師匠、先へ進む
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願い致します!
「やめたやめた、そこまでして結婚することねぇよ」
「「えっ」」
「そうだろ。別に一生会えない訳でもあるまい。ピーリカの事だ、会いたくなったら降りてくるだろ。アイツが大人しく待ってる訳ないからな。帰る」
マージジルマは彼らに背を向けた。予想外の答えにウラナもピピルピも焦りだす。
「ちょ、ちょっと、マージジルマ様?」
「それでピーちゃんがあの王子様と結婚したらどうするの? 無理に結婚しなくてもいいとは思うけど、他の人とするかもってなると話は違うわよ。だってそれはピーちゃんが一番望んでないもの」
「そうですよ、ピーリカ嬢にはマージジルマ様しかいないんです」
「ピーちゃんが聞いたら悲しむわ」
「もっと頑張って! もっと抗って!」
「「通って、どうぞ!」」
桃の師弟は二階への入口を指差す。自分達のせいで二人が別れるような展開は、想像しただけで恐ろしいらしい。桃の民族だからこそ耐えられない苦痛。皆に怒られようと知ったことか。
「そこまで言うなら」
マージジルマは先に進んだ。全て計画通りである。
二階に上がったマージジルマを待ち構えて居たのは、親友であるシャバだった。
一階と変わらない内装の部屋の中、二人は向かい合って立っていた。
シャバは黒いマスクの下で、口角を上げる。
「まぁ来るだろうとは思ってたさ。人を愛する桃の民族に、争いは似合わない」
「何でピーリカの父親側に協力してんだよ」
「分からないか? うちの弟子はピーリカの妹と仲が良い。しかも、二人は同じ学び舎ときた」
「親友より弟子を取りやがったな」
「違う。会うんだよ、授業参観で……」
「怒りづらいじゃねぇか」
シャバは両手を伸ばし、魔法を放つ構えを取った。
「さて、どうする?」
「意地でも通る。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」
「なら仕方ない。レレルロローラ・レ・ルリーラ」
無数のナイフが飛んだ。炎の壁にぶつかり、丸く変形し、床上に落ちる。
辺りを囲う、熱、熱、熱。
二人の魔法は激しくぶつかり合い、建物全体が揺れる。
窓からの訪問者が、ひょっこりと顔を出した。
「師匠ォ、やっぱ見学したーい!」
シャバの意識が己の弟子に意識が向いた。その隙をついて、マージジルマはシャバの右肩にかかとを振り落とす。
「グッ」と痛みを堪える声を漏らすもマージジルマは気にする事なくシャバの右頬を殴った。
グーパンチをお見舞いされ、シャバは後ろに倒れ込む。
ミューゼは慌ててシャバに近づき、ショートパンツのポケットから取り出したハンカチを彼の頬に当てた。
「もしかしなくてもあたしのせい? ごめんね?」
「いいよ、卑怯なマージジルマが一番悪い」
ゆっくりと上半身を起こすシャバ。その真後ろに、マージジルマは立った。
「卑怯で結構、立てよ」
「いいや、降参だ。これ以上やると仕事に支障が出るし。行っていいよ、元々適当に暴れたら降参する予定だったし」
「だと思った。悪いな、じゃあ行ってくる」
次の階へ向かうマージジルマの背中に、シャバはヒラヒラと手を振った。
「怪我は? 何ともないんですか?」
「この程度じゃれ合いだって。don't worry」
「なら良かった。次の階、あたしも行ったらダメかなぁ」
師匠が無事だと分かると、ミューゼは笑みを浮かべ。軽く己の欲望を口にした。
シャバは調子に乗る弟子を軽く小突いた。
「だーめ、下手に行ったら危ないから」
「でも次の階って……」
「……まぁ、オレほど危なくはないかもだけど。でも一番上にいるの王子様だし。今揉め事起こしてミューゼが代表になった時、因縁出来てたら嫌だろ?」
「それもそうか。仕方ない、大人しくしてまぁす」
人生二周目のミューゼは、どうすれば面倒な事になるかよく分かっていた。
シャバは天井を見上げ、マージジルマの後ろ姿を思い浮かべた。
「昔のマージジルマだったら、塔爆発させて終わらせてた。それが一段一段行こうとしてるって事は……認めさせようとしてるんだと思うよ。良かったじゃんピーリカ、ちゃんと愛されてるよ」
※※※
その頃、最上階にいるピーリカは今か今かと師匠の到着に待ちわびていた。
「そろそろ二階をクリアしますかね、あそこが師匠にとって一番攻撃しづらい所でしょうからね」
窓の縁に腰を下ろすピーリカの後ろで、ピクルスがムッとした顔になる。
「僕だって控えてるんだけど?」
「ピクルスの事は最悪ビンタで済ませると思います」
「……ピーリカはそんな男で本当にいいの?」
「そんな男じゃないですよ。師匠の優しさは並大抵じゃないんですよ、あぁ見えて」
「自分を犠牲にしてまで国を守ったのは立派だと思うし、ピーリカが好きになっても仕方ないとは思うけど」
「勘違いしてはなりません。わたしが師匠を好いたのは国を救う前から。師匠は、初めてわたしを信じてくれた人」
愛おしそうに話すピーリカを見て、ピクルスは既に負けを認める。
「分かったよ、彼がピーリカの隣に相応しい事は認める。でもそれは、あくまで今の話。この後僕に負けたら、相応しくないって思ってもいいよね」
「まぁ仕方ない。師匠がただダサい男であると認めてやりましょう」
「別にダサいとは思わないよ。ピーリカにここまで好かれてるんだから、それくらい良い所はあるんでしょ」
「分かってるじゃないですか。でもあげませんよ」
「いらないよ。でも……そうだな、もし僕が勝ったら、ピーリカ僕お願い聞いてよ」
にっこり笑ってねだるピクルスに、ピーリカは自信を持って答えた。
「いいでしょう、残念ながら師匠が勝つとは思いますけどね」
「ははっ、ムカつく」
ひとしきり笑った後、ピーリカは彼女に対して抱いていた疑問を口にする。
「ところで何故まだ男の姿なんです? ドレス着ないんですか?」
「着てみたいはあるけど……そんな急に女の子にはなれない。ピーリカの呪いで女の子になったって話は国民にも周りの国の人にも知れ渡ってるけど、だからって突然ドレス着て人前出たらヒソヒソ話されるのは目に見えてるでしょ。それはそれで嫌」
「そんな陰湿な者は殴ればいいんですよ」
「僕にはそんな事出来ない」
「お金さえ払えば師匠も殴ってくれると思いますよ」
ここでも師匠か、とピクルスはスネた表情を見せる。
「ま、ここまで来れれば考えようかな」
「来ますよ、師匠は強いので」
※※※
三階部分に到着したマージジルマを待ち構えていた男は、仁王立ちしていたものの。ガクガクと足を震わせていた。
「来ましたね、マージジルマ様」
「お前パンプルの所のっ……長男?」
「三男! いい加減覚えて!」




