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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~初恋師弟のハッピーエンド編~
248/251

師弟、プロポーズを

「だって、やっぱり止めたって。結婚止めるんじゃないんですか?」

「違う。最初は王子の事ぶん殴る気だった。それを止めただけだ」

「……なんて紛らわしい!」

「お前が勝手に暴走しただけだろうが。それに……仮に王子が連れてったとしても、奪い返しに行ってやるっての。俺だってもう、それくらいの覚悟は出来てんだよ。お前が本当に俺で良いってんなら……頼む、そばにいてくれ」


真っ赤にしてプロポーズの言葉を口にしたマージジルマに、ピーリカは思わず目を丸くして。


「……ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


周りの事など気にも留めていないのか、ピーリカは静かに呪いをかけた。

あちらこちらで「わぁー!?」と驚きの声が上がる。テクマの髪やラミパスの羽、シーララの着ていた白い服など。とにかく白かったものに、ピーリカが着ていたドレスの色が移動した。代わりにピーリカのドレスは脱色し、まるで真っ白なウエディングドレスのよう。

ピーリカも涙を流しながら、返事を口にした。


「当たり前です。わたしは師匠のお嫁さんになるんです。それ以外認めませんから!」


マージジルマは照れた顔をしながら、ピーリカを抱きしめた。

周囲にいた者たちは、静かに二人を見守っていた。二人がずっと、初恋に呪われていた事を知っていたからだ。

ミューゼとピピットだけが騒ぐ。


「ウラナ君が供給過多で倒れた!」

「おっ、お医者さーん!」


ピクルスはため息を吐いて、わざと水を差した。


「あぁヤダヤダ、振った男の前でイチャイチャしないでよね。ピーリカ、もし心変わりでもしたら、いつでも僕の所来ていいから」

「遊びに行ってやりはしますけど、嫁には行かないですからね。そもそもピクルス、女の子じゃないですか」

「バラさないでよ、面白くない」

 

周囲の者たちから「女の子!?」と驚きの声が上がる。だがマージジルマは、一切驚いた様子を見せない。


「やっぱりそうか」

「……気づいてたの?」

「お前、嘘ついてるだろ。俺そういうの見抜くの得意だから」

「あぁ、王子だって?」

「いや、お前胸で嘘ついてるじゃん」


指摘を受けたピクルスは、恥じらうように胸元を手で隠す。代わりにピーリカが「どこ見てやがるですか!」とマージジルマの頭を叩いていた。


「じゃあ僕帰るね」


恥ずかしさから逃げるように、ピクルスはピーリカ達に背を向けた。


「あ、ピクルスさん。ちょっと待ってください」


だが彼女の足を、ウラナが止めた。ピーリカはつい「ウラナ君復活早かったですね」なんて呟く。


「これプラパ王子やセリーナ様に届けてもらってもいいですか?」

「王族に届け物させるとか君も大概だよね。何これ」

「見ての通りです。こっちはピクルスさんの分」

「見て分からないから聞いてるのに。まぁ、僕の分って事はこっちは開けていいって事だよね」


ウラナが渡してきたのは、白い封筒だった。同じものを数枚受け取ったピクルスは、自分の分だけを開ける。


「この度、マージジルマ・ジドラとピーリカ・リララは結婚する事になりました。つきましては二人の結婚式に参加していただきたく……待って? これ招待状じゃない?」

「そうですよ?」

「いつ作ったの?」

「三日前ですが?」

「僕が勝つとか考えなかった訳?」

「なかったです」


ピーリカは魔法でウラナを拘束する。エトワールに木を生やさせ、そのまま彼を吊るした。

手を払うように叩いて、ピクルスに謝罪した。


「あの愚か者が悪かったですね。でもこんな招待状、無意味ですよ。だってわたしも師匠も、何も準備出来てま……ん? でもピクルスを招待してるって事は……ウラナ君、まさか勝手に準備進めてるとか言わないですよね?」


ピーリカは心配そうにウラナの顔を見た。吊るされたウラナは平然と答える。


「ご安心を。招待状はまだピクルスさんにしか渡してません。他にお呼びしたい方がいたらすぐ作るので、とりあえず招待客リストの確認をお願いします。式場押さえて一番人気のプラン選んでおきましたけど、変えたい所があればまだ変更可能です!」

「想像以上に勝手に決めてやがるです!」


流石のピピルピも黙っていられなくなったようで、ウラナの前に立ち。師匠らしく、彼を叱る。


「ダメでしょウラナ君。恋人たちは結婚の準備でより一層愛を深めるものなの! それを頼まれてもいないのに勝手にやったらダメ!」


ウラナといる時のピピルピはすごくマトモに見えると、周りにいた者たちは皆驚いていた。

ピピルピの事をよく知らないピクルスは、招待状に目を通す。


「式の日、一か月後になってるけど」

「本当はもう少し早くしてほしかったんですけど、式場の空きがなくて」


叱られている最中だというのにピクルスの疑問に答えたウラナ。ピピルピが頬を膨らませていても気にもしていない。

マージジルマはウラナを、まるで幼い頃のピーリカのようだと思った。勝手に動く所や聞き分けのなさが。今も少しそうかとも思っている。

そんな風に思われているとは思ってもいないピーリカは、結婚に少し照れながらウラナを怒る。


「一か月後は十分早いです! そりゃわたしだって早く結婚したいですけど、その、師匠は」

「僕はさっき聞いた! マージジルマ様もピーリカ嬢と結婚したいと!」

「それはへへへそうですけど」


ニヤニヤし始めたピーリカを押しのけて、マージジルマは真剣な顔つきでウラナに問う。


「進めちまったもんは仕方ねぇとして、いくらかかる予定だ?」

「大体700万くらいの予定です」


その金額に驚いた、ピーリカのニヤけが止まる。


「なっ!? そんなに高額じゃなくて良いです! それに、ケチな師匠が、そんなに出す訳ないでしょう! ねぇ師匠!」


マージジルマはため息を吐いて、ウラナの前に立つ。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


呪文を唱えたマージジルマの右手に現れた、分厚い札束。ウラナはそのまま、札束でビンタされた。


                  ***


 それから一か月後。式場の中庭で、ドレスアップしたミューゼとピピットはベンチに座って式の始まりを待っていた。


「つまりマージジルマ様がお金にケチだったのも、結婚式代貯めてたからってのもあったって事だよね。そう思うとカッコよくない?!」

「そう? 重くない?」

「そんな事ないよ。それにさそれにさ、キャンセルだって出来たはずなのに、そのまま式挙げるって事はさ、結婚はしたかったって事だよね! それ程お姉ちゃんを想ってたなんて素敵!やっぱり人間顔じゃないよねー」

「あっ、イケメン」

「えっ、どこ!?」


顔じゃないと言いながらイケメンに反応するミーハー娘に、ミューゼは呆れている。


「言い間違えた。ピクルス様」

「何でピクルス様とイケメン言い間違える訳? でも……綺麗ではあるよねぇ」


二人は少し離れた所にいるピクルスに目を向ける。ピクルスは女性らしい、薄い水色のドレスを着ていた。胸も隠さず、薄くはあるが化粧もしている。

彼女の後ろには護衛がついていたが、それでもピクルスをナンパするチャレンジャーもいた。


「元男だけど、それでもいい?」

「えっ」

「無理ならいいよ、それでもいいって人を探すから」


あはは、と笑って式場の中へ入っていったピクルス。その後ろ姿からは、傷つきながら作り上げられた、確かな強さが感じられた。

ミューゼはピクルスの後ろ姿を指さしながら、ピピットに問う。


「あのドレスもピピットのお父さんが作ったの?」

「残念ながら、あれはオーロラウェーブ製。パパはお姉ちゃんとマージジルマ様の分で精一杯だったっぽい」

「むしろよく作ったよ。一か月切ってたのに」

「娘の晴れ舞台のドレスを他の奴に作らせてたまるか、って。あの時お姉ちゃんが着てたドレスじゃ気に入らなかったみたい。シーララ兄ちゃん巻き込んで、布の色染めるのも全部やったって」

「あぁ、ピピットのお父さんが汚れたツナギ着てる時があるのはそういう」

「そ。あたしの時も大変な事になりそー」


そんな二人の前を、マハリクとエトワールが通り過ぎる。マハリクは紺色のワンピーススーツを、エトワールは淡い黄色のパーティードレスを着ていた。エトワールの胸元では花のブローチが光る。


「ちなみに、エトワール様のあれは?」

「あれはシーララ兄ちゃん頑張りましたぁ」

「ヒュー」

「と、思うじゃん? でもあの髪飾りはポップル兄ちゃんかららしいし、ブローチはリリカル兄ちゃんかららしいよ」

「ピピットよりエトワール様の方が大変なんじゃ? 典型的な溺愛ものヒロイン、憧れた時期もあったけど……あぁなるなら別にいいわぁ」

「そう? ちょっと羨ましいけどなー」


そんな二人に、ピピルピが近づいた。ピピルピはいつもの水着姿とは違い、ワインレッドのドレスに身を包んでいる。


「二人ともー、もうすぐ始まるから中入りなさぁい」

「「はーい」」


ピピルピに言われ、二人は式場の中へ入る。ピピットはこっそりと、ミューゼに言った。


「ミューゼ、こんな事言うの悪いかもだけど……ピピルピ先生、服着れるんだね?」


ミューゼは悩んだ。まだ子供であるピピットに『うちの師匠が脱がす事を前提に着てる。そう説得されてた。ママは新しい水着で来ようとしていた』と真実を伝えていいものか、なんて。


「まぁ、大人だからね」


ミューゼは言葉を濁して、式場の中へ入っていった。 

愛妻の日に投稿出来て良かったです

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