弟子、ブラをつけさせる
風呂から上がったピーリカはタオルで体を拭いて、先ほどまで着ていた下着を見つめだす。ネグリジェは渡されたものの、流石に下着は用意されてない。
「乙女としては一日中つけてた下着をつけるのはちょっと抵抗ありますね。そうだ、前にセリーナに使った魔法を使いましょう。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」
下着の下に現れた魔法陣。その瞬間、白い下着はスッと姿を消し。入れ替わるように、ショッキングピンク色の下着一式が現れた。
「ちょっと派手ですが仕方ない。一応成功ですね。流石わたし。しかし……」
魔法陣が消え、ポツンとネグリジェの上に置かれたブラジャーを手に取った。
そもそもこのブラジャーは着ける必要あるのか? 外している方が楽だぞ?
いつもは着けていないものの存在価値が分からず。悩みに悩んで、結局は師匠の好みで考えた。
おっぱい魔人の師匠が着けたものだ、きっと需要はあるのだろう。両腕を通し、背中の金具を着けようと手を伸ばす。
外す事の出来なかった者が、そう簡単に着けられるものではない。
頑張りはしたが、一向に着く気配がない。悩んだものの、このままだと湯冷めすると判断したピーリカは一度両腕をブラジャーから外し。ショーツだけを履きタオルを体に巻いた。
そして右手にブラジャー、左手にネグリジェを持って脱衣所を出て行った。
「師匠、出ましたよ。今度はブラジャー着けるのお願いするです」
「何でそんな事言うんだ!」
外してあげた段階で峠は越したと思っていたマージジルマだった。だが彼の予想に反してピーリカは再びリビングの椅子上に座った。
ピーリカは少しだけタオルをずらして、両腕にブラジャーの紐を通し、後は金具を着けるだけの状態にした。
「何でって、言ったでしょう。これ着けたの未来の師匠ですもん。だから着けた方が良いんだと思います、けど。わたし着け方分かんないんですもん。わたしだって恥ずかしいですよ」
ピーリカは彼に再び背中を託した。
マージジルマは恥ずかしがりながらも手を伸ばす。さっきと比べるとしっとりした肌が手に当たってしまい、自分の意思に反して顔が熱くなってしまう。
しかも何だ、その派手な下着は。
「……これさっきと違うじゃん」
「え? あぁ、この下着ですか。どっかのお店のものと交換したです。物々交換だから泥棒じゃないですよ」
「そういうものか?」
「はい。ほうきの魔法を使う時と同じです。黒の魔法使いは他人の魔法のほうきを召喚しないと、空飛べませんから」
「へぇ。でも店側としては迷惑だろうな」
「ま、この国に住んでいる以上その点は理解しておくのが常識ですよ」
余談だが後日某店では『黒の魔法使いが使用したと思われる下着』が割と高値で勝手に売られた。
「つくづく変な国」
「そうですね。それより、口より手を動かせですよ。恥ずかしいんですってば」
「しょうがないだろ」
「しょうがなくないっ」
目の前にいる彼女は恥ずかしいなどと言ってはいるものの、本当にそんな心情であればこんな事頼まないんじゃないだろうか。そんな風に考えたマージジルマは、勇気と共に言葉を出す。
「……なぁ、これもアンタにとっては普通の事なんだよな」
「えっ、あー、そうですね」
普通の事であるはずないが、ここで下手な事を言うと自分と未来の師匠がラブラブではないとバレてしまうと考えたピーリカはとっさに嘘をついた。
だが嘘というものは、実によろしくないもののようで。
「そうか、正直今の俺にはこのレベルでも、その、すごい動揺してるから。もし明日の大会優勝して、褒美くれたとしてもうまく出来ない可能性もある。未来の俺がどんだけメチャクチャにしてるのかは知らないが、未来の俺と比べると下手だとは思う。けど、俺頑張るから、今の俺の事も未来の俺の事も嫌いにならないでほしい」
あくまでマージジルマはエロの技術的な意味で言った。
だがピーリカはいまいち彼の言っている事を理解出来ていない。そもそもピーリカの性知識は、揉む、見る、触る。その程度だ。あと赤ちゃんは鳥が運んでくる。
「何を心配してるのかさっぱりですが、師匠がわたしの事を捨てない限り、わたしが師匠を嫌いになる事なんてそうそうないですよ」
「……そうか」
「あっ! か、勘違いしないで下さいね。師匠がわたしの事大好きなんですからね。わたしは師匠の事嫌いじゃないけど、そこまで大好きでもないです」
「えっ、恋人なのに?」
「えっ、あっ、えーと、冗談を言ってみました!」
「お、おう。出来れば言わないでほしい。よし、出来た」
「どうもですよ」
金具を着けて、ちゃんと留まったブラジャー。出来る事ならば再び外してしまいたいマージジルマだが、未来の恋人に嫌われたくはない。今は必死に耐えるのみだ。
「じゃ、俺も風呂入ってくるから。何なら先寝て……いや、やっぱり起きてて。絶対起きてろ!」
「何でですか、そりゃまだ眠くないですけど」
「いいから!」
そう言って部屋を出たマージジルマ。多分寝ている彼女を見てしまったら、そのまま襲いかねないような気がした。
こうなれば彼女より先に眠ろう。そう決意して風呂場に行ったものの。久々に味わう、誰かが使った後の風呂場感が残っていて。おまけにその使った人の顔も思い浮かんでしまって、早速心が折れそうになったのは言うまでもない。
色々耐えながらも、風呂に入ったマージジルマ。彼女が眠らない内にと、いつもより早めに洗って早めに出る。
体を拭いて、服を着て。
「あ」
風呂に入る前に外した、包帯替わりのピーリカのリボン。かごの上に乗せて、そのままにしていた。傷は残っているものの、血は止まった腕。それでも巻くのであれば、普通はもっと綺麗な包帯を代わりに巻く方が良いのだろうけど。
巻かれた時の事を思い出しながら、マージジルマは再びリボンを腕に巻いた。
マージジルマはリビングへ戻ってきた。だがそこには誰もおらず。流石にこの時間から、しかも一声もかけずに宿へ向かったとは考えにくいと判断した。トイレや玄関、一応畑の方も覗き込んで。
探した結果、暗い廊下の先で一つの部屋から光がこぼれているのが見えた。そこは位置的に、自分の部屋。マージジルマはゆっくりと扉を開けた。
「あ、師匠。出ましたか。ってあれ、まだ腕にリボンしてるんですか」
「うん、いや、これは、まだ傷残ってるから」
「そうですか?」
ベッドに座っていたピーリカは、膝上に口を開けたショルダーバッグを乗せている。指輪はそのバッグの中に入れたのか、手には何もつけていない。
今まで後ろに垂らしていた髪を小さな櫛で整え、右肩の前へ垂らしていた。
それだけなら普通に大人びて見えただろうに、大人ではそうそうしないミスをピーリカはしていた。
何の考えも無しに着られた派手な下着は、ネグリジェの下で透けて見えている。
そんな無防備な彼女を守るべく、マージジルマは部屋の電気を落とし早歩きでベッドの前まで歩いて。
「じゃ、おやすみ!」
ベッドの端へ潜り込んで、目をつぶって、寝た。
「師匠め、わたしより先に寝るとは何事ですか」
実際にはまだ寝ていないのだが、口を出すといつまで経っても眠れそうにないと思って。目と口を閉じたマージジルマは、眠ったふりをしていた。
「師匠? 本当に寝ちゃったですか?」
ピーリカはショルダーバッグを足元に置いて、マージジルマの顔を覗き込んだ。
目を瞑っている彼の頬をつついて、本当に寝ているかどうかを確認する。
反応したら負けだ、とマージジルマは無反応を演じる。
「おーい、師匠ってばー」
寝ていると思い込んだピーリカは、つい言葉を漏らす。
「なんだぁ。一緒に寝るの楽しみにしてたの、わたしだけじゃないですか。ま、寝ているなら好都合。わたしがやりたかったけど出来なかった事含め、師匠の事好き勝手出来るですね」
楽しみにしてたと言えど性的な意味は一切無い。そもそも彼女にそんな知識はない。
一方、自分は何をされるのかとマージジルマはドギマギしていた。もう目を開けてしまおうかと考えている間に、右隣から突然ぬくもりを感じた。目は閉じたままだが、感触的に気づいた。
自分は今、抱き枕にされている。




