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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~師匠の秘密と初恋編~
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師匠、十年越しの答え合わせをする

「呪えって、何のためにだよ。必要ねぇだろ」


まだ怒っているのか、マージジルマは棘のある強い口調で聞いた。

だが相手は人類であれば全員好きと言うピピルピは、ちょっとやそっとの悪口なんて気にしないのである。むしろプレイと考えて、逆に求めてくる時さえあるレベル。時として多少の暴力も愛として受け入れる事もある。

だが今の彼女は純粋にピーリカを心配していた。


「あのねぇ、ピーちゃん女の子なのよ。過去に行ったからって、テクマちゃんがそう簡単にこっちに来てくれる可能性だって低いし、下手したら近寄れない可能性だってあるわ。そうしたら何日かは向こうに留まるかもしれない。そうなった時野宿はマズいでしょう。かと言って、小さい子一人で宿には泊まれないだろうし」

「つまり?」

「大人にしてあげて」

「……言い方はおかしいが、お前が言いたい事は分かった。でもそれ俺が呪う必要あるか? 自分でやらせれば良いんじゃないか」

「だってそこでピーちゃんが失敗しちゃったら、テクマちゃんどころじゃなくなるわよ」

「なるほど、確かに」

「でしょう」


納得したマージジルマは冷静さを取り戻す。ピピルピの事を許した訳ではないけれど。

ピーリカは逆に、冷静さを失った。自分が失敗する事を前提に話しているピピルピに腹を立てたらしい。ピピルピに掴まれていない左腕を伸ばし、彼女の脇腹を何度も叩く。叩かれるたびにピピルピの胸が小刻みに揺れ、ピピルピは「やん」と言葉を漏らした。シャバはその光景を楽しんでいたが、マージジルマは興味がなさそうだ。


「って事を考えると、過去に送るのも俺がやった方がいいか」


ピーリカは叩くのを止め、腕を大きく振り自身からピピルピを離れさせる。ピーリカから離れたピピルピは、次の人肌を求めてシャバの方に抱きついていた。

自由を得たピーリカは、偉そうに師匠の前に立つ。


「そんな事ないです。わたし自分で出来ます!」

「本当かよ」


師匠から疑いの目で見られたピーリカは、両手を前に広げ魔法を使う構えを取った。


「事実です。見ててください、ラリルレリーラ・ラ・ラリ」

「ストップ! お前呪文が違うじゃんか。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラだっての」

「ロリーラ、ロリーラ」

「不安になってきた。やっぱり俺がやる。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


手を広げたマージジルマが呪文を唱えた瞬間、ピーリカの足元に魔法陣が現れた。魔法陣は光を放ち、ピーリカの全身を包む。

風で草原の葉が三回ほど左右に揺れた。

魔法陣は消え、ピーリカは光から解放される。だがいつもとは違う姿になっていて、その場にいた全員が驚いていた。

髪は腰の方まで伸び、顔つきも大人び。胸も今のピピルピより膨らんでいて、今まで三十センチ以上離れていた師匠との身長差はほぼ同じ位になっているピーリカ。シンプルなデザインの服やショルダーバッグも合わせて大きくなっていて、それだけなら完全に大人に見えた。だが頭につけたままのリボンが子供っぽさを強調させてしまっている。


「何で師匠が魔法かけちゃうですか! わたしにだってその程度の魔法、ちょちょいのちょいのぽぽぽぽーんと出来ましたよ!」


大人の姿にはなったものの、ピーリカの言動は何も変わっていない。いつもと同じように師匠を怒る。

だがマージジルマは何故か顔を真っ赤にさせて。


「っつあああああああああああ!」


突然叫び出した。驚いたピーリカは、つい怒っていた事を忘れてしまった。


「なっ、何ですか」

「うるせぇバカ、早く行け!」

「ひどいですよ師匠。あ、分かった。さてはわたしの美少女っぷりに動揺してますね?」

「あぁそうだよ!」

「そうですか。仕方ないなぁ……えっ、ほんとに?」


マージジルマはピーリカに背を向けて、顔を合わせなくなった。

ピーリカとしては嬉しいような、それは普段の自分には見向きもしないという事で、悲しいような。とにかく複雑な心境。

そんな二人の姿を見たシャバとピピルピは、マージジルマ達に聞こえないよう小声で話す。


「これあれだな、面白くなってきたな」

「えぇ。二人共可愛いわ。混ざっていいかしら」

「それはダメだろ」

「むぅ」

「にしてもほんと、今のピーリカ完全に母親と瓜二つじゃん。ぶっちゃけマージジルマの初恋、ピーリカの母親だけど大丈夫かね。あとオレ的にはあのリボン邪魔」

「んー……そうねぇ、マー君の好みドストライクねぇ。リボンはついてても可愛いわよ」


大人の姿のピーリカを見て、ピピルピだけは少し曖昧な顔をした。それに気づいていないシャバはマージジルマの表情を伺いながらピーリカの横に立つ。


「何だよピーリカ、いい女になったじゃん」

「そうでしょう、そうでしょう!」


褒められたピーリカは機嫌を良くした。その会話が聞こえていたのか、マージジルマは背中を向けたままではあるものの体を揺らしソワソワし始める。

シャバはそんなマージジルマの姿を面白がりながら、ピーリカに話続けた。


「おう。超良いね、最高。でもその恰好でそのリボン似合わないから外せよ。そのリボン別に魔法の力も何もないやつだろ」

「えっ、こ、これはダメですよ」


ピーリカは頭の上のリボンを両手で包む。リボンを貰った経緯を知らないシャバは、不思議そうにリボンを見つめる。


「何で」

「何でも! というか、そんな事言ってる場合じゃねぇです。早いとこ白の魔法使い探しに行かなきゃなんでしょう」

「まぁそうしてもらわないと困るけど」

「よし、じゃあ早速向かうです。五年前に!」


ピーリカの決意を聞いたマージジルマが、急に振り返ってシャバを突き飛ばした。かと思いきや。

マージジルマはピーリカに向かって正面から抱きついた。


「わ、わぁああ! な、なんです師匠。そんな急に!」


顔を林檎のようにさせて動揺している弟子。

一方シャバとピピルピは、あらあらまぁまぁといった顔で二人を見ている。邪魔にならないよう、ちょっと距離を取った程だ。

マージジルマは二人に聞かれないよう、ピーリカの耳元で小さく囁いた。


「予定変更だ、お前が行くのは五年前じゃねぇ。十年前だ」

「は? 何言ってるですか」

「理由は行けば分かる。過去の俺に会え。そんでもって、俺の事優勝させてこい」

「優勝って何です」

「決まってるだろ、黒弟子試験大会だよ。じゃなきゃ未来が変わる。とにかく行ってこい。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」

「ちょっ、師匠!」


師弟の足元に出現した魔法陣。弟子だけが光に包まれ、その場から消えた。

過去へと消えた弟子に、残された師匠。そして赤と桃の代表達。


「今のはあれかしら、我慢出来なくなっちゃったのかしら」

「まぁあれだけ初恋相手に似てりゃあ仕方ないよな、でもダメだよ。中身はピーリカ、まだ子供」


ニヤニヤした二人に囲まれたマージジルマは、黙秘を続けた。

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