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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~初恋師弟のハッピーエンド編~
244/251

師匠、兄弟喧嘩に巻き込まれる

 マージジルマの目の前にいたのはピエロ家の三男、シーララ。黒のパンツに白のカットソーは、どちらもピーリカの父親が手掛けたブランド品。


「なんだ三男か……なんで三男?」

「分かってますよ。ウラナ様にピピルピ様、シャバ様ときて僕だもん。どうせ数合わせ、場違いなのは僕がいっちばん分かってますよ!」

「拗ねるなよ」

 

今にも泣きそうなシーララに、マージジルマは逆に倒しづらさを感じていた。

 

「言っておきますけど、僕は別に二人の結婚に反対してる訳じゃないんですよ。ただパメルクさんがマージジルマ様倒さないと仕事しないとか言うから」

「おぉ、良い案だな。働かせないで貧乏になりゃあ、認めざる得ないだろ」

「普通に迷惑! 今だって頻繁にピーリカ様の所に行って仕事遅れてるんだから。早く決着つけて仕事してほしいんですよ」

「そうか、お前本当にアイツに弟子入りしたのか」

「パメルクさん、言動はアレでも服作りの腕は確かなので。とは言っても、僕がマージジルマ様に勝てるとも思えないし。ちょっと叩かれるレベルでも降参するので、何か倒して下さいよ。なるべく痛くないやつ希望」

「何だよ、かかってこいよ」

「死ねって言うんですか!?」


流石のマージジルマも、無抵抗な一般人をボコボコにする気はなく。とりあえず片手を伸ばして、軽めの攻撃をすることにした。

 

「じゃあ、適当にお前が嫌がる呪いでもかけとくか。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


マージジルマが黒の呪文を唱えると、床上で魔法陣が光った。その中から、一人の少女が現れる。

シーララは驚いた表情で、彼女の名を口にする。


「え、エト!?」

「シーララお兄様? ここは……あら、マージジルマ様も」


状況を理解していないエトワールは、周囲を見渡している。彼女の存在はシーララにとって都合が悪いからか、呪いの魔法で呼び出されたのにも関わらずケガすることなく現れた。

マージジルマはエトワールを味方につけようと、ある質問をする。

  

「おいエトワール、俺とピーリカが結婚することに反対か?」

「マージジルマ様とピーリカさんがですか? 結婚は契約の一種です。お二人が結ぼうとしている契約を、第三者である私が反対する権利はありません」

「そんな硬い返答じゃなくていい。祝福してくれるかどうかだ」

「はぁ……ピーリカさんが喜んでいれば、それでよろしいのではないでしょうか」


同じ代表の弟子として、エトワールもピーリカの成長を見てきた。泣いている所も、笑っている所も。彼女もピーリカの幸せを願うくらいには、友達だと思っている。


「そうか。おい三男、妹がこう言ってるのに兄貴が認めないのはどうなんだよ」


マージジルマが目線をやったシーララの方に、エトワールも顔を向ける。

 

「シーララお兄様はお二人の契約に反対なのですか?」

「反対じゃないけど、仕事だから」 

「仕事……? シーララお兄様の仕事は、素敵なお洋服を作ることでしょう?」


エトワールは首を傾げて、シーララの手を握る。これは天然。意図せずとも、かわいいは作れる。

シーララはバッと、エトワールから手を離す。背中を向けて、何やらブツブツ呟き始めた。黄色い髪の間から見える耳は、赤くなっている。

この方が可愛い、こっちの服を着た方が可愛いと愛で続けた結果。出来上がったのは、ただ自分好みの女の子。


「エトは妹エトは妹エトは妹、よし!」

「何もよくないだろ」


そもそも血縁関係も何もない。


「妹に説得されたくらいじゃね。もう少し僕が嫌がる攻撃下さい。痛いのは無しで」

「しぶとい奴だな。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


マージジルマの魔法により、天井に光った魔法陣の中から若い男が降ってきた。着地に失敗し「ぁいた」と声を漏らしたのは。

髪をエメラルドカラーに染めた、シーララそっくりな男。彼はエトワールを見つけるなり、ふにゃっと口元を緩ませる。

 

「あれ、エトおるやん」

「リ……リリカル兄!?」


驚きの声を上げるシーララの前に現れたのは、一番上の兄リリカルだった。黄の代表パンプルの息子でありながら、兄弟の中で唯一魔法を好まない自由人。


「シーララとマージジルマ様もおるやん。何の集まり〜?」

「三男をシメる会」

「物騒な会にうちの妹巻き込まんといて下さい〜」


リリカルはマージジルマに文句を言いつつもエトワールの隣に立ち、ニコニコと微笑んでいる。


「エト久々やんなぁ。ご飯食べとる?」

「お久しぶりですリリカルお兄様。ご飯は一日三食いただいてますよ」

「まぁエトにはマハリクのばーちゃんがついとるからな、ご飯に関しては問題ないか」

「はい、お師匠様もしっかり三食召し上がっておりますよ」

「なら良かったわぁ」


そう言って、リリカルはエトワールの頭をなでなで。

シーララの心に、モヤっとした気持ちがかかった。

 

「リリカル兄! エトの頭撫でるのやめて!」

「なんやシーララ、仕方ないやっちゃなぁ」


そう言うとリリカルは、シーララの頭をなでなで。

明らかな子供扱いに、シーララは兄の手をぺしっと叩く。

 

「そういうのじゃないから!」

「なんやのカリカリして。おやつあげよか?」

「いらない!」


眉を八の字に曲げたリリカルは、エトワールにも心配の目を向ける。


「エトも、おやつは? おやつは食べとる? 心の栄養も取らなアカンよ?」

「糖分も程々に摂取しておりますよ。つい先ほどもポップルお兄様にも美味しいケーキ屋さんに連れて行っていただきました」


楽しそうに話すエトワールだが、聞いている兄弟からすると面白くないらしい。


「ポプ兄ってばまた抜け駆けして……!」

「せやなぁ。ズルいなぁ。エト、リリカルお兄様ともデートしたってぇ」

「リリカル兄!」


妹をめぐって騒ぐ兄弟。そんな彼らの前へ、また別の男が現れる。


「あぁ、おったおった。急に居なくなるから心配したわ」

「ポプ兄まで!」


二番目の兄、ポップルが窓から入り込んできた。

マージジルマは不思議そうな顔でポップルの顔を見る。


「お前の事は呼んでないんだが」

「あぁ、エトが召喚されるまで一緒にいたので。エト探したらここに来ただけですよ」

「ケーキ屋の話って本当についさっきの話だったのか」

「そうですよ。なんでエト召喚したのか分かんないですけど、人のデート邪魔しないで下さい」

「知るかよ」


マージジルマの前に、同じような顔が三人並ぶ。髪型に違いはあれど、体格もそこまで差はない兄弟。パンプルも痩せたらこうなるのかもしれないと思うと、マージジルマは少し笑いそうになった。


「ポップルばっかズルいて。ほらエト、リリカルお兄様とも美味しいもん食べに行こか」


リリカルはエトワールの手を握って、階段を降りようとしている。


「ちょっリリカル兄!」

「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


止めようとしたシーララの隣で、ポップルが黒の呪文を唱えた。

マージジルマがリリカルを召喚した時のように、天井からある人物が降ってくる。


「痛ぁっ! もう、何なんですかぁー……あっ! マージジルマさんがいる! 無理やり呼び出しましたね、酷いですー!」

「俺じゃねぇよ、アイツだアイツ」

「アイツって……あっ! ポップル君だ! というか三兄弟揃ってる! 久々じゃないですかー」


濡れ衣を着せられたマージジルマの前に座り込んでいたのは、ピエロ兄弟とは昔馴染みでもあるイザティだった。

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