双子、これが初恋 <前編>
カクヨム版を終わらせた記念に、少しだけおまけを書きました!
お楽しみいただけますと幸いです。
赤、青、黄、桃、緑、白、そして黒の、七種の民族が暮らすカタブラ国。
その国の安全と平和を守るのは、それぞれの民族代表である七人の魔法使い。
「黒マスクと痴女発見! 行くぞランラン!」
「ふぁんふぁんー、待ってでしゅー」
守られて平和な国では、ある双子の少女達が赤の領土を駆け抜けていた。
手を引かれて泣きながら走っているのは、双子の姉。フリルに覆われた白色のワンピースを着、頭に大きなリボンをつけている。
そんな姉の手を引っ張るのは、双子の妹。姉とは違い、シンプルな白いシャツに黒の短パンを履いている。胸元では紐状のリボンが揺れていた。
彼女達の名はランラン・ジドラとファンファン・ジドラ。白と黒の魔法使いの娘である。
二人ともまだ子供ではあるが、母親に似てかなり整った顔をしていた。肩まで伸びた髪も、身長120センチという点もまったく同じ。おそろいの服を着てしまえば、どちらがどちらか分からなくなる程そっくりだった。
けれども真逆な性格で、好みの服もバラバラ。
姉のランランは人の後ろにすぐ隠れるような、ピンクのリボンやフリルが大好きな娘であり。
妹のファンファンは活発で、動きやすければ何でもいいと言う。
双子は国の代表であるシャバとピピルピの前に立った。
「おい聞け下々! 今日は私とランランのバースデー!」
「なんでもいいから祝えでしゅー」
それはもう、とても偉そうに。
ランランなどファンファンの後ろに隠れているというのに。
だがシャバもピピルピも慣れていた。双子の両親と仲の良い二人は、双子の事も赤ん坊の頃から知っている。
「はいはい、Happybirthday」
「お祝いにチューしてあげる!」
ファンファンもシャバの後ろに隠れ、ランランはさらにその後ろに隠れる形になった。
「チューはいらん! 称えろ!」
「よくも悪くもピーリカに似てるんだよなぁ……いや、マージジルマも図々しいとこあるし、どっちもどっちか」
勝手に盾にされたシャバは、呆れながらもピピルピから双子を守る。
ピピルピは残念そうに、双子を見るだけにとどめている。勝手に手を出して双子の両親から嫌われたくもないと思っていた。
「それにしても、二人とも本当に大きくなったわねぇ。そろそろ魔法も使えるようになった?」
それを聞いたファンファンは、シャバの前に飛び出す。ランランもファンファンにしがみついたまま、シャバの前に立った。
「当然だし。なんたってパパとママの子だからな、天才に決まってるだろ!」
「いつかは代表にもなるんでしゅー」
シャバもピピルピも微笑んで、未来の代表に期待する。
「それは心強いな。ところで、どっちがどっちになるんだ? 二人とも黒の民族だし、得意なのは黒の魔法の方だろ? 喧嘩にならない?」
「イメージだと、ランちゃんが白の魔法使いで、ファンちゃんが黒の魔法使いかしら」
双子は首を左右に振って、にこやかに答えた。
「私が白で」
「ランランが黒でしゅー」
シャバとピピルピは驚いて、一瞬お互いの顔を見合わせていた。
「そうなの? てっきりオレもファンファンが黒なんだと……」
「ファンちゃんの方が色々壊してるもんねぇ」
ファンファンは怒っているが、少し心当たりもあるらしい。
「どういう意味だ! まぁ別に私はどっちでも良いんだけど、ランランが黒が良いって言うから」
「ファンファンなら白の魔法だって使えると思ってるんでしゅー」
「まぁな! 天才だからな! おっと、こうしちゃいられない。早く次に行かないとな。じゃあな黒マスク、あと痴女! プレゼントは郵送しとけ、もちろん元払いだ!」
双子は自分達の伝えたい事だけ言うと、元気よく走って行った。
「金に汚い所はマージジルマに似やがった」
「似たというか、そう教育されてるのよ。きっと」
***
「あぁ~~かわいいねぇかわいいねぇ、流石はピーリカ嬢とマージジルマ様の子! 二人の愛の結晶! 君らの事は僕が絶対に幸せにするからね!」
顔は良いのに中身は残念な男。彼の名前はウラナ・リンパライ。彼女達の母親の同僚であり、桃の魔法使い代表である。
カップル大好き男であるウラナは、カップルから夫婦になったピーリカ達の娘を、とにかく可愛がっていた。幸せにするというのも、いい相手を見つけてやるという意味である。
「相変わらずキモいなウラナ。まぁプレゼントは寄こせよ」
「ランランにもしもの事があった時は絶対守ってくだしゃいねぇ」
ここでも自分達の言いたい事だけを言ってすぐ帰る。
盗んだほうきで空を飛んだ二人は、満足そうな顔をしていた。
「よし、国中の奴らに言い終えた。これで我が家はプレゼントでいっぱいになるぜ」
「ランランはドレスが欲しいでしゅー」
「ドレスか……じいちゃんかシーララの野郎がくれれば良いが、念には念を入れよう。オーロラウェーブ王国に行って、セリーナやピクルスたちにも貢がせてやろう」
王族相手だろうと関係なく、彼女達は偉そうだった。
こうして双子は海を渡り、オーロラウェーブ王国へと向かう。そしてまったく悪気なく不法に入国して行った。
「ピクルスー」
双子は街中にいた知り合いに声をかけた。
振り向いたのは、この国の姫であるピクルス。今は街中に遊びに来ていたらしい。
服装は男っぽいが、女性的な体つきをしている。髪も伸ばし、誰もが女性だと判断できた。かつて男である事を強いられた彼女は、もうどこにもいない。
「あれ、パンダちゃん達いらっしゃい」
ピクルスはからかうように二人を呼んだ。
「パンダって言うな。それより祝え! 今日は私とランランのバースデーだ」
「ドレス欲しいでしゅー」
白と黒の魔法使いの娘であり、名前もどこかパンダのイメージがあるからか。双子の事をパンダと呼ぶ者達も少なくない。
「へぇ、おめでとう。なら仕立て屋さんを呼んであげるから、お城まで来なよ」
ファンファンは首を横に振る。
「私はドレスはいらない。おいしいものが良いから、後日郵送しろ。元払いでだ」
「しっかりしてるよね。まぁ良いけど。とりあえずランランのサイズ測らなきゃ。ファンファンもお茶菓子くらい出してあげるから、おいで」
「仕方ない、もてなされてやるとしよう」
「ピーリカの子じゃなかったら追い返してるよ」
城に到着し、ランランは仕立て屋の用意した布生地を嬉しそうに選んでいた。
ファンファンはお茶菓子を食べ終え、ミルクティーを飲み干す。
「あー……まだ終わんないよなぁ……」
そして暇になってしまった。姉がどんなドレスを作らせようとしているのか微塵も興味がない。
その時、部屋の扉が開いた。双子より少し年上の少年が、扉から顔をのぞかせている。茶色い髪に、同じ色をした大きな瞳。立派な王子服に身を包んでいるというのに、おどおどした表情。双子達は彼の事を知っていた。
母の友人でもあるセリーナの息子であり、自分達も彼で遊んだことがある。
「プルルータ?」
「あ、えっと、ごめんなさい……」
プルルータと呼ばれた少年は、そっと扉を閉じた。
何故プルルータがここに来たかを察したピクルスは、ため息を吐いた。
「プルルータっては、さては逃げ出したね」
「逃げ出した?」
「あの子、今日おじい様が決めた婚約者候補ってのに会う約束があるはずなんだよ。もう会ってる時間のはずだから、きっと逃げてきたんでしょ。まぁ気持ちは分からなくないよ。僕は応援する」
「こんにゃくしゃって何だ?」
「婚約者。結婚相手の事だよ。王族だから、子供の内に決められるんだ」
「ふーん。王族って大変なのな」
そう言ったファンファンだが、よく分かってなさそうだった。
ランランはうっとりした顔で頬に両手を添えた。
「でも羨ましいでしゅ。ドレスも着れるしお城に住めるんでしゅ。そういう事ならランランがアピールしておけば良かったでしゅ」
「なんだランラン、プルルータと結婚しても良いのか?」
「嫌いじゃあないでしゅよ。泣き虫でしゅけど、優しい奴でしゅ」
「まぁ、それはそうだけど……」
「それに、お城に住めばおいしいものもタダで食べ放題でしゅー」
おいしいものタダで食べ放題――ファンファンはものすごく興味を抱いた。
ピクルスが呆れた顔を見せる。
「そんな良い事ばっかりじゃないから。それよりランラン、サイズ測るから。薄着になって」
「はいでしゅー」
ランランは素直にワンピースを脱ぎ、仕立て屋に採寸させる。
服には一切興味のないファンファンは、にんまり笑った。
「ピクルスー、ちょっと探検してくるからランラン頼むわー」
「君って自由だよね。嫌いじゃないけど」
ファンファンは、洋服作りに夢中になっている様子の姉のワンピースを拝借。
一人で部屋を出て行き、隣の部屋に勝手に侵入する。部屋の中は物置になっているのか、古びた鏡や机が置かれており。人は誰もいなかった。
「ランランがプルルータと結婚すれば、タダでうまいもの食べ放題。ランランもまんざらじゃないっぽいし、仕方ねぇ。内気な姉を持つと苦労するぜ」
そう言ったファンファンは、うきうきしながら着替える。姉のワンピースを着て、自分のシャツに着けていたリボンを頭の上で結ぶ。
中身は違えど、見た目は双子。妹は姉と同じ姿になった。
「今日もかぁいいランランでしゅー」
頬に人差し指を添えて可愛くポーズをしてみたが、自分の演技が想像以上に気持ち悪くて。鏡の前で舌を出す。
「まぁ少しの間だし、我慢しよう。見た目は同じだしな。プルルータを騙すくらい楽勝だろ」
そうと決まれば即実行。ファンファンは部屋を飛び出し、プルルータを探し回った。
広い城の中を走り回り、姉のワンピースを汗まみれにしたファンファン。
むしろ動きづらく暑苦しいワンピースの素材に怒りを抱き始めた。
「くそっ、もう諦めて帰ろうかな。そろそろランランの方も終わるかもしれないし」
いっそ姉も置いて行って先に帰ろうかと、庭の方に目を向けた。その時だ。
城を囲うように広がっている薔薇の壁の下に、膝を抱えてうずくまっている少年の姿を見つけた。
ようやく見つけたターゲット。ファンファンは気を取り直して、自分がランランであると思い込む。
「プルルータぁ」
「ファンファン……」
「ランランでしゅ、間違えないでくだしゃあい」
「? ファンファ」
「ランランがランランって言ってるんだからランランなんでしゅ。分かれこの野郎でしゅ」
「ラ、ランラン……」
脅迫しながらプルルータに近づいたファンファンは、彼の隣に座り込んだ。
「ところで、何で逃げてるんでしゅか? お嫁さんを決めるんでしゅよね?」
「だって今日決めろって……今日会ったばかりの人達から選ぶなんて……」
「知らない人と結婚したくないんでしゅか? じゃあランランと結婚しろでしゅ」
「えっ?」
「ランランなら赤ちゃんの頃からのお友達でしゅから。天才でしゅし、愛らしさもあるでしゅ。大人になれば宝石や月のような美しさも兼ね備えるでしゅ。ファンファンと同じで」
彼女は自分自身にも自信があった。
「えっと、ファ……ランランはそれでいいの?」
「いいに決まってるだろ。じゃなかった。いいに決まってましゅ。ランランをプルルータのお嫁さんにしてくだしゃい」
目をうるませ、かわいこぶりっこ姉のまねっこを全力で演技する。全ては将来、タダでおいしいものを食べるため。
そうとは知らないプルルータは、頬を赤らませていた。
「分かった。じゃあ、えっと、よろしく、ね」
良い返事を聞けたファンファンは、思わずガッツポーズ――したのだが。
ファンファンの頬に、プルルータの唇が触れる。
突然の出来事に理解が追い付かなかったファンファンは、とりあえず彼をビンタした。
「何すんだこの野郎ーっ!」
こんなはずじゃなかったのに。何故かドキドキする。
ファンファンは顔を赤くさせながら逃げた。




