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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~チョコレート・クライシス編~
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弟子、チョコレートを呪う

 ピピルピが手配した馬車に座るピーリカ。ピピルピの事を信用した訳ではないが、見知らぬ奴に舐められるのも嫌だったため大人しく彼女と共に帰る。

向かい側に同乗していたピピルピは、ニコニコと笑いながら質問をする。


「それで、ピーちゃんはマー君のどこが好きなの?」


ピーリカはピピルピの顔は見ずに、窓から外の景色を見ながら答えた。


「好きだなんて言ってないじゃないですか」


何故バレているのか、とは素直に聞く事は出来ない。


「じゃあ私マー君にチュッチュチュッチュしていい?」

「それはダメです」

「じゃあピーちゃんがマー君にチュッチュチュッチュしたら?」

「えっ」

「だって他に人にはさせたくないんでしょう? だったら自分から行かなきゃ」

「そ、そんな」


ピーリカは顔を赤くし、照れだす。まだ恋愛に詳しくない彼女は、一回のチューでも恥ずかしい。それを何度も何度もだなんて、考えた事もない。それ以上の行為なんて、知識すらない。

だからこそピピルピに狙われた訳だが。


「かぁわいい。チューでそんなに真っ赤になっちゃって」

「わ、悪いですか! わたしでも貴様でもダメですよ。チューは恋人になってからするものです!」

「そんな事ないわよ。キスは愛情表現だもの。キスしてから恋人になる人だっていっぱいいるわよ」

「……ほんとですか?」

「本当よぉ。何なら私の魔法で恋人になるように仕向けてあげてもいいけど」

「貴様の事は信用してないのでお断りします」

「んもぅ、じゃあピーちゃんが私の魔法を覚えればいいわ。この国にある魔法は七種類。基本は生まれ民族の魔法を使うのが主流だけど、別に他の民族の魔法が使えない訳でもないもの」

「痴女の魔法って一体」

「愛の魔法よ。ピーちゃんだって使えるわ。どんな男の人でも絶対愛してくれる呪文があるの。知りたい?」


ピピルピの事を信用した訳ではないが、どんな男の人でも絶対愛してくれる呪文と聞いてしまっては、黙ってられない恋する乙女。


「聞いてやらないでもないです」

「じゃあこう言うの。奥トントンしてって」

「奥トントン……?」

「そう。それだけ言えば絶対に愛してくれるわ」


ロクな事を教えない女、ピピルピ・ルピル。


『ここから先、黒の領土。口が悪いのは民族性』

「うわっ」


突然脳内に響いた音声。ピーリカは思わず声を上げたが、ピピルピは平然としている。


「カタブラ国専用、領土の境界をまたいだ者にのみ聞こえる音声魔法よ。人が迷わないようにって愛情が込められた、桃の魔法の力を込めた道具で再生してるの。初めて聞いたの?」

「わたしあんまり別の領土行った事ないです。クソ野郎のパパが遊びに行かせてくれませんでした」


父親が可愛い娘を心配し過ぎて外に出さなかったという事実は、娘もピピルピも知らない。


「あらそうなの? じゃあ私が色々な所へ連れてってあげるわ。デートしましょう」

「一人で行けです」

「んもぅ、意地悪」


そんな話をしている間に、馬車が山のふもとへと到着。そこにはピーリカがよく知る景色が広がっていた。


「ここまでで結構です。この山を登るのは大変ですし、お馬さんも可哀そうですから」

「そう? 運転手さぁん、ここで止めて頂戴」


足を止めるように指示される馬。外側から運転手がドアを開ける。


「一応礼を言ってやるです」


ピーリカはピョンと飛び降り、馬車から降りた。馬車の窓から顔を出したピピルピは、手を振る。


「また来てねぇ。その時はたくさんキスしましょう」

「二度と行くか!」


早く帰りたかったピーリカは、箱を抱えて走り出した。



 山の中間地点。家まではもう少し距離がある場所でピーリカは立ち止まった。


「さて、幸せになれる魔法をかけてみましょう。箱の上からでもきっと魔法はかかるでしょうからね。そうすれば師匠だって、わたしの事すごいねって褒めてくれるかもしれません」


ロクな事を考えないピーリカ。チョコレートの入った箱を、土の上に置いて。両手を前に出し、黒の呪文を唱えた。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリール! 食べたらとっても幸せになる、おいしいお菓子になれですよ!」


箱の上に現れた魔法陣。紫色の光が、キラキラと箱に向かって降り注ぐ。しばらくして、スッと魔法陣が消える。紫色の光も見えなくなった。

箱の見た目は変わっていないが、きっとおいしくなったはず。そう思った彼女は箱を手に取り、底部分を手で掃う。

魔法の成功を喜びながら、駆け足で山を登り始めた。

ピーリカは気づいていない。今唱えた呪文が、間違っていた事に。




「ただいまですよー」


コーヒーカップを片手にソファに座っていたマージジルマは、ピーリカに目を向けず。言葉だけを彼女に向けた。


「おかえりバカ。魔法解けてるんだな」

「バカとは失礼な。わたしは天才ですからね。魔法にかけられてもすぐ解けますよ」

「天才じゃないだろお前」

「天才ですよ。なので桃の魔法も使えるです。屈辱ではありますが、痴女から教わりました」

「黒の魔法ですらよく間違えるくせに?」

「失礼な。わたしは黒の魔法でだって使えてます。天才ですから」

「失敗ばかりだろうが。ほんとに桃の魔法使えるようになったのか?」


全く期待していないマージジルマは、コーヒーを口に含む。


「ダメ師匠め、見ててください。わたしの素晴らしい桃の魔法を!」


もしうまく出来たら、師匠はわたしにメロメロになるんだろうか。

少し期待しながら、堂々と間違った桃の呪文を唱える。


「奥トントンして!」


予想外の言葉にマージジルマはコーヒーを吹き出した。これぞコメディ界の様式美。むせ返るも息を整え、口元を手で拭う。


「お前あの変態に何教わって来やがった!」

「……魔法効いてないですか?」

「効く訳がない。そもそもそれ桃の呪文じゃねぇし」

「あの痴女騙しやがったですね! でも、だったらその言葉には一体どんな意味が?」


まだ幼いピーリカに対し、流石に真実を教えるのはまだ早いかと躊躇ったマージジルマ。少しだけ考えて、間違いでもない説明をする。


「大人じゃないといけない遊びだ。大人になったら、もっかい言ってみろ。そしたら教えてやらん事もないかもしれん」

「ふむ。わたしは天才なので分かりましたよ。さては怖いやつですね?」


真実を言い当ててやったと言わんばかりに、ピーリカは得意げな顔で言った。

怖いかどうかは当事者次第な気もしたが、説明をめんどくさがったマージジルマは訂正せず、こくりと頷き。


「そんなところだ。もうアイツのいう事は八割聞き流せ。他に何かされたか?」

「セクハラを受けましたが、わたしは天才なので無事です。あとは一緒にチョコを作りました。見て下さい、天才の手によって素晴らしいチョコレートが生まれました」


ピーリカは箱を開け、チョコレートを見せつける。魔法はかけられていたが、チョコレートの見た目は変わっていない。

マージジルマは眉間にシワを寄せている。


「何だこれ、毒?」

「どこをどう見れば毒に見えるんですか! このわたしが心を込めて作った、世界一おいしいお菓子です」

「食えんの?」

「当然でしょう。まぁ、師匠にも一つくらい分けてやってもいいですよ。わたしは寛大なので。そうだ、わたしも飲み物も用意しましょう。優雅にティータイムです。レディなわたしにピッタリ」


テーブルの上に箱を置いたピーリカ。ソファから立ち上がったマージジルマはコーヒーカップを机の上に置き、すぐさまチョコの入った箱を手に取った。飲み物を用意しようとしたピーリカだが、箱が持ち上げられた意味が分からず、師匠に目を向ける。


「師匠?」

「ピーリカ、黒の呪文はラリルレリーラ・ラ・ロリーラ。だからな。それ以外は全部失敗。覚えとけよ」

「突然何を。そんなの知ってるですよ」

「嘘つけ、お前しょっちゅう間違えるだろうが」

「間違えないですよ。ラリルレリーラ・レ・ロリーレでしょう」

「やっぱりなぁ……まぁいいか」


ピーリカが彼を見つめる中、マージジルマは箱を高く上げ、チョコを一気に口の中へ流し込んだ。ボリっ、ゴリッっと音を立てながら食べる。


「あぁああああああああ!」


ピーリカが叫ぶも、マージジルマは気にしていない。飲み込んで、一言。


「まぁ、食えなくはなかったな」

「何一人で食べてるですか! わたしだって食べたかったのに!」

「はいはい。ごちそーさん」

「謝れ! 一人でおいしいもの食べてすいませんでしたって謝れです!」

「へーへー。すい、んっ!」


マージジルマは真っ青な顔をして、急に口元を抑えた。


「師匠?」


トイレに駆け込んで、顔を便器に近づけた。そして。


「オエエエエエェ」


吐いた。


「う……わぁあああん!」


全てを見ていたピーリカは声をあげて泣いた。

まさか吐かれるほどマズかったなんて。

一生懸命作ったのに。おいしく出来たと思ったのに。

いやまぁ師匠が吐いているのは自業自得だから仕方ないとして、天才の自分がそんな失敗をするなんて。

そう思いながら泣いていたピーリカ。決して師匠を想って泣いている訳ではない。師匠クソ野郎とは思っている。

マージジルマはひたすら吐き、ピーリカはひたすら泣いた。



 しばらくして、家のチャイムが鳴った。

ピーリカはすすり泣きつつ、玄関の扉を開けに向かった。師匠なんてトイレに置き去りにしてやる。そう思いながら。


「お、ピーリカだな。マージジルマの弟子」


扉の先に立っていた、何故か口元を黒い布で塞いでいる赤髪の男。白色のパーカーにジーンズと大分ラフな格好で、背はマージジルマどころかピピルピよりも高い。左手に大きな袋を持った男は、反対の手でピーリカの頭を撫でた。

目元を両手で拭い、ピーリカは気丈に振る舞う。


「……気安く触るなですよ。貴様、名前は?」

「貴様て。流石は口の悪い黒の民族。まぁいいや。オレはシャバ・ヒー様。マージジルマの親友」

「師匠友達いたですか。意地汚いからいないと思ってたです」

「はは、確かに人数は少ないかもな。んで、そのマージジルマだけど。もしかして具合悪い?」

「トイレで吐いてるです」

「やっぱりかぁ。んじゃ、ちょっと邪魔するぜー」


家の中に入るなり一目散にトイレへ向かう男、シャバ。

吐いてるマージジルマの背中をさすった。


「うあ……シャバ」

「いい、いい。無理して喋んな……って、あれ? マージジルマ、お前呪われてね?」

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