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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~初恋師弟のハッピーエンド編~
249/251

いつまでも、これからも!

 その頃、式場の控え室では着替え終えた花婿と花嫁が対面していた。

マージジルマは灰色のベストの上に白いタキシードを着ている。髪もしっかり整えて、革靴もきれいに磨かれたものだ。

ピーリカが着ているのは、プリンセスラインの真っ白なウェディングドレス。薄いレースで作られた長い袖は、娘の肌を見せたくない父親からの最後の意地だろう。長く伸びた髪はアップにして、花の飾りをつけていた。

顔を赤くさせたピーリカは、マージジルマへのトキめきを隠すように大声を出した。


「どうです師匠! 貴様の嫁は今日も美しいですよ、良かったですね!」

「へーへー。かわいい嫁さんがいる俺は幸せ者ですよ」


マージジルマも着飾った嫁を目の前にして照れてはいるが、ピーリカがうるさいおかげで冷静に答える事が出来た。


「そうでしょう、そうでしょう! 師匠もまぁ、今日はまぁ、短い足が長く見えるんじゃないですかね!」

「お前それ褒めてるつもりか?」


ピーリカはくるりと回って、後ろ姿も見せつけた。彼女が動くたびに、ウエディングドレスもふわりと揺れる。

 

「しかし、本当に変な所とかないですか? 後ろから見ても、変じゃないです?」 

「大丈夫だっての。何だ、ガラにもなく緊張してるのか?」

「だって皆に見られるんですよ。髪がボサボサだったりしたら恥ずかしいじゃないですか」

「そんな事ないから安心しろ」


マージジルマが心の中で「お前自身はすごく変だけど」と呟いたのは内緒の話である。


「ピーリカ、お客様よ。式の前にお話しておきたいんですって」


部屋の扉をノックをしながら、ピーリカの母親が入ってきた。彼女はパメルクが外国の服を参考にして作った、キモノと呼ばれる丈の長い服を着ている。

その隣に立っていた、紺色の王子服を着た男。彼は後ろに護衛を連れて、部屋の中へ入ってきた。


「お招きありがとう。二人とも元気そうで何よりだよ」

「おや、プラパ。こちらこそ長旅ご苦労ですよ。セリーナは元気ですか?」

「元気だよ。ただ、流石にまだ産後だからね。大事をとって、今日は不参加にさせてもらったよ。すごく残念そうにしていた」

「どこぞのバカが勝手に準備してた事もあって、招待客の都合など一切考えずに決めてしまったですからね……セリーナにはまた別で会いに行くとしますよ」

「そうしてくれると嬉しいよ。もう少し落ち着いたら、ムーンメイク王国への帰省を兼ねてこちらへ寄る事も出来るだろうからね。ただ、伝言を頼まれてね」

「伝言?」

「あの時の夢、ちゃんと叶えたのねって」


あの時の夢と言われて、ピーリカは思い出した。セリーナが嫁に行く時に誓った、あの言葉だ。


『時間はかかるかもしれないし、実る頃には大人になっちゃうかもしれないけど。それでもいい。どんな事があろうとも、わたしの初恋は苦くならなかったって照明してみせるです。次セリーナがこっちに帰って来る時は、わたしは師匠を虜にしてひれ伏せてやるです』


ピーリカはニッと笑って、自信満々に答えた。


「当たり前でしょう。天才ですから。有言実行なんです、そう言っておきなさい」

「分かった。あと、ピクルスの件でオーロラウェーブ王国では君の事を悪い魔女だと思ってる人が多かったんだけど」

「勝手に言わせておきなさい」

「違うんだ。その後、バルス公国との闘いでカタブラ国から避難してきた人たちがいただろう? そのまま移住して来た人たちがね、あのピーリカ様が根っからの悪者な訳ないだろって弁解していてね。オーロラウェーブ王国の者たちも、考え方が変わってきてるんだ。ピクルス自身が変わり始めてる事もあってだと思うけど」

「ほう、流石はわたしが守るカタブラ国の者たち。分かってるじゃないですか」

「そうかもね。ともかく、これからもオーロラウェーブ王国には気兼ねなく来てくれ。少なくとも僕とセリーナ、ピクルスは歓迎するよ。それじゃあ、また後で」


プラパが部屋を出ると、接待のためにと彼女の母親も手を振って出て行く。

セリーナを想い、ピーリカは少し寂しそうな顔をしていた。そんな彼女の横に、マージジルマは立つ。


「新婚旅行、オーロラウェーブ王国にでもするか?」

「しっ!? 師匠、そんなお金のかかるような事して良いんですか!?」

「お前な。俺だって使う時は使うんだよ。必要なものにしか金を出さないってだけだ」

「……わたしとの旅行は、必要なものって事ですね?」

「……ま、そういう事だ」


ピーリカのニヤけが止まらない。マージジルマは顔を背けた。

そんな二人がいる部屋の中から、か弱い声が聞こえてくる。


「いいね、僕もラミパスとしてついて行こうかな。でも疲れそうだし、おみやげを買ってきてもらうのでもいいかも。なるべく歯に負担のかからないものを希望するよ」


見れば部屋の隅に置かれた大き目なソファの上で、テクマが寝そべっていた。黒いスーツ姿でいるテクマだが、細見なせいか男なのか女なのかはっきりしなかった。もはや師弟にとって、テクマの性別などどちらでもいい事ではあったが。


「いたのか、絶対連れては行かないからな。土産くらいなら考えてやる」

「いるに決まってるでしょ。そんなに僕を邪険にしてまで二人でイチャイチャしたいの?」

「来ようとしてるお前が図々しいんだろ」

「悲しいなぁ。僕は君たちとずっと一緒に居た身だって言うのに。体弱いから、そんなに長くは一緒に居られないかもしれないのに」


師弟は呆れた顔で、「しくしく」と口に出して悲しむテクマに近づき。指でテクマを突く。


「縁起でもない事言ってんじゃねぇよ。仮に死にかけたら魔法かけてやるし」

「そうですよ。それに今は白の魔法を使わずとも治せる病気だってあるくらい、医療も進展してます。安心して長生きしろです」


テクマは嬉しそうに微笑んで、ゆっくりと体を起こす。


「そうだね、君たちの子供を見るまでは死ねないよね。でも二人の子供だからな、すごく動くんだろうな。想像しただけで疲れちゃうよ」

「気の早い事言ってないで、あっち行ってろです!」


ピーリカは顔を赤くさせながら、出入り口を指さした。その時、ちょうど式場の者が出入口から顔を出した。


「マージジルマ様、お時間です。ご準備を」

「ちょうど良かった。テクマの事、連れてってくれ」


担がれて出ていくテクマを見届けて、マージジルマも部屋を出る。


「んじゃ、行ってくる」

「えぇ。すぐ追いかけてやるですから」


ピーリカは笑顔で見送る。彼がもう、自分を置いて行くとは思わない。



 

 

「遅いですよマージジルマ様、そもそもまだ結婚してなかった事自体遅かったんですから」 


式場に入る扉の前では、理不尽に怒っているウラナがマージジルマを待ち構えていた。ウラナは牧師の服を着ている。


「お前何で牧師の恰好してんだ? まさか牧師役やるとか言わないだろうな」

「やるに決まってるじゃないですか。ピーリカ嬢とマージジルマ様の幸せそうな顔が一番見えるのはどこだろうと考えた結果、ここでした。無理言って変わってもらったんです」

「本当に無理言ったんだろ、後で罰するからな」

「おめでたい席でそんな事言わないで下さい。さ、行きますよ。ついてきて下さい」


マージジルマは諦めて、ウラナの後に続いて式場の中へ入る。

めかし込んだ代表たちはもちろん、招待客が一斉に彼を見た。青いパーティードレスにエトワールとおそろいの花のブローチをつけたイザティは、もう感動して泣いている。

マージジルマは皆からの慣れない視線に、早くピーリカが入ってくる事を願った。



 その少し後。ピーリカは扉の前で待機していた父親の隣に、仕方なさそうに立った。

父親は扉に目を向けたまま、言った。


「おめでとうだし」

「貴様そんな事言えるんですか?! でも……ありがとですよ」

「……貴様とは何だし!」


相変わらず喧嘩はしているが、ようやく和らいだ二人の関係。扉が開き、父と娘はバージンロードを歩きだす。

二人の背後から、連続する銃声が響いた。


「リア充は死ねーーーーっ!」


ピーリカが振り返ると、武装した集団が銃を乱射している。


「危ないし!」

「パパ!」


娘をかばって、父親は右肩を撃たれた。ピーリカは急いで白の魔法を使い、父親の肩を治す。

その隙をついて、武装集団は式場の中へ侵入。

壁や天井に銃弾が当たって、シャンデリアが降ってくる。その真下にいたマージジルマを見て、ピーリカは目を見開いた。


「師匠っ!」

「ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」


数本の蔓がシャンデリアを掴んだ。魔法で防御したマハリクが、ため息を吐きながら席を立った。


「まったく……結婚式もまともに出来ないのかい」

「うるせぇババア、でも礼は言ってやる!」

「当たり前だよ。それより早く捕まえな!」


まだ鳴りやまない銃声。招待客はマハリクの魔法で守られながら、外へと避難する。ピーリカの父親も白の魔法のおかげで怪我はしていないが、念のため母親と妹に寄り添われて避難して行った。


「おいシャバ、ワイらも加勢するで!」

「当然。親友の晴れ舞台を汚すような奴を、許す訳にはいかないよな!」


他の代表たちは次々と罪人を捕まえていく。

ボロボロになった式場を見て、ピーリカはショックを受けた。


「な、何でこんな事に……!」


そんな中、式場へ一般市民の女が入ってきた。彼女は入口に一番近かったピーリカに、慌てた様子で伝えてきた。


「ピーリカ様ーっ、大変です! 牢に閉じ込めていた罪人たちが脱獄したらしいです! 外でも多くの罪人が暴れてて!」

「は!? 牢って、おかっぱ頭は何してるんですか!?」

「どうせ逃げられないだろと油断しまくって寝てたらしいです。罰として他の奴らが殴ってます!」

「あの愚か者! わたしも後で殴ります!」


女の言葉を聞いたマージジルマは、タキシードのジャケットを脱いでネクタイを緩めた。


「おかっぱの事は後で俺も殴る。今はとりあえず罪人の確保だ。行くぞピーリカ」

「待ってください、結婚式はどうなるんですか!?」

「中止に決まってるだろ。プラパみてーな王族だって、そう頻繁に来れる訳じゃあるまいしな。それより避難を優先させろ。怪我でもされたら一大事だ」

「そんな!」

「シャバとパンプルは、俺とピーリカと一緒に罪人確保。ババアとエトワール、イザティは警護しながら避難誘導。ウラナはピピルピと一緒に、確保した罪人大人しくさせとけ!」


マージジルマからの指令に、代表たちは返事をし。みな外へ出て行った。

招待客も式場の者も、主役であるはずのピーリカに背を向けて入口へと向かっている。


「……せっかくの結婚式が台無しですよ! こうなったら一人残らず捕まえて、ギタンギタンにしてやるです!」


ピーリカも怒りながら、早歩きで入口の方へ向かう。だがその途中、バージンロードの上で頭を掴まれて足を止める。

マージジルマは彼女の顔を覗き込むようにして、そっと顔を近づけた。

誰にも見られなかった誓いのキス。

すぐさま離れて、結婚式を終わらせた。


「ほら、行くぞ。やりすぎんなよ」


そう言ってマージジルマは走り出した。

ピーリカは口元を抑えて、数秒だけ幸せを噛みしめる。だがすぐに手を下ろし、師匠の背中を追いかけた。


「わたしに指図するとは、師匠のくせに生意気な!」


式場を飛び出した師弟は、罪人の背中を追う。

いつまでも、これからも。二人で暮らす国を守るために、彼らは呪いの魔法を発動させた。


「「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」」

ここまでお読みいただきありがとうございました!

\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ! これにて完結です!

最後まで続けられたのは、お読みいただいた皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

少しでも良いと思っていただけましたら、評価していただけますと嬉しいです。


また、こちら完結はしましたが、以前お読みいただいた方から「一人称で書き直せ」とアドバイスを受け、カクヨム様にて一人称バージョンの連載を始めました→  https://kakuyomu.jp/works/16818023212372554640


もしよろしければ、そちらもぜひよろしくお願いいたします!

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