弟子、師匠にからかわれる
地下にあるマージジルマの部屋の扉を叩いたセリーナINピーリカ。マージジルマは目の前にいる女を見て、とても不機嫌そうな顔をしている。
「……何」
「流石に二人で寝るには狭かったですよ。仕方ないので、わたしが貴方と一緒に寝てあげるわです」
真実を聞き出すというのは実は建前だったりする。こっちが本音。性的な意味は一切ないけれど。
「俺のベッドは巨乳しか入れねぇんだ。帰れ」
マージジルマはドアに寄りかかりながら、冷めた目で彼女を見つめた。こいつは性的な意味での受け答えをしている。
「断るにしてももっと言葉あるでしょうに。何てデリカシーのない男だ。というより、何故断るのですか。よく見て下さい、おっぱい大きいでしょう」
「俺はそのサイズを大きいとは認めない」
「もっと大きくなきゃダメなんですか。ピーリカと比べたら大きいですよ」
「チビと比べるのが悪い」
「そういう事を言うからダメなんですよ。まず女の子をおっぱいで判断するとは、男の風上にも置けねぇ奴ですね。とんでもねぇ男ですよ」
「うるせーなぁ。つーかピーリカ……その呪い、お粗末なんだよ」
バレバレな正体。だがピーリカは誤魔化せると思っている。
「何をおっしゃいますか。わたしはセリーナ」
「しらばっくれんな。見た目はまぁ良いとしても、演技が下手くそすぎなんだよ。何が目的だ」
「わたしはセリーナですってば。ただピーリカの師匠さんと一緒に寝に来ただけです」
「ヤらせてくれんの?」
「や……?」
「エロい事させてくれんのかって言ってんだよ」
「なっ、何てことを言うですか! この変態、大変態!」
「何を想像した」
「え、そ、それは……」
「言えない程エロい事を考えたのか。お前の方が変態じゃねぇか」
「違います、そんなはしたない子じゃないです!」
「じゃあ言ってみろよ」
「え、あ、う…………お、おっぱい揉み揉みする……とか」
ピーリカはセリーナの顔を真っ赤にさせて小声で答えた。これが彼女にとっての最大級のエロである。
このまま追い返す気だったマージジルマだが、なんだか弟子を苛めるのも楽しくなってきた。
「何だよ、その程度で赤くなって。やっぱガキなー」
「違いますもん、ピーリカと比べたら大人ですもん。わたしはセリーナですからぁ!」
「じゃ、ピーリカには教えられない事でもするか」
「へ?」
ピーリカはグイっと部屋の中に引っ張られて、ベッドの上に叩きつけられた。
柔らかなベッドの上、痛くなかったとはいえ、突然された行動に動揺する。窓は無く豆電球一つしか灯っていない、薄暗い部屋。師匠の表情はなんとか見えるものの、心の内は全く見えていない弟子。
「何するですか。わたし姫ですよ。優しくして下さい」
「知るかよ」
覆いかぶさるように押し倒すマージジルマ。二人分の重さがかかったベッドから、ギシっと音が鳴る。
「え、あ、あの?」
近い、近すぎる。ピーリカは緊張で体が強張って、肩に力が入っている。
その事に気づいたマージジルマは、右手で優しく彼女の肩に触れる。シャツを少しだけ引っ張って。ちらりと見えたブラ紐を、指先に絡めた。
「ん、中身まで全部入れ替わってんな。あとは精神的な方の中身もどうにか出来れば、大抵の男は騙せるだろうよ」
「い、入れ替わってって何ですか。わたしは本物ですよ。セリーナですよ」
「はっ。だとしたら酷い女だ。王子との結婚が決まってるのに、別の男の元へ行こうとして。その上、俺と一緒に寝に来ましただ? 笑わせるにも程がある」
「そんな、セリーナは悪い子じゃないのです!」
「んじゃ、今俺の目の前にいる悪い子は誰だよ。幻覚か?」
「そ……そう! わたしは幻覚! というか夢!」
「ゆっ……そうか、夢か」
何の計画性もない弟子に笑いをこらえながら、マージジルマは彼女の手を握った。指と指を絡ませる、恋人にするような握り方。
「ひゃーあー!?」
ピーリカは驚きのあまり声を出してしまった。だって元の姿の自分は、そもそも手を繋いでもらった事自体ない。
「うるせぇ」
「だ、だって師匠が!」
「夢なら何したって勝手だろうが。お姫さんは全く俺の好みじゃないが、まぁエロい事させてくれんなら妥協してやる」
「何様ですか! やっぱりこのおっぱいが良いと思ってるんでしょう、本当におっぱい大きいの大好きですね!」
「お前の中でエロい事って言ったら胸でしかないんだな。誤解すんなよ。確かに胸がデカいのは好きだが、顔はお姫さんよりピーリカのが好みだよ」
一瞬何を言われたのか理解せず、ピーリカはポカンとした表情を見せた。だがすぐさま顔を真っ赤にさせ、声を荒げる。
「なっ、何、えっ、なん、はぁ~~~~!?」
にんまりと笑うマージジルマは、彼女の反応が面白くて仕方がないといった様子。
「ガキだから相手にしねーけど、大人になったらまぁ良い女になるんじゃねーの。ピーリカの母親も顔良いしさ」
少し照れた表情になったマージジルマに、ピーリカは驚きを隠せずにいた。こんな表情の彼は、見た事が無い。
「ほっ、本当にそう思ってたですか?」
「あぁ。何と言うかさ……金になりそうな顔してるよな!」
一転、金を目の前にし喜んでいる時の表情になったマージジルマ。
ピーリカもよく見た事のあるその顔を前にし、一気に苛立ちが募った。
「まーた金ですか!」
「ま、今はガキのピーリカの話は置いといて」
「置いとくなです。そうだ。わたしは聞きたい事があって来たです。何故さっき頭を撫でて褒めたですか」
「頭? ピーリカのか」
「はい。やはり美少女相手だからですか。思わず撫でたい可愛さが溢れ出ていたという事でしょうか。この世に存在している事を褒めたですか!?」
「いいや全然。あれはお姫さんにスープ飲ませたから」
「上手にスープを飲ませる子が好きという事……?」
「どんだけ限定的な好みなんだよ。そうじゃない。毒を飲ませるってのは中々難しい事なんだ。俺らは呪いの魔法使いだから、最悪は直接毒を相手の体内に注ぐ事も出来る。けどもし呪文を唱えられなかったり、魔法を使えない状況下になったら。自らの手で毒を相手に飲ませなきゃならない。今後そういう依頼が来るかもしれないだろ?」
「別にわたしは毒を飲ませるつもりはなかったですが、まさかあのスープ、本当に毒が入ってたですか」
わたしと言ったり師匠と呼んだり、演技がガバガバだな。そう思ったマージジルマだが、その点は後で学ばせよう、とも思って。
「入ってねぇよ。けど、自然と飲ませてやれてただろ。お姫さんはピーリカに警戒心を抱いてないみたいだし」
「自然に飲ませてあげたのは、わたしが優しいからですよ。友達がお腹空いてたら可哀そうじゃないですか」
「友達? 契約者だろ?」
「ん、そう、ですね。でもなぁ」
確かにピーリカにとって、セリーナは契約者のお姫様だ。
だけど一緒にいてとても楽しい。そんな彼女を友達と呼んだらダメだろうか。
悩み始めたピーリカの思考を、マージジルマは再び自分の方に戻す。
「んないつまでもピーリカの話なんかしてられっか。続きだ続き」
「何を言いますか。もう少しピーリカの愛らしさについて語り合いましょう。わたしも言います!」
自分で自分の愛らしさを語ろうとするピーリカの口を、マージジルマは左手の親指で抑えつけた。指を動かし、フニフニと柔らかい唇の感触を楽しむ。
「ピーリカの話なんざしなくていい」
右手でピーリカの左太ももに触れる。彼女の体が、ピクッと動いた。太ももから腰元に、ゆっくりと上がっていく右手。それと同時に、彼女の着ていた服が捲れ挙げられていた。ちらりと見えてしまった白い下着を隠すように、ピーリカは彼から顔を逸らし急いで右手を下ろした。
「やっ……ダ、ダメです。夢でもお姫様に気安く触るなど、死刑に等しいのです!」
「自分から寝に来たとか言ってきた女が何を言うか。それに少し触ったくらいで騒ぐな。普通大人はこの程度じゃ動じない」
「う、嘘だ!」
「嘘だと思っててもいいけど」
むにゅん、マージジルマの手が彼女の胸に触れた。




