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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~王子ボコボコ大作戦編~
31/251

弟子、依頼を受ける

 指名されたのは青い髪に褐色肌の女。オフショルダーにショートパンツ姿で、右の太ももには黒い三日月が描かれていた。彼女の名はイザティ・エヒナム。青の魔法使い代表である。

首を左右に振ったイザティは小さく丸い目を潤ませた。


「お魚さんを何だと思ってるんですかー。嫌ですよぉ。それにオーロラウェーブ王国の人達、裏の顔がすごいって噂ですしぃ。怒られるの怖いですー」

「俺が今お前に向かって攻撃するのと、どっちが怖い?」

「あーん、マージジルマさんが苛めるー」


目元に涙を溜めるイザティ。脅迫するマージジルマの頭の上に、白フクロウが留まった。


『マージジルマくん、同業者苛めないで。ところでさぁ、もし君が断ったって話を聞いたら、ピーリカはどう思うだろうね。天才の自分がやるって言うかな。それでもいいかな』


マージジルマの脳裏に浮かぶ、爆発の光景。


「……俺がやりゃあいいんだろ、クソっ」

『素直で嬉しいよ。じゃあ、ちゃんと君が頑張ってね。それじゃ、次の議題に行こうか』



                  ***



 会議を終えたマージジルマと白フクロウの目に映ったのは、木の棒を持ち地面に絵を描いているピーリカの姿だった。参考書は放り投げられている。


「ったく。お前って奴は……」

「おや師匠。今度こそ終わったですか」

「あぁ。隣の国のお姫さんを喜ばせなきゃなんなくなった」

「お姫様を? 何故」

「お前のせいだバーカ」

「八つ当たりしないで下さい。それより喜ばせるってどんな風にですか。まさか桃の民族みたいに、出会った瞬間口説くとかするんじゃないでしょうね。ダメですよ、許しません。師匠にそんな屈辱的な事をさせていいのはわたしだけですよ」

「お前相手でもそんな事やらん。ただの接待」

「そうですか。まぁ師匠がみっともなく鼻の下伸ばし野郎にならないのであれば、別にどうだっていいですけどね。師匠が変態とか、わたしが恥ずかしいですから。で、どうやって喜ばせるんですか」

「それが思いつかないから困ってるんだ」

「そうですね、師匠はアホですからね。仕方ない、わたしがどうにかしましょう。なんかすごい事をやってやるです」


ピーリカがやると言い出さないように引き受けたのに、彼女は結局やると言い出している。マージジルマは胃痛を感じていた。


「無理に決まってるだろ、絶対に動くな」

「わたしに出来ない事なんてありません。わたしの手にかかれば、なんか、こう、うまくできます」

「ふわっふわな回答してんじゃねぇぞ。教えただろ。この国で使える魔法は七種類。炎の赤、水の青、電光の黄、植物の緑、生命の桃、回復の白。そして俺達が使う、呪いの黒。組み合わせて使う事もできるけど、黒もまともに使えないピーリカにはまだ早い。呪いで他人喜ばすとか、できる訳ねぇっての」

「ほぉ、初めて聞きました」

「もう五十回は教えてる。炎や水を出せる赤とか青とかならまだ何とかなっただろうけど、俺らが出せるのはせいぜい毒とか死体だからな」

「なるほど。それで喜ぶ奴頭おかしいですね」

「だからどうしようかって話なんだよ。誰かに押し付けられねーかなぁ」

「わたしが手伝ってやるですってば」

「いらん」

「遠慮せずとも」

「遠慮じゃねぇ。全力で嫌がってる」

「何故ですか。わたしやれば出来る子です」


ピーリカは頬をパンパンに膨らませて怒る。そんな彼女を、師匠は指さす。


「それは認めてやる。俺だってお前に出来そうな事ならやらせてやるが、最初から無理だと分かるもんに手は出させねぇ」

「諦めない心が大切なのですよ」

「分かってる。だから俺はお前に参考書を渡した。そこに載ってる問題は、努力すれば出来るようになると思うものだから。でもそれすら放り投げてるような奴に任せる事は何もない。やれば出来るくせに、やらないバカなんざ俺は知らん」

「大丈夫です。わたしは天才ですから。参考書なんて読まなくてもうまくいくですし、努力しなくても何とかなるです」

「その自信の持ちすぎをどうにかしろ。とにかくお前の手助けなんかいらん。いいから早く帰るぞ。あぁでも、先に絨毯の金出しに行かなきゃか。くそ、余計な出費だな。こうなったら金払う前に元取れるくらい乗りまわすか。ピーリカ、帰る前に飛び回るぞ。ドライブだ」

「やっぱり師匠はケチですよ」


ここまで金に汚いのは、黒の民族性ではなくマージジルマ個人の性格である。だがその性格のおかげで、お出かけ時間が伸びた事にピーリカは喜んでいた。勿論、口にはしないけど。


        

               ***



 太陽が沈み始めた頃。帰宅し自分の部屋のベッドに座ったピーリカは、やっぱり納得できずにいた。


「わたしは天才なんです。呪いでも、師匠を助ける事が出来るはずです。要はお姫様に優しくすればいいんでしょう。それくらい朝飯前ですよ。よし、ここは師匠に内緒でやってみましょう」


ロクな事を考えないピーリカはベッドから降りて、両手を天井へかかげる。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーレ!」


正しくはラリルレリーラ・ラ・ロリーラ。彼女は間違った魔法の呪文を唱えた。

魔法陣がピーリカの足元に浮かび、彼女は部屋から姿を消した。


「ふぎゅっ」


ピーリカの顔面がフカフカな何かに包まれた。顔を上げて見ると、どうやら柔らかなベッドの上に落ちたようだった。だが自分のベッドではない。もっと豪華で、透けたカーテンのついた高そうなベッドだ。


「お姫様のベッドだぁ……」

「誰っ」


ピーリカの目の前に、深緑色をした丈の長いドレスを着た少女がいた。編み込まれた茶色の髪と、同じ色をした大きな瞳。背丈はマージジルマより高く、スラッとしたモデル体型。

わたし程ではないが、キレイな人だ。そう思ったピーリカ。どこまでも図々しい。


「この愛らしいわたしの事を知らないとは、余程の世間知らずですね。仕方ない、教えてやるです。ピーリカ・リララ。いずれはカタブラ国で黒の民族代表になる天才魔法使いです」


ピーリカは堂々と答えた。本当に図々しい。

目の前にいるピーリカの見た目と心の小ささに、少女は少しだけ警戒心を解いた。


「黒の魔法使い……聞いたことがあるわ。この世の全てを無かった事にすら出来る、呪い専門の魔法使い、だったかしら」

「はい。窃盗、強奪、殺傷。法に触れないレベルなら何でもやるでぇす」


法というのもカタブラ国独自の法だ。呪いの魔法を使うのが当然のカタブラ国。他の国の法とは訳が違う。他の国であれば、きっとピーリカはとっくに逮捕されている。

その事を理解した上で、少女は口を開いた。


「本当に何でもやってくれるの?」

「えぇ。わたしは天才ですから、出来ない事なんてありません」

「そう。じゃあお願い。私の事、誘拐して」

「分かったですよ。でも当然、タダって訳にはいかねーです」

「そうよね……って、誘拐はしてくれるの? 普通もっと驚いたり、理由を聞いたりしない?」

「何をほざいてやがるですか。呪いの魔法使いですよ。その程度の依頼、聞き飽きてるですよ。だれかをああしろ、アイツをこうしろ。世の中そんなのばっかりです。あぁ、やだやだ」


偉そうに言っているが、全て師匠が行った仕事である。

知らずに納得した少女。


「そっか、そうよね。ごめんなさい。じゃあ話を続けましょう。勿論タダとは言わないわ。お望みはおいくら?」

「わたしはケチじゃないのでお金なんて要求しません」

「お金いらないの? じゃあ何を」

「決まってるでしょう。それですよ」


にんまり笑ったピーリカは、スッと少女の胸元を指さした。

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