弟子、師匠の好みを知る
「そうかよ、なら見せてみろ。あー楽しみ」
「期待して待ってていいですよ。パーティーの準備でもしてろです」
「仕方ないな。特別にケーキでも買っておいてやるよ」
「当然ですね。じゃあ早速行ってくるです」
「おう、行ってこい」
勢いよく出発しようとしたものの、何の手がかりもないのに出て行くほど無鉄砲じゃない。
弟子はシャバとピピルピを脅迫する。
「どうすればいいか教えろですよ。さもなくばわたし、帰ってきません」
目の前で脅迫をする弟子を見て、流石の師匠も怒った。
「脅してないで少しは頭使え!」
「使えるものが頭だけとは限らねーでしょう!」
「だったら聞き方を改めろ。それにどうすればいいかなんて、さっき俺達が話してただろ」
ピーリカの頭の中には、師匠がドスケベという事と頬を引っ張られて痛かったという記憶しかない。師匠達が何かを隠しながら話していたなんて、想像もついていなかった。
「師匠の話なんて聞かなくとも困りませんからね、聞いてませんでした!」
「師匠の話くらい聞け! 過去……五年前だったら、白の魔法使いは俺の家にフクロウ預けに来た姿が目撃されている」
「フクロウって、ラミパスちゃん?」
「そう。あ、その魔法使いと一緒にお前の母親も来たけど、面倒な事になると困るから母親は連れてくるなよ」
「何故ママが白の魔法使いと一緒にいたんです?」
「それは知らん。なんか一緒に来た。それより、白の魔法使いがいないと呪いは解けない。つまりだ、行けば良いじゃん。過去に」
にんまり笑った師匠に対し、弟子は顔を歪めた。
「……うぇえ? いくら可愛い子には旅をさせろと言っても、流石に過去は旅させ過ぎですよ。それにわたし、過去は振り返らない主義です。それを強要するのなら、むしろ虐待。もしくは育児放棄だ、世間に謝れですよ!」
「過去を振り返らないから成長しないんだよ。それに、お前育児ってほどの歳でもないだろ。ガキだけど」
「当然、わたしは立派なレディです。とはいえ、師匠達に比べればまだまだ子供だという事も理解してます。天才ですからね。でもやっぱり五年前は無茶です。これでわたしが変態に襲われでもしたらどうするですか」
「お前を襲う変態ってこの世にいる?」
「いますよ、師匠を筆頭にうじゃうじゃいます」
「俺お前襲った事ないけど」
「そう言って狙ってるんでしょう。この変態、すけべ、エロ魔人!」
「誰がお前なんか!」
言い争っている師弟の横で、ピピルピが胸と水着の間から小さな指輪を取り出した。
「あぁ、あったあった」
真横でされた行動に、シャバは呆れながらも突っ込みを入れる。
「またお前は。どこから出してんだよ」
「二つの胸のふくらみは、何でも出来る証拠なのよ。でも入れられる量がいつもより少ないのがネックだわ。まぁそんな事どうでも良いの。ピーちゃあん、お姉さんが良いものあげるわぁ」
ピーリカは師匠との口喧嘩を止めて、ピピルピに近づく。ピピルピの事は好きではないが、良いものをくれるのであれば近づいてやらない事もない。そう思ってピーリカは手のひらをピピルピに差し出す。
「これ何です?」
ピーリカは小さな手の上に乗せられたシルバーの指輪を、ジッと見つめた。
「下心のある男を近づけない、魔法の力が込められた指輪よ。五年前で使っても効果はあるはずだから」
「本当ですかな。ちょっと調べてみましょう。師匠」
指輪を握りしめたまま、反対の手で師匠の手首を掴んだ弟子。手のひらを握る勇気はなかった。
だが何も起こらず、辺りはシンとしていた。ピーリカは師匠の手首を離して、その静寂を壊す。
「何も起こりませんよ、不良品じゃないですか。ゴミを押し付けないで下さい」
「ゴミじゃないわ。言ったじゃない、下心のある男を近づけない指輪なのよ。ただ単にマー君がピーちゃんに下心を抱いてないってだけね。今の私の力が足りないっていうのもあるかもだけど」
「何を言いますか。師匠は変態なんですよ。こんなにも愛らしいわたしを下心無く見る訳ないでしょう」
強気なピーリカだが、当のマージジルマは首を横に振った。
「ない。一ミクロンもない」
「師匠のバーカ!」
「バカはお前だ。それにしても……」
「何です? ようやくわたしの愛らしさに気づきましたか? 遅いんですよ」
「違う。その指輪どっかで見た気がするんだけど」
記憶を辿るマージジルマの隣で、ピピルピが答えを出した。
「桃の領土で売ってる指輪だもの。遊びに来た時にでも見たんじゃないかしら。さ、ピーちゃん。指輪ちゃんとはめて。あぁ、左手薬指以外の指にするのよ。その指は本当に好きな人のために取っておいた方が良いわ。勿論、私の事が大事なら左手薬指にはめてくれて良いわよ」
ピーリカは握りしめていた手のひらを広げ、指輪を見つめる。
「貴様の事を大事に思った事など無いですが……くれるのですか」
「うん。そもそも別の民族に頼まれて作ったものだから、桃の民族そんなの必要ないし。でも指輪つけてるからって安心しないで。男は狼なのよ。時々女も狼になるけど。勿論、私の事は信頼してくれていいわ」
「どの口が言うですか。桃の民族、誰とでもイチャつくですし。信頼なんてしません」
「博愛主義って言って」
「まぁ一応ありがとうです」
「どういたしまして。あとはお金も持った方が良いわ。餞別よ、お姉さんがお小遣いあげちゃう」
ピピルピは再び胸の中に手を突っ込む。恰好は目に毒だが、面倒見は良い性格である。
お金の入った小さな巾着を手のひらにのせられ、ピーリカは不安を感じた。だが貰ったものは返さない。ピピルピを睨みながらも、指輪は右手の薬指にはめ込み、巾着はショルダーバッグに仕舞い込んだ。
「何が目的です? さてはわたしがいない間に師匠に色目を?」
「安心してね。マー君は私よりも年上好みだから、多分私には何とも思わないわ。悲しい」
「……師匠年上好み?」
「マー君初恋も大人のお姉さんだったわ」
「何ですそれ、聞いたことないですよ」
自分の秘密をバラされたマージジルマは、当然怒る。
「黙ってろピピルピ!」
「良いじゃない、事実でしょ」
「……うるせぇよ。俺はもう忘れようとしてんの」
ピーリカは怒っている師匠の事など気にせず、話の続きを聞き出そうとする。
「それで、そのお姉さんは今どこで何をしてるですか。この近くに住んでたりするですか」
「あら、気になるの? マー君の好きだった人」
ピピルピはニコニコしながらピーリカの様子を伺う。素直じゃないピーリカはすました顔を作る。
「別に師匠の初恋相手などどうだっていいです。ただその、ほら。その女が可愛い弟子の座を狙ってきたら大変でしょう。今の内に潰しておこうと思って」
「大丈夫よぉ。そのお姉さん人妻子持ちだったんだもの。うちの国一夫多妻制じゃないし、マー君一途だけど人の恋人取るような性格してないし。ピーちゃんが心配するような事はなーんにも起きないわよ」
「そうですか、それなら……って、別に関係ないと思うですよ。人妻だって弟子の座を狙うかもしれないです!」
頬を赤らませて怒っているピーリカを目の前にキュンキュンときめいているピピルピは、今自分がマージジルマに呪われそうになっている事に気づいていない。シャバが何とか宥めているが、時間の問題とも言える。
周りの見えていないピピルピはふと、ため息を吐いた。
「でも本当は私、一夫多妻制になってほしいの。今のままだと桃の民族の結婚率ずっと低いままなの。でも一人に絞れないんだから仕方ないと思わない?」
「思わないです。というか貴様の事はどうでもいいです」
「そんな寂しい事言わないで」
「黙れです。わたしは白の魔法使いを探しに行かなきゃなんです。貴様の相手をしてる暇なんて無いのですよ」
「そうだわ、ねぇマー君。ピーちゃんの事呪ってあげて」
ピピルピは視線の先をピーリカからマージジルマへ変えた。
それが狙いで優しくしてきたのか、という顔をしたピーリカはその場から逃げようとした。だがピピルピの方が動きが早かった。既にピーリカの右腕を掴んでいる。
ストーリーの途中ですが、ここでババアの名前についてアンケートをお願いしたいです。
マハリク・マハリタとマハリク・ヤンバラヤンのどちらにするか悩んでいます。
投票はTwitter(@niki1675)にて2021年11月13日まで募集中です。よろしくお願いします!




