弟子、名推理をする
「だからわたしが失敗する訳無いでしょう。きっと何かの間違いです」
「いいや、絶対お前の失敗が原因。お前が悪い。間違いない。責任もってどうにかしろ」
納得がいかないと言わんばかりに、ピーリカは首を傾げる。
逆にシャバとピピルピは納得した。
「理解した。にしても、ハゲさせる魔法をどうやって失敗したら各代表を小さくさせるんだよ」
「でも流石黒の民族よね。他の民族ならハゲさせる魔法を使うなんて考えたりしないわよ。あ、私はハゲてる人でも太ってる人でも愛せるからね」
「ピピルピは全人類好きだろ」
「シーちゃんの事も好きよ?」
「やったぜ」
子供の姿でも大人の姿でも、赤と桃の関係は変わらない。
マージジルマは自分の後ろに隠れたままのピーリカを引っぺがして、自分の前に立たせた。
「とにかくだ、まずはコイツら元の姿に戻す。お前はその後、しっかり反省しやがれ」
ピーリカはまだ首を傾げたままだ。
「つまりはわたしの事を放っておいた師匠が悪いって事でしょう? だったら師匠が悪いんじゃないですか。何でわたしが悪い事になってるんです?」
「お前そう思ってたのか」
「だってそうじゃないですか」
「違う。ってそんな事言ってる場合じゃねぇんだって。こうなったらテクマ……白の魔法使い探すぞ。代表じゃなくても何とか出来るかもしれないしな」
ピーリカは以前白の領土で出会ったテクマを思い出す。確か奴は、白の民族代表だと言っていたような気がする。だが目の前にいるマージジルマはテクマを代表じゃないと言う。混乱しつつも、彼女は師匠を信じた。
「よく分かんねーですけど、あの真っ白白助は大きな木の下にいるんですよ」
「どこのだよ」
「それは分かりません。というか白の魔法の力って、回復じゃなかったんでしたっけ」
「大本はそうだけど、分類すると回復の中に呪い解除も含まれてるんだよ」
「それはつまり……黒は白に勝てない?」
「んな事ねぇよ。アイツら体弱いから。方法を考えれば勝てる」
「なるほど。でも別に解除しなくても別の呪いかければ良いじゃないですか」
「下手に呪うと、もっとやべー事が起きかねないからダメ」
「何だ、偉そうに言ってるけど結局師匠も出来な痛い痛い痛いっ」
マージジルマは弟子の頬を引っ張りながら、シャバとピピルピに顔を向けた。
「とにかくテクマを探す。そんでもって魔法使って、どうにかする」
雑な計画にシャバとピピルピは不安を感じる。急がないと再び国が滅びるかもしれないのに、未確認生命体のような存在のテクマをヒントなしに探すなんて、一体どれくらいの時間がかかってしまうのか。二人は別の方法がないかを考えた。そして。
「いっそ過去のテクマを連れてくるとかどうよ。今のテクマだとオレ達みたいに魔法使えなくなってる可能性あるし」
シャバの提案に「!」と反応したマージジルマとピピルピは、顔色を明るくさせる。
「それだ。それなら俺も楽。よし、早速連れてこよう。何年位前にするかな」
「マー君が優勝した時でいいんじゃない? あの時のテクマちゃん、わりと元気だったでしょ。吐血はしてたけど」
「あぁ、黒弟子試験大会な。じゃあそれこそ十年前位じゃん。そんなに前じゃなくても、半分の五年前でも元気だったと思うけどな。吐血はしてたけど」
吐血をしているのにも関わらず元気だったと言われているテクマ。それほど頻繁に吐血と復活を繰り返しているようだ。
頬を引っ張られたままのピーリカは、無理やり口を動かす。
「くりょれひひへんふぁいふぁいっへ?」
「何だよ」
マージジルマに手を離してもらえたピーリカは、自分の頬を撫でながら再び疑問を口にした。
「黒弟子試験大会ってなんです? わたしそんなのやってないですよ」
マージジルマは腕を組んで、弟子の質問に答える。
「そりゃ弟子の決め方なんて人それぞれだからな。お前は母親と一緒に俺の所に直談判しに来たけどさ。俺の師匠は強い奴を弟子にするって言って、希望者集めて大会形式で決めたんだよ。んで、俺が勝った」
「師匠が……強い……?」
「失礼な奴だなお前」
「いえいえ、師匠の事は信じてますよ。でもきっと他の希望者ってあれでしょ。虫とか微生物でしょう?」
生意気な態度の弟子に、罵倒を考えていたマージジルマだったが。
それ以上の名案を思い付いた。
「じゃあピーリカは虫にしか勝てないような師匠の弟子なんだな」
「そうですね。そんな師匠の弟子なんて恥ずかしいです。わたしってば、世界一不幸な美少女ですよ。しくしく」
「じゃあ周りからは弟子もダメな奴だと思われてるんだな。まぁ実際失敗するような奴だしな」
「いえいえ。わたし、やればできる子なのですよ。失敗もしてません」
「どうだか」
「やれやれ、わたしの凄さも分からないとは。師匠は本当にダメですね」
「だったら、お前が凄いって証明してみろよ。一人でテクマ探してこい」
師匠の言葉に、ピーリカは再び首を傾けた。この仕草をする自分の事をとてもかわいいと思っている。
だがマージジルマは弟子の態度など気にせず、再び話始めた。
「自分のやった事に対して責任も持てないようじゃ、黒代表に引き継がせるなんて出来ないな。
言っておくが、俺は別にお前の事破門にしたっていいんだし」
「でも元をたどれば師匠が」
「理由は俺だったとしても、呪ったのはお前」
「だとしても弟子がやらかしたら師匠が責任取るのが普通ですよ。弟子一人にさせるなんて無責任です」
「そりゃ他の代表がもう一人位無事だったら俺だって探しに行けたけど、他の代表チビな上に魔法使えないし。もしも今隣国の奴らが攻め込んできたり、空から隕石が落ちてきたりしたら大変な事になるじゃないか。黒の呪いは国の特攻隊長であり、最終兵器だ。何かが起きたら、全てを呪って全てを無にする。つまりだ。俺は下手に動けない」
マージジルマの言葉に納得はしたものの、素直に受け入れたくないひねくれもの。まだ反論を述べる。
「ちょっと待って下さい。そりゃ黒の魔法が凄いのは知ってますし、わたしは天才です。でもほら、師匠だってわたしが天才だと思ったから弟子にした訳でしょ? だったらそんな簡単に破門とか言っちゃダメです」
「何だ、責任取る事より破門にさせられるのが嫌なのか。でも別に俺お前の事天才だと思った事ないけど」
「そんな! じゃあ何でわたしを弟子に」
「お前の母親が美人だったからだよ」
「は……?」
「嫌な事でも美人の頼みは断れないだろうが」
真顔で答えた師匠の言葉に、固まった弟子。こんなにも愛らしいわたしではなく、美人なママの頼みだから言う事を聞いた?
いいや、そんなはずはない。師匠はママの顔を見ない。師匠はいつも、ママのおっぱいを見ている。
そうか、師匠はおっぱいの頼みを聞いたんだ!
名推理をしたという気持ちと、何て奴だという気持ちを抱いたピーリカ。とりあえず罵倒。
「このドスケベ!」
「何でだよ」
ムスッとした顔になったピーリカを、流石に可哀そうに思ったシャバとピピルピ。今だけ弟子側の味方になった。
「マージジルマさぁ、事実とはいえ本人に言うの止めろよ。ただでさえテクマ探してこいってのも意地悪なのに」
「全くだわ。大丈夫よピーちゃん、貴女もきっと将来美人になるわ」
ピーリカは慰められてもどうにもならないとは分かっている。つい意地を張って、大声を出した。
「いいですよ、やってやるです。わたし天才ですから、真っ白白助もすぐに見つけてきてやるです。そんでもって師匠に、破門になんてさせません、一生弟子でいて下さいって言わせてやるです!」
強気な弟子を見て、師匠の口角が上がる。




