいた女の人はパイパーじゃない。そもそもテクマはパイパーと面識がない。ではここで問題』
フクロウの言葉を聞き、黙ったまま頬に熱を灯したマージジルマ。ラミパスは目を半月の形にさせて、さもおかしいと言わんばかりに嘴を動かす。
『君の初恋相手の、本当の名前は?』
「……ピーリカ・リララぁっ!」
マージジルマはキレ気味で答えた。ラミパスは目の形を通常時と同じく丸い形に戻す。
『そう怒らないでよ。ただ質問しただけじゃないか。初恋相手をその母親と勘違いしたのは君だよ。僕何も悪くない』
「黙れ! 仕方ねぇだろ、弟子がデカくなって来たとか思ってねぇし!」
『ピーリカが母親と一緒に弟子志願しに来た時の、マージジルマくんのひきつりまくったあの顔は僕絶対に忘れない。その日の夜、わざわざシャバとピピルピ呼び出して泣きながらやけ食いしてたよね。弄ばれたとか、毎日イチャついてるとか言ってたくせにだとか言って。でもほら、本当はピーリカだったという事はさ。まだ君の初恋は終わってないんだよ。弄ばれた訳でもなく、将来的には毎日イチャつく事も出来るかもしれない。おめでとう!』
「うるせぇ!」
ラミパスは殴られる前に彼の肩から羽ばたいた。翼を動かし、その場で浮く。
『八つ当たりよくないよ。最も、イチャつけるかどうかは分かんないけどね。ほら、ピーリカの父親とかが妨害してくるかもしれないじゃん』
「あぁ、アイツは今でも俺の事敵視してるからな。むしろ今回の一連がバレたらそれこそ殺されかねない。絶対他言すんじゃねぇぞ」
『それは大丈夫だよ。僕ピーリカの父親と接点無いし。でもその父親のめんどくさい性格のおかげで、ピーリカの母親が君の所へピーリカを連れて来た。巡り巡って今回の件に繋がったんだ。もはや運命だね。ハゲにする魔法は失敗したけど、初恋の魔法としては成功した訳だ。やるなピーリカ』
「だとしたらこの世界は俺に対して優しくないな。クソすぎる」
『そんな事言わないで。いつか君も幸せになれる日が来るよ。だからもう少しピーリカが大きくなるのを待ちなよ。今はダメだよ? あの子に大人の話はまだ早い』
「待ちもしないし手も出さない。大体、もうアイツのめんどくささは嫌という程分かってる。今更そんな目で見れるかってんだ」
両想いだったんだけどなぁ、なんて思っても言葉にしたらシチューにされると知っている白フクロウ。
『分かったよ。じゃ、そろそろ魔法解こうか』
「ったく、めんどくせぇなぁ」
『あ、ただ一つだけお願い。今回の事でピーリカの記憶は消さなくてもいいけど、ちょっとだけ記憶を改編してもらっていい? 僕は彼女に白の代表だと名乗ってしまった。でも君は僕が白の代表じゃないように言ってしまった。その謎をピーリカが追究しようとしたら大変だからね』
「俺がお前の事代表じゃないって言ったのはしょうがねぇだろ。お前顔知られてるんだからさ。俺がテクマを白代表だとか言ったら、きっとピーリカは過去になんて行かずにお前の本体を探しに行ったぞ」
『ふむ。それは困るね』
部屋の窓から顔を出し、マージジルマは月を見上げた。目には見えないが、月との間には他国から攻撃を受けないように防御魔法が貼られている。以前バルス公国から攻撃を受けた際、その防御魔法が解けてしまっていたのは白の魔法使いの具合が悪かったから。虫歯というのは真っ赤な嘘。その時白の魔法使い代表は、弟子のチョコレートを食べて呪われていた。
それから、その戦いで眼を負傷したピピルピを元に戻す魔法をかけたのも。バルス公国との戦いが終わり防御魔法をかけ直したのも。
本当は全て、ラミパスの影に隠れた彼がやっていた事。
そして、今もまた。
マージジルマは両手を空へ掲げる。
「リルレロリーラ・ロ・リリーラ」
彼の唱えた白の呪文を合図に、大きな魔法陣が国全体を包み込んだ。自分が放った魔法を見ながら、マージジルマは自分が代表になった時の事を思い出す。




