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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~師匠の秘密と初恋編~
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師匠、白の魔法使いに手当てされる

 ピーリカは昨日と同じ黒いワンピースに着替え、指輪をはめた。

小さな師匠を連れて、早速山を降りていく。

森を出てすぐに、人工的な建物が多く並んでいたのが見えた。地面も土からレンガに変わっていて、その上を多くの人々が歩いている。建物の中でもひときわ、横に大きい黒い建物が師弟の目に飛び込んできた。


「あ、来た来た。お姉さん、マー君、おはよう」


会場の入り口付近に一人立っていたピピルピが、二人に声をかけてきた。


「おはようですよ。あれ、黒マスクは?」

「んーとねぇ、ふふ。一般席は先着順だから。場所取りしてくれてるの」

「そうですか。中々気の利く奴ですね」

「さ、会場内入りましょ。はいチケット」


ピピルピはペラペラした紙のチケットを一枚、ピーリカに渡す。


「マー君は選手側だからチケット無しで大丈夫よ。エントリーは既にこっちでやっておいたから、あとは選手専用の入り口に行けばいいの。でもまだ時間あるし、一度マー君も一般席行きましょ。私達がどこにいるか把握させといた方が、応援される側としても安心でしょ。する側としても分かっていて欲しいし。ねぇお姉さん」

「それは、まぁ」


変に気を使わなくても良いのに、なんて言いたかったピーリカだが、ピピルピの言っている事もほぼ事実だった。それにそこまで強く否定するようなものでもない。ただの師弟関係でだって、応援位する。下手に否定して自分の気持ちが師匠にバレたら、それこそ気まずくなってしまう。そう思ったピーリカは、さほど否定する事もなくピピルピの後をついて行く。

同じくマージジルマも、ピピルピの言う通りピーリカの居場所を分かっておきたいと思い。黙って彼女達の後を追った。


 会場内に入ると、広い地面を囲うようにいくつもの椅子が段になりながら設置されている風景が視界に飛び込んできた。

地面から一番近い席には、椅子の前に金属製の手すりが設置されている。


「シーちゃぁん、ご苦労様ぁ」

「気にしないでいいよ、お前のためならどこまでもさ」


既に席に座っている観客が多い中、シャバは一人で手すりの前に寄りかかって立っていた。見るからにカッコつけたポーズをとったまま立っているシャバに、ピピルピ以外誰も近寄ろうとしない。周りの席に座っている者すらいなかった。ピーリカも仕方なくシャバに近寄る。


「おはようですよ。場所取りご苦労です」

「はい、おはよう」

「中々良い場所ですね。一番前の席ってだけあって、戦いの場にとても近い。よく見えそうですよ」

「とても光栄」

「……なんか様子がおかしくないですか? よく見りゃ目の焦点も定まってないような」

「おかしくなんてない、オレはいつも通り、ピピルピの下僕!」

「あぁ、淫乱ピンクの魔法にかかってるですね。可哀そうに」

「可哀そうなんかではない!」


今の言葉は本人の意思か、魔法の力か。

シャバの言動を哀れみつつも、マージジルマは周囲の景色を覚える。


「お前ら一応赤と桃の代表弟子とか言ってたから、もっと良い席なんだと思ってた」


ピピルピは肩を落としながら答えた。


「それがねぇ、良い席みーんな代表とお金持ちで埋まっちゃって。私達は一般席用意されただけマシなのよ。悲しい」

「そういうものか」

「うん。まぁ無理もないのよ。今年はあの白代表のテクマちゃんが来てるって言うし、余計にね」

「テクマちゃん?」

「そうそう。ほら、白の魔法使いって滅多に見れないでしょ? どっちかっていうと、黒の弟子より白代表を見たくて来た人もいるって位人気なの。あ、ほら見て」


ピピルピが指さしたのは、彼女達がいる一般席の真向かい側。ピーリカ達が座っている場所よりも十段程高い位置に設置された座席と手すり。その後ろには兵が警備している。

フカフカしてそうな椅子に座っていた白髪をマージジルマとピーリカは凝視した。


「あれ男? 女?」

「分かりません。未来の師匠ですら教えて貰えてないって言ってました」


中世的な顔立ちに、肩まで伸びた白い髪。色素の薄い肌とは対照的な、真っ黒なローブを着ていた白代表。背格好は子供のようだが、何故か雰囲気は大人びていた。

白代表の小さな肩の右上に乗ったある動物を見て、マージジルマとピーリカは驚いた。


「珍しいな、白いフクロウなんて」

「あれは……ラミパスちゃん!」

「ラミパスちゃんって、アンタがよく触ってるっていう」

「はい。師匠曰く、ある日突然白の魔法使いが預かってくれって訪ねて来たって。白の魔法使いってアイツの事だったんですかね? だったら普通に名前で言えば良かったのに。変な師匠」

「俺を見て言うなよ。でも、将来俺がアレ飼うって事か。丸々と太っててうまそうだな、食わないか心配だ」

「食べないで下さい」


そのまま観察を続けていると、テクマが席を立ったのが見えた。


「どっか行ったぞアイツ」

「ほんとですね。猫を払うかのように兵を払ってます。トイレですかね」

「かもな。もしかしてあぁいうお偉い様はトイレすら違うんかな。椅子ですらあんなに違うんだ……ん? あれ、アンタの席ってどこから用意されたんだ?」

「アンタのって、わたしの?」

「あぁ。だってアンタがここに来たの昨日だろ。でもそれより前の日にチケット完売したって聞いた。シャバとピピルピの分は元々用意されてたとして、アンタの分は用意されてないだろ」

「分かりませんが、チケットはさっき痴女が」


マージジルマとピーリカは揃ってピピルピを見た。ピピルピは悪意のなさそうな、綺麗な笑顔で答える。


「昨日のおじ様に譲ってもらったのよ」

「可哀そうに」


とは言ったものの、それでピーリカが見てくれるのだから。マージジルマは心の内でおっさん相手にお礼を言った。


「ねぇ君」


マージジルマは不意に肩をつつかれ振り返った。目線の先に居たのは、肩に白いフクロウを乗せた白の魔法使い代表、テクマだった。


「白代表の、えーと」

「テクマ・ヤコンだよ。大丈夫? 怪我してるよ」


見た目同様、声までも中性的で、余計に性別が分からない。テクマはマージジルマの前に立ち、そっと彼の手を握った。


「えっ」

「えぇっ!?」


急に手を握られ少し動揺したマージジルマに、そんなマージジルマの反応に動揺したピーリカ。

二人の反応を気にも留めていないテクマは、白の呪文を口にする。


「リルレロリーラ・ロ・リリーラ」


マージジルマとテクマの足元に召喚された魔法陣。

それが消えたと同時に、ピーリカはマージジルマとテクマの手を無理やり離した。


「わたしの師匠に何するですか。まさか桃の魔法みたいな事してないでしょうね。ダメですよ、師匠はわたしのですからね!」


怒るピーリカは、マージジルマがわたしの師匠発言に喜んでいる事を気づいていない。

テクマは優しく笑って答える。


「大丈夫だよ。僕は白の魔法しか使えないから」

「本当ですかな」

「本当ですよ。ほら、彼、綺麗になったと思わない?」

「何を言うですか。どんなに効果の高い石鹸を使っても、師匠の顔は綺麗になんてなりません」

「顔じゃなくて、傷」

「傷?」


ピーリカは再びマージジルマを見た。確かに今まで傷だらけだった顔や体は、女性が見たら羨むを通り越してムカつく位綺麗な肌になっていた。

ついでに睡眠不足も解消されたのか、クマも消え。マージジルマ自身、眠気も感じていなかった。

だがピーリカが喜ぶ事はなく。


「もしかして腕の傷も綺麗になってるですか」

「一応全身治したよ。けど流石に服は直せないから、勘弁してね」

「師匠は世界で一番ボロい服が似合うから構いません。じゃあ師匠、それ邪魔でしょう。返して下さい」


ピーリカが指さしたのは、現包帯の元リボン。

マージジルマはリボンの巻かれた腕を掴みながら、首を横に振った。


「何となくお守り替わりにしたいんだ。アンタにはまた新しいのくれてやる。これはもう俺のもんだから、やらない」


この師匠にして、この弟子だ。

俺のもん発言に喜んで、不機嫌そうな顔から一転。

嬉しそうな顔をしつつも偉そうな態度になった。


「そうですか……師匠は変な奴ですね。まぁ師匠ですからね。いいでしょう、好きにするといいですよ」

「ん、サンキュ」


ピピルピは目の前で繰り広げられる良い感じの雰囲気に、大人しくしつつも内心興奮していた。

その全体を見て、テクマはクスッと笑って。


「じゃあもう行くね。早く行かないと怒られるんだ」


立ち去ろうとしたテクマを、マージジルマは言葉で引き留める。

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