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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~師匠の秘密と初恋編~
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弟子、白の魔法使いに逃げられる

「あれ? やっぱりいつもの家よりは少しボロいですね……でも何かさっきの世界の家よりは少しだけ小綺麗になったような」

「あぁ、もしかしたら少しお金持ちになったんじゃないかな。じゃあそろそろラミパス飼ってもらおうかな」


そういえば師匠が最後に白の魔法使いを見たのは、ラミパスを預けに来た五年前と言っていたような。じゃあやはりここは五年前の世界なのか? そう思ったピーリカだが、失敗を認めたくはないので口にはしない。

だがそれはそれで、ある疑問が残る。白の魔法使いは目の前にいるテクマでいいとして。


「ママは?」

「ママ?」

「未来の師匠が、ラミパスちゃんを預けに来た時貴様と一緒にママもいたって」


辺りをキョロキョロ見渡すも、母親の姿は見当たらない。


「君のママは知らないけど、預けるのは別の日って事かな。まぁ何でもいいよ」

「そうですかねぇ」


腑に落ちない様子のピーリカを気にすることなく、テクマは壊しそうな勢いでドンドンと扉を叩く。


「もしもーし、こんにちはぁ」


扉が開いたと同時に、ピーリカは開けた人物と目が合う。彼女的にはついさっきキスをしたばかりなので、少し気まずい。


「師匠! あ……ちょっと小さいですね」


150センチくらいだろうか。彼女の目の前にいるマージジルマは、大人のピーリカより少しだけ身長が低く。それにいつもならピッタリサイズのローブを着ているというのに、目の前にいる彼は少し大きめのローブを着ていた。そんな師匠の姿を見て、ピーリカは戻らなくちゃいけない世界に戻れていない事を悟る。


「アンタ……」


マージジルマは一見悪口に聞こえる小さい発言なんて気にしていない。気にしていないというより、それどころじゃないというのが正解だけど。

特殊な魔法でもかかったのか。マージジルマの目には、目の前にいるピーリカが眩しく見えて仕方がない。


「えーと、お久しぶりです。で良いんですかね、でもちょっと手違いが起きただけなので。今は弟子になりに来た訳じゃないですよ」


ピーリカはようやく失敗を認めたものの、口には出さない。手違いなんて図々しい事を言っている。

そんなピーリカの隣でマージジルマを見上げているテクマは何故か目を見開いていた。

その視線に気づいたマージジルマは、眉を顰めた。こいつ邪魔だなくらいに思っている。


「何だよテクマ、そんな顔して。っていうか今までどこに居たんだよ」

「ちょっと待って、君もしかしてっ」


テクマは突然肩を揺らし、白フクロウの翼を羽ばたかせる。ラミパスはマージジルマの頭の上に止まった。マージジルマが痛がっているがテクマもラミパスも気にしていない。

マージジルマの着ているローブをめくったテクマは、服の中へ頭を突っ込んだ。


「うおっ!」


テクマはマージジルマの腹をぺたぺたと触る。服の中で腹に浮かんだ三日月模様をジッと見つめながら、徐々に腹から胸へと手を伸ばした。

服の中は流石に見えないピーリカだが、どう見ても密着度が高い。見せつけられたピーリカは、ただ文句を言う事しか出来なかった。


「こらーっ、わたしの師匠に何するですか! それ以上師匠に触ったら、貴様の持ってる靴全部片方だけ捨ててやるですよ!」


テクマはローブから顔を出し、大声を上げた。


「なるほど、その手があったか!」


どうやら自分のやりたい事が済んだから顔を出したのであって、ピーリカの文句は何一つ聞いてなかったらしい。

マージジルマはテクマの行動の訳が何一つ分からないでいる。


「何がしたいんだよテクマ、それに何でその人と一緒にいるんだお前」

「そんな事どうだっていいよ。ねぇマージジルマくん、ちょっと僕の事呪ってくれるかな。そのフクロウと感覚をリンクさせたいんだ。あぁでも、今目の前にいる奴とって呪い方しないでね。ちゃんと元白の代表テクマとって呪い方をしてね」

「いきなり何言ってんだ。そんな事して、もしフクロウが死んだらお前も死ぬぞ」

「逆を言えば、僕が死ななきゃフクロウも死なないわけだ」

「そうだけど、何が目的なんだよ」

「君の監視だよ。見た感じ、黒の魔法の修行は終わったんだろ? だったら今度は僕の番だ」

「お前の言いたい事が分かんねぇよ。確かに、もう今は俺が黒代表だけど」


ピーリカもテクマが何を言っているのかは分からなかったものの、師匠の言葉は理解出来た。

気まずさよりも怒りよりも、嬉しさの勝利。

目を輝かせてマージジルマの両手を握りしめた。


「師匠、あれからちゃんと代表になれたんですか!」

「あ、お、おう。じゃなきゃアンタの師匠になれねぇし」

「そうですよね。わたしの師匠は師匠しかいないですからね」

「ん」


久々の再会と、細く柔らかな手にマージジルマは心動かされている。

ピーリカは師匠が目の前の男である事に喜んでいるが、彼の言葉を訳すると『アンタのために頑張った』と言われた事に気づいていない。

そんな二人を見て、テクマはわざと咳払いをした。彼らの目玉が自分を見ている事を確認し、話を進める。


「えっと、ごめんね。とりあえず早めに呪って欲しいんだ。どうなるかは後々話すから。ラミパス、おいで」


呼びかけに反応したラミパスは、マージジルマの頭から飛び立ち再びテクマの肩へ戻った。

まだテクマの言いたい事が分からないマージジルマだったが、呪わないデメリットもない。ピーリカと繋いでいた手を泣く泣く離して。両手を前に伸ばし、黒の呪文を唱えた。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


テクマの肩に魔法陣が浮かび上がり、白フクロウのラミパスだけが魔法陣から放たれた光に包まれた。

光と魔法陣が消えた後。テクマは何かに感動したような、ボーっとした表情でその場に座り込んだ。


「上出来だよ、すごいよ、奇跡的産物かな! これで未来は安泰だ、僕うっ!」


座り込んだかと思えば、急に後ろへ倒れ込んだテクマ。白フクロウは羽をばたつかせ、またマージジルマの頭の上に飛び乗った。

青い顔をして息切れを起こしているテクマの元へ、ピーリカとマージジルマは急いで駆け寄った。


「大丈夫ですか真っ白白助!」

「いきなり来てうちの前で死ぬなよてめぇ!」


テクマは死にそうな顔をしながらも、何とか受け答えはする。


「だ、大丈夫、大丈夫。ちょっと、興奮しちゃっただけ、だから。でもごめん、帰りたい」


まだ目的の果たせていないピーリカは無理やりテクマの両肩を掴み、頭を揺らす。


「ふざけるなですよ、まだわたしの世界で魔法解除してもらうっていう目的を果たしてないです!」

「うんごめん、帰りたい。気持ち悪い。死ぬ」

「きさまぁあああ!」


ピーリカは更にテクマの頭を揺らす。マージジルマが彼女の背後に立ち、両腕を掴んだ。


「やめとけって。気持ちは分かるけどこのままじゃ本当に死ぬかもしれねぇから。アンタだって未来の自分の家が事故物件になるの嫌だろ」

「だってこのままじゃわたしが未来で怒られます!」


二人の間でテクマは弱弱しい声を出した。本当に死にそうだ。


「大丈夫だよ、きっと君の師匠がどうにかしてくれるから」

「どうにか出来ないからわたしがここに来たというのに」

「大丈夫だって、ね。マージジルマくん」


同意を求められたマージジルマだが、彼はテクマの意図が未だに分からないでいる。


「お前本当に何なんだよ」

「ん? それは秘密」

「後々話すって言ったじゃねぇか」

「弟子、というか彼女の前で言っていいの?」


テクマの問いに、何故かマージジルマはバツの悪そうな顔をした。


「……そういう話かよ。だったらもっと後でいい」

「理解が早くて助かるよ、じゃあよろしく。ラミパスも預けていくから、食べないでね」

「善処する。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


テクマの頭上に現れた魔法陣。光で包まれたテクマは、その場から一瞬で消えた。

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