弟子、師匠に魔法を教える
戸惑いを見せる彼女の様子に、マージジルマは疑いの目を向ける。
「何だよその顔。俺とは出来ないってか。まさか嘘なんじゃ」
「そっ、そんな事ないです」
思わず否定してしまったピーリカに、マージジルマは安堵の顔を見せた。
「だよな。まぁ未来の俺とそこまでしてるなら慣れてるんだろ」
慣れてない。した事ない。でも言えば大会に出てくれないかもしれない。そうしたら未来の師匠に怒られる。焦ったピーリカは思わず承諾した。
「わ、分かりました。どうするかはわたしに任せろ下さい。せいぜいとびっきりのエロを妄想しておけですよ、それを超えてやるです」
「どんなだそれ。でも分かった。とりあえず大会に向けて魔法教えろ」
やる気になったマージジルマだが、ピーリカは既に「最悪逃げよう」などと考えている。
ここでピーリカが何でそんな要求をされたのかを考えていれば、二人の関係性はまた違ったものになったかもしれない。
肉を平らげ、骨だけを残し。その場で魔法の練習を始めた二人。ピーリカは木の枝を一本振り回しながら教え始めた。
「じゃあまず基本的な事ですよ。黒の魔法の呪文は、ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ。呪い系統しか使えないので、相手を攻撃したいとか、姿を変えさせたいとか、そういった事のみの魔法が使えます」
「え、何かを守るとか、そういうのは」
「それは白の魔法みたいです。黒は呪いなんで」
「なら黒って悪いやつじゃん」
「時には悪が正義になりますよ。さっきの肉だって、奴がくたばるよう呪ったから倒せたです」
「未来の俺、それで金稼げてるのか」
「稼いでます。師匠お金大好きだから、金持ち相手にじゃないと商売しないっていうのも稼いでる理由かもしれませんが。でも呪うのってそれ相当のお金は必要ですよね」
「ふーん。で、何だっけ。ラリルレロだっけ」
「ラリルレ・リーラロ・リーラです。そうですね、試しにさっきの肉の残骸を消してみましょう」
「分かった。ラリルレ・リーラロ・リーラ」
早速呪文を間違えているピーリカ。正しくはラリルレリーラ・ラ・ロリーラである。
マージジルマの呪文により、目の前にあった肉の残骸の下に、魔法陣が現れた。
ただでさえ臭いのあった肉の残骸。失敗によって消える事はなく、さらに異臭を放った。ピーリカは自分が間違えたとは思っていない。眉を八の字に曲げ、鼻をつまむ。
「これは失敗したですね」
「言われた通りにやったんだけど」
「まぁ失敗とはいえ初回から魔法陣は出たので、魔法を使うセンスはあるんでしょう。良かったですね。あとは練習あるのみですよ。きっと思いが足りないのです。思う力が弱ければ、力は存分に発揮されないですからね」
「そうか。じゃあもう一回」
「はい、ラリルレリーラ・ラ・ロリーラです」
「さっきと呪文違くないか?」
「そんな事ないですよ」
「そうか。じゃあ、ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」
再び肉の残骸の下に現れた魔法陣。肉の残骸は一瞬の光を放ち、魔法陣と共に消えた。
鼻から手を下ろしたピーリカは、拍手を送る。
「何だ、出来るじゃないですか。教えてる人が良いんですね、流石わたし」
「そこは先に俺を褒めろよ」
「何言うですか、教えてる奴がポンコツだったら今の魔法は使えませんでしたよ」
「それはそうかもしれないけど」
「でも師匠も頑張りましたね。よくできました」
そう言ってピーリカはマージジルマの頭を撫でる。これは彼女が師匠にされたら嬉しい事。
「あ……あんまりガキ扱いすんなよ」
素直に褒められたら褒められたで気恥ずかしいマージジルマだが、嬉しさもあって。エロい事は無しにしても、もう少し頑張っても良いなと思えた。
ピーリカは楽しそうに明日の計画を練る。
「じゃあ明日の大会もこれやって下さい。全員消しましょう」
「えっ、参加者消すのか?」
「それが一番手っ取り早い気がします。あぁでもこれって罪になるんですかね。この国は生き物を不幸にする呪いが認められているのに、食べる以外の理由で生き物を殺す事は罪なのだから変ですよ」
「それは同感だけど」
「ならば胃袋の中身を消すというのはどうでしょうか。空腹はやる気を低減させます」
「どうだろ。怒りが増える奴もいると思う」
「確かに。じゃあどうしましょうねぇ」
「もうめんどくせぇから殴ろうぜ」
「ダメですよ。魔法使いの弟子の試験なんですから。ちゃんと魔法を使わないと。というかそれこそ罪に問われますよ」
「あぁ、じゃあ魔法で武器を出せばアリなんじゃないか?」
「それは……アリかもしれません」
物騒な事を考えている二人の元へ、シャバとピピルピが戻ってきた。
「おーい、戻ったぜ」
「お姉さん、マー君、ただいまぁ」
二人の姿を見て、マージジルマは色々な疑問を抱いた。
「あの二人はアンタの何なの」
「わたしのというか、未来の師匠の友達です」
「あの見た目の変な奴らがか。あの男の口元隠してる黒い布何」
「あれは赤の民族衣装です」
「へぇ、じゃああの女の水着も」
「いえ、あれはアイツが痴女なだけです」
「すげぇな」
「家では全裸だそうです」
「すげぇな」
今の説明が聞こえたピピルピは、二人の前に立ち一つ訂正する。
「家でだけ全裸じゃないの。時には外でも全裸になるわ」
「どうでもいいですけど、師匠の前では脱がないで下さいね」
「じゃあお姉さんが相手して。私の色々なところ、いっぱい触って?」
「触ってほしいんですか、変態ですね」
「女の子だってエッチな事が好きな人はいるものよ。お姉さんもそうでしょ?」
「そんな事ないです。えっちな事は大人にならないとダメなのですよ。そんな事より、何か話を聞いてきたんじゃなかったですか。とっとと言えですよ」
「その前に脱いでもいい?」
「却下です」
「んもぅ、仕方ないわねぇ。いいわ、脱ぐのは今度にする」
「今度なんて来ないです」
マージジルマはピピルピの隣に立つシャバに「その女は本当に変態なのか?」と目で訴える。シャバも同じように目で「そうだよ」と返事をした。
どうしても脱ぎたかったピピルピは、拗ねながらも話を進める。
「あのね、まず明日の大会ルールを聞いてきたの。参加者は当日エントリーで、形式はトーナメント方式。強さを求めてるから黒の魔法を使ってさえいれば、何をしてもオッケー」
ピピルピの説明を聞いて、ピーリカは今後の計画を決めた。
「じゃあやっぱり参加者全員消しましょう」
「あら物騒。でもルール的にはアリかもねぇ」
「では師匠、早速人を消す練習を始めるですよ」
「でもマー君が人を消す魔法を使う前に、マー君を消す人が現れるかも。まずは防御覚えた方が良いんじゃないかしら」
「では師匠、早速防御の魔法の練習を始めるですよ」
マージジルマは何だか自分を信じてもらえていないような気がして。
「何だよ、別に防御する前に攻撃すりゃいいだけの話だろ。さっきだって残骸消せたんだ。もうちっと練習すれば人だって消せる」
それを聞いたシャバは、人を消す事に恐怖心のない彼に怯えた。
「少しは戸惑いとか怖いとかないのか」
「そんな訳ないだろ。ただ出来ないと思われるのも癪に障るだけだ」
「完璧な生き物なんて存在しないっての。つーかさ、それなら防御だって同じじゃん。まだ防御魔法も出来ないんだろお前」
「確かに出来ない。けど、そう思われるのもなんか嫌だな。じゃあ両方出来るようになる。それだけだ」
「そう言われたら頑張れとしか言いようがないな。ところで、言ってて思ったけど黒の魔法で防御って出来んの? 黒の魔法って、人助け出来ないんだろ」
「そりゃ……出来ないのか?」
まだどんな魔法を使えるのかすら把握出来ていないマージジルマは、ピーリカの方へ顔を向けた。
だがピーリカも正直よく分かっていない。分かってないのに自信満々に口を動かす。




