双子、これが初恋 <後編>
急いで自分の服に着替えたファンファンは、姉のいる部屋に戻る。
ランランは頬を膨らませて、自分のワンピ―スを持って行ってしまった妹を怒った。どうやら、後は服の完成を待つだけになったらしい。
「ファンファンどこ行ってたでしゅか。ランランのお洋服汚さないでくだしゃい」
「汚してねーし!」
「お顔が赤いの何ででしゅか?」
「うるせー! 終ったんなら帰るぞ!」
「まぁ、服は後日送ってもらう事になってるでしゅけど……何かあったんでしゅか?」
「何もねぇし!」
このままここにいれば、プルルータを騙していた事がバレてしまうかもしれない。それにまた会うのも、なんか恥ずかしいし。
そんな気持ちを抱きながら、ファンファンはランランを連れてオーロラウェーブ王国を出て行った。
カタブラ国、黒の領土に戻った双子。山の中にポツンと建っている一軒家に帰ると、血だらけになった母が出迎えた。
「どこ行ってやがったですか二人とも」
「ちょっと遊びに行ってただけだよ。ママこそ、そんな血だらけでどうしたんだよ」
「安心なさい。返り血です」
彼女の名前はピーリカ・ジドラ。白の魔法使い代表であり、双子の母親である。
そんな彼女の後ろから、ボサボサな髪の男が現れた。
「変な事自慢してんじゃねぇよ。汚いから飯の前に洗ってこい」
彼の名前はマージジルマ・ジドラ。黒の魔法使い代表であり、双子の父親である。
ピーリカは大きく成長した胸を張って、己の強さを自慢する。
「汚いとは失礼な。確かに汚い奴らの血ではありますが、そんな悪い奴らを倒した正義の証でもあります。娘たちとて、強く美しい母をもって幸せだと感じているはずです」
一体何を言っているのか。マージジルマは呆れた顔で妻を見ていた。
ピーリカは期待に満ちた目で、娘たちを見つめている。
娘たちはにっこり笑って、それぞれ母の左右に立ち。そのまま跪いて、盛大に母を称える。
「当然! 流石は私らのママ。美貌も魔法も世界一~~!」
「全てにおいて天才的でしゅー」
娘たちの答えを聞いて、ピーリカは満足そうに笑みを浮かべた。
「そうでしょう、そうでしょう! さて、すぐシャワーを浴びて来るとしましょう。出たらお誕生日パーティーの開催ですよ。ちょっと待ってろです!」
ピーリカは上機嫌で部屋を出て行った。
それと同時に、娘たちの顔からフッと笑みが消える。
「ママの事は大好きだけどさ、こう、たまぁにめんどくせぇ時があるよな……」
「でもそれを我慢するのが家族の平和のためなんでしゅー」
娘たちの呟きを聞いた父親は、頭を抱えた。
「お前らの方が大人だよ」
マージジルマはそう言いながら台所へと向かう。どうやら誕生日パーティーの準備をしてくれるらしい。
ランランはファンファンのシャツの裾をクイっと引っ張った。
「ファンファンも走り回って汗をかいてましゅよね。パーティーの前にママと一緒にお風呂に入った方がいいでしゅ」
「うぇー……めんどくせぇし、後でも良くねー?」
「ダメでしゅよ。ランランも入りましゅから、一緒に行きましょう。そうすればパーティーの後だって遊び放題でしゅ」
「……まぁ、それはそれで悪くないかー」
双子は着替えを持って、お風呂場にいる母の元へ向かう。
「ママー、私とランランも一緒に入るー」
「おやまぁ。歳を取ったというのに、まだまだ甘えたさんですねぇ。それでも随分大きくなったです。ファンファン、ランラン。おめでとーです」
たとえどんなにめんどくさい母親でも、大好きではあった。二人は揃って微笑んだ。
「「ありがとーっ」」
その後家族四人は、大きなケーキにご馳走を囲み。とても楽しい誕生日パーティーを過ごした。
***
後日。玄関のチャイムが鳴り、ファンファンは勢いよく扉を開けた。
そこにはドレスを持ってきたプルルータの姿があった。後ろにはおつきの者もついている。
先日のキスを思い出してしまい、ファンファンは逃げるようにランランを呼びに行く。
「ランラーン! なんかプルルータ来てる! 多分お前の事好きなんだと思うー!」
呼び出されたランランは、表情を歪めている。
「訳の分からない事を言わないでくだしゃい。プルルータ、ランランの事好きなんでしゅか?」
ランランは珍しく自らプルルータの前に立った。人前に隠れている場合ではないと判断したらしい。
プルルータはおどおどしながら答えた。
「えっと、ランランを名乗ってたファンファンの事は好きだよ?」
「……それはファンファンの事が好きなのとは違うでしゅか?」
「だってファンファンをファンファンって呼ぶと、ランランって呼べって怒られるから」
「……ファンファン~~」
何故ファンファンがおかしな事を言い出したのか、プルルータが何をしに来たのか。ランランは大体把握した。
姉が怒っていると気づいたファンファンは、リビングのカーテンの裏に隠れ叫んだ。ランランは追いかけて、妹を問い詰める。
「し、知らないし! ランランのふりとかしてないし! 大体、本当にランランだったかもしれないだろ! ランランが覚えてないだけで!」
「じゃあテストするでしゅ」
「テスト?」
「プルルータ、ちょっと待ってろでしゅ」
ランランはファンファンを連れて、自分達の部屋へ向かう。
しばらくして、二人ともおそろいの恰好をして戻って来た。
「「どっちがどっちでしょうか!」」
プルルータは目の前に立った双子を見つめ、スッと片方を指をさす。
「こっちがファンファン」
「当たりでしゅねぇ」
「ま、まぐれかもしれないだろ! もう一回だ!」
着替えて問題を出して、着替えて問題を出して。その繰り返しだった。
結果は百発百中。
「ランランもう疲れたでしゅ。観念してファンファンが結婚してやれでしゅ」
「なっ! そもそもはランランがアイツと結婚したいって言うから!」
「嫌いじゃあないとは言いましたが、結婚したいなんて言ってないでしゅ」
言われてみればその通りだった。二人をくっつけようとしたのも、自分がおいしいもの食べ放題になりたかったからだ。
「そ、そうだ。お前この間知らない人と結婚させられそうって」
「それはなくなった、よ。ピクルス姉様にファンファンの事を言ったら、父様達に口添えしてくれて……」
「ぴ、ピクルスの奴、私の事を裏切ったのか!?」
「僕とファンファンが結ばれれば、それってつまりピーリカ様と親戚になれるって事でしょ? って」
「そうだった、アイツママの事大好きだった!」
頭を抱えたファンファンの前に立ったプルルータは、そっと彼女の手を握った。
今まで恋愛事など一切興味のなかったファンファンは、予想外の出来事に顔を赤くさせた。
「ファンファン」
「だ、だから私じゃないって」
「じゃあ今見てる方のジドラさん。僕と結婚してくれる?」
大人しそうなプルルータの、まっすぐな告白。
双子の姉がモテる事はあっても、自分自身がモテる事など今までなくて。
ファンファンは自分が愛される事をまだ知らず、その変化を恐れた。
「う、う、う、うわーーーーーー!」
「ま、待って……」
外へと逃げたファンファンを、追いかけるプルルータ。おつきの者も一緒になって二人を追いかけた。
「やれやれ。困った妹でしゅ」
その場に残ったランランの前に、地下室から上がって来た父親が現れた。
「今誰か魔力のない奴が来てなかったか?」
「あっ、パパぁ。プルルータが遊びに来てましたけど、ファンファンと遊びに行っちゃったでしゅ。ママはお仕事でしゅ」
「そうか」
「じゃあランランもお出かけしてきましゅね。ウラナ君にこのかわいいドレスを見せて来るでしゅ」
「人を騙すのも大概にしろよ」
「人聞きの悪い事を言わないでくだしゃい。いってきまーしゅ」
プルルータの持ってきたドレスを手に、ランランは家を出て行く。そんな娘を見て、マージジルマは思わず呟いた。
「……あんな奴のどこが良いんだか」
***
「と、いうわけで。ファンファンはプルルータと良い感じになりそうでしゅ」
「そうかそうか。ようやくあの子にもそういう人が出来たか! ふぇひひ!」
プルルータが持ってきたドレスに着替えたランランは、ウラナの前に立ってクルリと一回転。
「それよりウラナ君、何か言う事ないでしゅか?」
「え? あぁ、新しいドレス姿? とってもかわいいよ。流石はピーリカ嬢とマージジルマ様の娘だよね!」
誉め言葉を聞いたランランは、嬉しそうに笑う。
「そうでしょう、そうでしょう」
「うん。ちなみにランランは良い人いないの? なんなら僕が見つけてきてあげるよ」
「好きな人ならいましゅから、余計な事しないででしゅ」
「えっ!? 初耳だよ!? どんな人どんな人どんな人!?」
新しい恋愛話を聞き出そうと、ウラナは前のめりになってランランに近づいた。
「ところでウラナ君、まだ童貞でしゅか?」
「女の子がなんて事聞くんだい! そりゃ勿論そうだけども!」
「あぁ良かった……じゃあ」
ランランはウラナの胸倉を掴んで、彼の顔の前に自分の顔を近づけさせる。その距離は、彼女が背伸びさえすれば、キスしてもおかしくないくらい近づいている。
「あたしが大人になるまで、ちゃあんと取っとけ? コノヤロー」
「……あっ、そうくるーー!?」
ランランの好きな人を理解した桃の魔法使い代表の顔は、途端に青くなった。
「それとも今の内に手を出させておいた方が、他の女の人が寄って来ないでしゅかねぇ」
「待って待って! 僕、君のお母さんとほぼ同い年だからね?!」
「知ってるでしゅよ。でも愛に歳の差なんて関係ないのでしゅ。パパとママが証明してるんでしゅ」
「それはそうだけど、ちょっと、どこ触って、あっこら魔法はダメだって、う、うわーっ!」
彼女の名前はランラン・ジドラ。白と黒の魔法使いの娘であり――パイパー・リララの孫である。
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