弟子、師匠に弄ばれる
胸を揉むというのは、ピーリカの知識の中では最上級のエロ。それ以外は知らない。赤ん坊は鳥が運んでくると信じている。
最上級のエロをされたピーリカは、どんどん顔を赤くさせ。
マージジルマはただ一度だけ彼女の首にキスを落とし、体のあちこちをまさぐり始めた。
「何てことをするですか! やめろです、師匠、やっ」
ピーリカは抵抗するも彼が止まる事はなく、ただいたずらに触られ続けていく事を恐れ始めた。
知らない、だから怖い。
けれど触られた場所が、気持ち良いような気もするのは何でだろう。
「ま、お姫さんの体だしな。この辺にしといてやるか」
彼女を気づかい、マージジルマはピタッと手を止めた。気づかったという割には、あまりにも熱を与えすぎているけれど。
「ふぇ……い、いえ。違いますよ。わたしがセリーナですから。この体はわたしのもの!」
「ほーん。じゃ、最後までするか?」
ピーリカは師匠の言葉を理解出来なかった。
彼女はもう、わたしのかんがえるさいきょうのエロを経験した。それなのに最後って何だ。まだ何かあるのか。まさかこのおっぱい魔人はあれくらいじゃ気が済まないというのか。もっと揉む気か。
「なんていやらしい!」
「お前に言われたくねぇんだよ」
「いけません、この胸はセリーナ……いいえ、未来の赤ちゃんのものです!」
「何だ、まだエロと胸がイコールなのか」
「違うですか?」
「それだけじゃない」
それだけじゃないという事は、それも含まれるという事だが。ピーリカは別の所に疑問を置いている。
彼女の理想とする恋仲は、手を繋ぎ、デートをし、キスをする。となると。
「……チュウするですか?」
「ぶっ、ははははははっ」
「何ですか、違うですか!」
何も知らない清らかな子供の発想に、マージジルマは笑いが止まらない。そんな彼女に最後まで教えるのはまだ早いかとも考えていた。ここまでしておいて善人ぶっている。
「んじゃ、してみるか。そのチュウとやらを」
善人ぶったが何もしないとは言ってない。
マージジルマは親指と人差し指で彼女の顎をクイっと上げた。二人の顔がどんどん近づいていく。
流石のピーリカでもキスがどんなものかは知っている。
あと少し、もう少し。だけど受け入れられるほどピーリカは大人じゃない。
それにするなら、ちゃんと自分の体でしてみたくて。
ピーリカは高らかに、声を上げた。
「らっ、ラリルレリーラ・ラ・ラリーラぁ!」
「あっ、バカ!」
天井に現れた魔法陣。中から光が溢れ、爆発を起こした。
屋根に穴が開き、満天の星空が顔を出している。
気付けば元の姿に戻っていたピーリカ。正体がバレた事に加え、蓄積されていた謎の恐怖のせいで自然と涙が出た。
「師匠の変態、ド変態~~っ」
「泣くなバカ。また呪文間違えやがって。黒の呪文はラリルレリーラ・ラ・ロリーラ。それ以外は全部失敗! 何かしらの不幸が起こるから、ある意味成功なのかもしれねーけどさ。ったく」
「天才のわたしが失敗する訳ないじゃないですか!」
「ほぉ、じゃあこの地下室から空が見えるのは何でだろうなぁ。畑ぶっ飛ばしたって事だと思うんだが、ワザとだって言うのか」
天井、もはや空を指さしたマージジルマ。
ピーリカは目元を擦り、堂々と言った。
「そんな事はないですが、失敗なんてしてないです!」
「いい加減自分の失敗を認めろ!」
「そんな風に言って、嫌いになるですよ!」
「なればいいだろうが」
「なっ、そ、そんな事言って。わたしの事本当は好きなんでしょう。愛らしいお顔だと心の中ではひれ伏しているんでしょう。嫌われたら悲しいでしょう」
「何でお前みてーなガキ好きになんなきゃなんねーんだよ」
「なっ、じゃあさっきのは」
「お姫さんの体だったからな」
「し……師匠のハゲぇえええ!」
ピーリカはマージジルマの部屋を飛び出し、自分の部屋に戻った。
やっぱり大人じゃないとダメなんだ。自分じゃまだ無理なんだ。自信たっぷりのピーリカでも、成長の差についてはどうにも出来ない事が分かっていて。
スンスンと泣きながらベッドの中に潜り込む。
セリーナは少し寝ぼけながらも目を覚ました。
「んん……ピーリカ? どうしたの?」
「何でもねーです! 明日絶対白の領土行くですよ!」
「うん? うん」
寝ぼけているせいもあって、セリーナは理解もせずに頷いた。
***
「誰がハゲだ。ったく……」
ピーリカが部屋に戻った後。マージジルマはベッドの上に座り空を見上げていた。白フクロウのラミパスが、その空の淵から顔を覗き込ませ降りてきた。
『あんまりイジメちゃダメだよ。ピーリカが可哀そうじゃないか』
「今可哀そうなのは俺の方だろ。畑無くなった」
『その位、後で僕がどうにかしてあげるよ。なんたって僕は白の魔法使いだからね。おちゃのこさいさい!』
「絶対だかんな。タダでやれよ」
『本当にお金にうるさい男だなぁ。別にタダでやってあげるけどさ、その前にサイノス・ロードのお願いも聞いてね?』
「あぁ。あの手紙のな。んじゃ、お姫さんが寝てる隙に行くか。ピーリカは今の今じゃもう来ないだろうし」
『その方がいいかもね。邪魔されずに済みそう』
「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」
マージジルマの足元に現れた魔法陣。彼とラミパスは、スッと姿を消した。
一方。ムーンメイク王国の城内とその周辺ではセリーナ大捜索が行われていた。
使用人の一人が、プラパに謝罪する。
「申し訳ございません。プラパ様。何としでもセリーナ様を連れ戻してみせますので」
「そうだな。何かあってからでは遅い。あのピーリカという娘の元には兵を向かわせたのか?」
「いえ。下手に他国へ兵を出すと騒ぎが大きくなりますし、そのせいでセリーナ様に何かあっては大変ですから。うちの兵ではなくカタブラ国の、とある民族に連絡を取り協力をしてもらっています」
「そうか。無事見つかると良いんだが」
「黒の魔法使いが住んでいる場所は分かっています。抵抗されない限り、問題は起きないかと」
「うむ。だがあの子とは関係ない、別の人物がセリーナを連れ去った可能性も、セリーナの意思で向こうへ行ったという可能性も否定は出来ない」
「そうですね。もしかしたらあの男の元へ……」
「あの男?」
ハッとした表情で、口元を抑えた使用人。
「いえ、申し訳ございません。何でもありません!」
「……サイノス・ロードか?」
「プラパ様……! ご存知でしたか」
「少し彼女から聞いたことがある程度だ。好意を抱いていた、なんて話は勿論聞いたことはなかったものの……彼の話をする彼女の表情を見れば分かる事だ」
「そうでしたか……しかし、セリーナ様に相応しいのはプラパ様、貴方です」
「そうだね。そのためにも、早くセリーナを見つけ出さないと」
「はい。しかしながらプラパ様。もう遅い時間です。セリーナ様の事は我々に任せ、お休みになって下さい」
「……ではそうさせてもらおうか」
プラパは使用人の案内で客室に通される。大き目のベッドに、机とソファ。壁には湖の絵がかけられている。
使用人が部屋から出ていき、部屋の中には彼一人になった。
ベッドに倒れ込み、枕に顔を押し付け。
「うあぁああああああああ!」
思いっきり叫んだ。しばらくして顔を上げたかと思えば、プラパはいきなり泣き出した。




