弟子、興奮される
街中で白昼堂々ベタベタと密着した二人組が、複数歩いている桃の領土。ピーリカとピピルピもその内の一組だ。
ピピルピは両隣に大きな城が建っている、三階建ての家の前で立ち止まる。
「ほーら。着いたわよぅピーちゃん」
相変わらず目がハートマークになっているピーリカも足を止める。操られてはいるが、疑問を口にする事は出来た。
「すごい、両隣にお城が建っているのです。お姫様が住んでるですか?」
「ホテルだから本物のお姫様は住んでないけど、一部のお客様はお姫様になるようなものよ。もしくはネコちゃんね」
「ホテルですか……だからお城の前に休憩とか宿泊って書かれた看板があるですね。わたしもお姫様になれるですか? ドレス着れる?」
「もうとっくにお姫様よ。ドレスは脱がせて良いなら着させてあげる」
「脱ぐのは恥ずかしいですよ。でもお城には泊まってみたいですね」
「気になるなら今度一緒にお泊りしましょ。今日はお菓子作りの準備してあるから、また今度ね」
「はぁい」
ピーリカは大人しく言う事を聞いていた。操られていなければ、とっくにピピルピを殴って脱走している。
家の中に入った二人は、一階にあるリビングへ入っていく。綺麗に整理整頓されているが、やたらとティッシュ箱が多いリビング。ピピルピは部屋の中央に置かれた椅子上に、ピーリカをお姫様抱っこした状態で座った。
「うーん……いつものピーちゃんとも仲良くなりたいわ。そうよ、仲良くなれそうになかったら、また魔法をかければいいのよ。えいっ」
パチンっ、と指を鳴らしたと同時に、ピーリカの瞳は通常の状態へと戻った。
辺りをキョロキョロと見渡し、騒ぐ。
「どこですかここ!」
「私のおうちよ、ピーちゃん」
「貴様は……師匠の仲間の変態!」
「違うわ。貴女の恋人ピピルピよ」
「それこそ違うです! 離せ!」
「やーん」
ジタバタと両腕を動かし、ピーリカはピピルピの膝上から降りた。
「さては誘拐したですね。確かにわたしは、とてもかわいいです。かわいい子やお姫様は誘拐されて当然ですからね。誘拐する気持ちも分かります。ですが誘拐は悪い事ですよ!」
「誘拐じゃないわ。私にメロメロになる魔法を使って一緒に来てもらっただけよ。それにマー君の許可は得たもの」
「あのダメ師匠!」
「それより一緒にお菓子作りましょうよ。作り終わったらちゃんと帰してあげるわ」
「貴様一人で作れです。まぁ、どうしてもと言うならお菓子は貰ってあげない事もないです」
「お菓子は食べたいのね」
「違います。食べてやるから光栄に思えと言っているのです」
「食べてくれるのは嬉しいけど、どうせなら一緒に作りましょうよぅ。マー君結構大雑把だし、普段お菓子作りなんてしないでしょう? 楽しいわよ、お菓子作るの」
「確かに師匠は大雑把です。料理の調味料は全部目分量で入れるし、引き戸はほぼ全部足で開けるクソ野郎です。デリカシーもゼロ。でもだからって、わたしが手を汚す必要はないのです」
「私、ピーちゃんがお菓子作る所見てみたいなぁ。今でさえ可愛いピーちゃんの事だもの。作る姿もきっと可愛いでしょう。それに、ピーちゃんが作ったお菓子、絶対おいしいもの」
かわいいと言われ、ピーリカは気を良くした。とても単純な娘である。腰に手を当て、大威張りでふんぞり返る。
「当然でしょう。わたしは愛らしい上に、天才ですから。おいしいものしか作れません」
「見たいなー、ピーちゃんのすごいとこ」
「ふふん、そこまで言うなら仕方ないですね。見せてやるです」
口も態度も悪いピーリカだが、扱いは難しくない。
ピピルピは考える。もしかしたら魔法は使わずとも、本当に仲良くなれるかもしれない、と。
「じゃあ服を脱いで、これつけてね。絶対似合うわ」
ピピルピは部屋の壁際に置かれている棚から、四角く畳まれた布を取り出しピーリカに渡してきた。
「わたし知ってますよ。これエプロンって言うです。服を脱ぐ必要はないです」
「脱いだ方が喜ばれるのよ」
「誰が喜ぶですか」
「私」
「絶対に脱ぎません」
ピーリカは黒いワンピースの上に水玉模様のエプロンを身に着ける。頭には三角に折った布を巻きつけ、髪の毛が落ちないようにした。
ピピルピは水着の上にエプロンをつけた。その姿は、どう見ても裸エプロン。
その姿を見たピーリカは、愛らしい顔を歪ませる。
「そういえば貴様はどうして海でもないのに水着を着ているのですか?」
「裸だと怒られるからよ」
「普通に服を着れば良いのでは?」
「桃の民族は裸でいる方が普通なの。他の民族が怒らなければ私達は皆全裸で歩くわ」
「恥ずかしくないのですか?」
「それが良いんじゃない。何ならピーちゃんも試しにお洋服脱いでごらんなさいな」
ピピルピのとんでもない提案に、ピーリカは思わず後ずさり。
「いっ、嫌ですよ! 分かりました、さては貴様、痴女というやつですね?」
「あら、ステキな言葉を知っているのね」
「これステキですか?」
「えぇ。ピーちゃんも一緒に痴女になりましょう」
「嫌ですよ!」
「恥ずかしがらなくていいのに」
「恥ずかしいのは貴様の頭です! いいから早く作るですよ。そしてわたしは早く帰る!」
「ゆっくりしてって?」
「や!」
顔を背けるピーリカを見て、ピピルピは思った。
やっぱり魔法を使わないと仲良くなれないのかしら、でも冷たくされるのはそれはそれで興奮するわ、と。
所詮彼女は変態であった。
「まぁいいわ。キッチンに行きましょう。材料は用意してあるから。私の胸の中に来るのでもオーケーよ」
「キッチンに行くです!」
拗ねた表情をしながらも、ピピルピはピーリカをキッチンへと連れて行く。