表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~王子ボコボコ大作戦編~
42/251

弟子、お姫様にあーんする

リビングへと戻ると、師匠が両手に掴んでいた皿を机の上に置いていた。


「ん、出たか。ちょうど出来たぞ」


机の上に並べられた湯気踊るスープ。黄緑色の葉と黄色い豆が入っていて、見た目はとても質素。先ほどの香りの正体は、これ。

その横には平たい皿に乗った丸いパン。

小さな女の子であるピーリカは、パンを半分に千切ってマージジルマの皿に乗せる。


「師匠、これあげるです……いっぱい食べて大きくなりやがれです……」


珍しくおずおずとした様子の弟子。マージジルマはすぐに感づいた。


「お前どこで何食ってきた」

「し、師匠には縁遠いスイーツですが、わたしの意思じゃないです。悪い奴らに無理やり食わさせられたですよ」

「知らねぇ奴から食い物貰うんじゃねぇよ」

「食わさせられたです!」

「はいはい。とっとと食え」

「本当なのです……いただきますですよ」


ピーリカは椅子の上に座ると、早速スプーンを手に取った。スープをすくい、口の中に一口流し込む。素朴ながらも優しい味が、口の中いっぱいに広がった。


「ん、何してるですかセリーナ。早く座って食べろです」

「え、えぇ。いただくわ」


ピーリカの隣に座ったセリーナは、ピーリカが美味しそうにパンをほおばる姿をジッと見つめて、ようやくスプーンを手に取る。


「おいしいですよ」

「そうよね、すごく美味しそう」


そう言っているものの、セリーナの手は震えている。

彼女達の真正面に座ったマージジルマは、同じようにスープを一口飲んだ。視線をスープに向けたまま、セリーナに言う。


「いーよ。疑うのも無理ないし、俺は傷つかない」

「いえ、その……すみません」


スプーンを持つ手を少し下げ、俯くセリーナ。ピーリカは口に入れていたパンを飲み込んでから口を開く。


「セリーナ、師匠を疑ってるですか? 大丈夫ですよ、師匠はロクデナシですがご飯の腕は悪くないです」

「誰がロクデナシだ。つーか、お姫さんが疑ってるのは味じゃない。毒が入ってるか入ってないかだ」

「毒!? んなもん入ってたらわたし食べられません。同じ釜の飯ですよ」

「バカ、俺達呪いの魔法使いだ。個人の飯に毒入れると思われたっておかしくないだろが。お姫さんだし、そういう教育されてんだろ」

「おぉ、なるほど。んん、いえ。わ、分かってましたよ?」


どうしてすぐバレる嘘をつくのか。思いはしたが、マージジルマは口にはしなかった。

ピーリカは自分の皿に入ったスープをすくう。


「でもそれなら、わたしが食べたご飯食べればいいですよ。大丈夫、わたし病気持ってません」

「えっ、で、でも」

「あーん」


ピーリカはセリーナの顔の前にスプーンを上げた。確かにピーリカの食べたものなら、毒味は済んでいるのと同じ事。

はしたないかもしれないが、空腹には勝てない。


「あ……あー」


パクリと口の中に運ばれたスープ。

食べさせてもらったというのは、少し気恥ずかしさもあった。毒の味は全くしない。薄めの味付けだが、体には良さそうだ。

マージジルマはジッとピーリカを見つめる。

その視線に気づいたピーリカは、顔が赤くなる前に憎まれ口を叩く。


「何です師匠。師匠には師匠のスープがあるでしょう。そんなに見ないで下さい。浅ましい」

「別にスープが欲しい訳じゃねぇ」

「じゃあ何です」

「……ピーリカがままごとしてるようにしか見えねぇなと思って」

「ほほう。わたしがママですね。悪くないです。セリーナが子供で、師匠は犬でいいですか?」

「いいわけあるか」


ここで師匠をパパと言えないのがピーリカの可愛い所である。

セリーナは自分の目の前にある皿に手を添えた。


「ありがとうピーリカ。もう自分でいただくわ」

「はい、ゆっくり食べろです」


安心したピーリカは、ちまちまとパンを食べ始める。表面は少し硬いが、中はふっくら。ジャムやバターをつけなくとも、素材の甘味が香りと共に舌を楽しませる。

セリーナも同じものを食べているが、背筋を伸ばしパンを手でちぎって食べている。その姿はまさしくお姫様。


「ごっそさん」


誰よりも早く食べ物を胃袋に流し込んだマージジルマ。この男は時間すら無駄にしたくないのだ。一人立ち上がり、皿を片す。

洗う所まで済ませ、水で濡れた手をタオルで拭いた。


「ごちそうさまでしたですよ」


マージジルマは食器を運んできたピーリカを、再びジッと見つめる。


「何です師匠。ようやくわたしの愛らしさに気づきましたか」

「んにゃ、よくやった」


乱暴にピーリカの頭を撫でたマージジルマ。驚いたピーリカはくるりと背中を向けて、逃げた。


「頭が! 汚れた!」

「何だとクソガキ!」


ピーリカは怒られても止まる事なく風呂場の方へ向かった。脱衣所に設置された鏡に映る、自分の顔の赤いこと赤いこと。

そんなピーリカの元に、スーッと飛んできた白フクロウ。


「何ですかラミパスちゃん、あぁ、餌の時間ですね。さては師匠よりわたしに食べさせて欲しくて来たですね。お利口さんです」


いや食べさせてくれるなら誰でもいい、とは思ったが喋れない設定なので黙ったままのラミパス。

ピーリカは自身の両頬をぺちぺちと叩く。熱を冷まして、ラミパスを両手で抱え師匠の元へと戻った。


「師匠、餌ください!」

「なんだピーリカ、やっぱり足りなかったのか」

「わたしじゃない、ラミパスちゃん! というかわたしが食べるのは餌ではなくご飯と言えです!」

「ピーリカもラミパスも似たようなもんだろ」

「全然違う!」

「へーへー。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


マージジルマの顔の前に現れた魔法陣。彼はその中に右腕を突っ込んだ。そして左手で流しの脇に置かれていた四角い容器を持つ。


『ぎゃあぁぁああああ』


魔法陣の中から何かの叫び声が聞こえた。だがマージジルマもピーリカも驚かない。ただ一人、少し離れた場所でまだパンを食べているセリーナだけが青い顔をしているが師弟は全く気づいてない。

腕を引き抜いたマージジルマの手の中には、赤い血滴る薄い生肉。魔法陣が消えた事を確認し、容器の中にそれを入れる。

血まみれの手を洗い、肉をペティナイフで一口サイズにカット。肉の上にピンセットを添えて、ピーリカに渡す。

容器を受け取ったピーリカは、反対の腕でラミパスを抱えた。ラミパスを止り木の上へ連れて行き、ピンセットで生肉を摘む。


「はいラミパスちゃん、あーんですよ」


生肉を啄むフクロウを見て、ピーリカはため息を吐いた。


「ラミパスちゃんは何にも悩みがなさそうで良いですねぇ……」


僕にだって色々あるんだけどなぁ、とは思っていたものの。やっぱりラミパスは喋らなかった。




 ベッドよりも背の高いセリーナは、ヒザを折り曲げて横になる。一緒のベッドに入ったピーリカは、彼女の体を気遣った。


「狭いですか。やっぱり師匠のベッドを強奪してくるですか」

「大丈夫よ。気にしないで」

「そうですか。ならゆっくり休んでください」

「えぇ。ところでピーリカ……さっきのラミパスちゃんのご飯の時に聞こえた声って」

「なんで寝る前にそんな事聞くですか。おねショしちゃうですよ」

「聞いてはいけない事なのね?」

「いけない訳じゃないですけど、知らない方が幸せな事もあるですよ。大丈夫、人間ではないとだけ言っておきましょう」


余計気になったが、これ以上深入りするのもよくないと判断したセリーナ。


「何も聞こえなかった事にするわ」

「それが正解です。さぁ、早く寝ましょう。早く寝ないとお肌が荒れるのです」

「ふふっ、そうね。おやすみなさい」


セリーナは疲れていたのか、いつものお姫様ベッドと比べかなり質の悪いであろうピーリカのベッドでもすぐに眠ってしまった。

一方のピーリカは全く眠れなかった。

さっきの師匠の行動は、一体何なんだ。師匠がいきなり自分の頭を撫でるなど、今までそんな事は一度も無かった。撫でられたのは嬉しいけれど、やっぱりおかしい。けれどその理由を聞いても、きっと師匠は教えてくれない。

それに今日は、計算外な事があった。

テクマというライバルになりかねない相手がいた事だ。いくら相手が男だか女だかもよく分からないと言えど、それが恋人関係にならないとは言い切れない。

などと考えて。


「よし……セリーナ、ちょっとごめんですよ。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


彼女達の体の下に現れる魔法陣。光に包まれたピーリカはセリーナの姿へと変身した。目の前に眠るピーリカの体には、セリーナの魂が入っているのだろう。

自分の愛らしい寝顔に惚れ惚れしつつも、ピーリカは師匠から真実を聞き出すためにセリーナの体で部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ