師弟、報告する
最終章です。最後までよろしくお願いします!
赤、青、黄、桃、緑、白、そして黒の、七種の民族が暮らすカタブラ国。
その国の安全と平和を守るのは、それぞれの民族代表である七人の魔法使い。
<中略>
ピーリカとマージジルマは結婚する事になりました。
「「「「ちょっと待て」」」」
結婚の報告を受けたシャバ、イザティ、マハリク、パンプルは声を揃えて言った。
「何です下々。心配せずとも式の招待状ならくれてやるですよ」
マージジルマが帰って来てから初めて行う会議で、突然発表された結婚。
誰も祝福の声を上げない事に、ピーリカは不満を抱いていた。
こういう時一番に口を開くのは、大抵シャバの役目。
「違う、そうじゃない。いくら何でも話が急すぎてついて行けない!」
「全く、理解力のない奴らですね」
「オレらの理解力がないんじゃなくて、お前らの行動力があり過ぎるんだろ。いいか? これがマージジルマが帰って来て三年くらい経ってからの話だったら納得するんだよ。でもね? 今マージジルマが帰って来てまだ三日目なんだわ。いくら何でも早すぎるだろ」
「それは仕方ないでしょう。早くしないと師匠の気持ちが変わるかもしれないので」
ピーリカは思い出す。マージジルマが帰って来て、港までテクマを迎えに行った後からの出来事を。
***
テクマを迎えに行った帰り道。空飛ぶ絨毯の上に乗った三人は、ゆっくりと白の領土へ向かっている。
その道中、ピーリカはテクマに警告を入れた。
「良いですか真っ白白助。わたしと師匠はめでたくラブラブになったんです。今までみたいに師匠にベタベタと触れたら、わたしは許さないですからね」
「分かった分かった。僕も二人がくっ付いてくれたらそれ以上の幸せはないよ。君らの事は昔から見て来た訳だしね」
「真っ白白助……本音は?」
「養ってほしいって頼むのに一番手っ取り早い存在だからさ、くっついてくれたらとても居心地のいい場所が出来る。大丈夫、流石の僕でも新婚の所にお邪魔する気はないよ。君らの子供が大きくなるくらいまでは、いままで通りピーリカの家で、ピピット達に面倒見てもらうから」
「勝手に決めるなですよ、何で貴様を養ってやらなきゃならないんです? うちにも迷惑をかけるなです」
「じゃあ新婚の間に居座ってもいいの?」
「仕方ない、ピピットに面倒見させましょう。ただし、いつも通りラミパスちゃんとして生きるんですよ。まぁ、今すぐ新婚になるかとか、子供の話とかは師匠と相談しなきゃなので。もう少しピピットの元にいなさい。わたしと師匠の間に居座るなです」
新婚という言葉に照れているピーリカを見て、マージジルマは困った表情で質問する。
「ピーリカ……本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。何だかんだピピットはラミパスちゃんのお世話するの好きですし。パパとママも、まさか中身がグータラ病弱人間だとは思って無いので。ラミパスちゃんの状態でなら」
「違う、そっちじゃない」
「そっちじゃない? あぁ、国の事ですか? 問題ないです。わたしが天才なおかげで今日も平和ですよ」
「じゃなくて……お前の相手が俺で本当に大丈夫かって言ってるんだよ」
ピーリカとテクマは、一瞬だけ真顔になった。
だが彼の発言を飲み込めたピーリカは、すぐさま怒りの声を上げる。
「はぁあああああああああ!? あんな抱いておいて今更大丈夫かって何なんですか! 体目当てだとでも!?」
「ちげぇよ。テクマの前でそんな事言うなっての。でもほら、お前あれじゃん。ウラナとかいるじゃん」
「あの男はただの召使です!」
「あっちはそう思って無いかもしれないだろ」
マージジルマの態度を見て、テクマはポンと手を叩いた。
「そうか、分かった。マージジルマくん、幸せ慣れしてないんだ!」
テクマの言葉を聞いたピーリカは、思わず目を丸くさせる。
「幸せ慣れ!?」
「この子も不憫な人生だったからね。おまけに他人を不幸にする、呪いの魔法使いときた。時には相手を不幸にするために、自分が不幸になったりもしていた。そんな彼に、突然美しい娘が言い寄って来たんだ。不安になるに決まってるだろう?」
「た、確かに。師匠はバカですからね。わたしのような美しい娘には、もっと良い男が相応しいと思っても仕方ないです……しかし! 仮にそうだったとしても、わたしが選んだのは師匠です! いいでしょう。そのわたしを信じられないというのなら、信じるまで証明してやるですよ、今にみてろ!」
会えなかった時間が、彼女を強くした。
会えなかった時間が、彼女を素直にさせた。
会えなかった時間が、彼女を欲張りにさせた。
「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」
ピーリカが作った魔法陣から、もくもくと黒い煙が噴き出る。
中から現れた雷神は、マージジルマを見るなり笑みを浮かべた。いつもはいかつい雷神の顔立ちも、少し柔らかく見える。
『おぉ、マージジルマ。久しいな。という事は……なるほど、ようやく婚姻か』
「待て。何でそうなる」
『この娘はまだ白の魔法もまともに仕えないのに、マージジルマを助けるためにと我々との契約を結びにこちらの世界まで来たんだぞ。それほどに愛されているんだろう。それに、あんなに可憐だった娘を女王のように図々しくさせてしまったんだ。責任は取れ』
「いや、コイツ元々図々し……待て、ピーリカお前!」
ピーリカが雷神を呼んだ理由を理解したマージジルマは、ピーリカに顔を向ける。だがピーリカは気にせず、雷神に命令した。
「さぁ雷神、もっと詳しく説明してやれです。わたしが師匠を助けるために、どんな事をしたのかを!」
『うむ? まぁ良いだろう』
マージジルマは雷神から、ピーリカの話を聞かされた。
そう、ピーリカがマージジルマを助けるために他国との契約を結んだのは。
外堀を埋めるためでもあった。
ピーリカの話は白の領土に着いてからも続き。朝になるまで語られた。
***
翌日。寝不足のマージジルマは赤の領土にある学び舎に呼び出された。それを知ったピーリカも、マージジルマに引っ付いて学び舎にやって来た。
子供達の前に立ったピピルピの横に二人も立つ。
「皆ぁ、私の恋人のマー君よ。どんな人かは教科書に載ってるから知ってると思うけど、どんな体かは知らないと思うから。今ここで脱いでもらいましょう!」
「貴様の恋人でもないし、脱がせもしません!」
ピピルピは桃の魔法使い代表を引退した後、学び舎で子供達の面倒を見ている。恰好は相変わらず水着姿だが、誰も気にする者はいない。
「ははははは、すっごい、ウラナ君めちゃくちゃ絵ぇ上手ーっ!」
子供達の中で真っ先に口を開いたのは、戸籍上シャバの娘になっているミューゼだった。
マージジルマはミューゼに目を向けながら、ピーリカに確認を取った。
「ミューゼがいるって事は、シャバの奴本当に拾ったのか」
「はい。拾った時の黒マスクは、困ったような嬉しそうな顔をしてたです」
自分の名前を呼ばれたミューゼは、目尻の涙を指先で拭ってからマージジルマへ質問をする。
「マージジルマ様、あたしの事知ってるの?」
「知ってるも何も、お前俺の事短足って言ったろ」
「初対面で濡れ衣着せられたぁ!」
ピーリカによって過去へ行かされたミューゼだが、残念ながらその記憶は消されている。
「師匠、ミューゼの記憶なら消去済みです」
「なんだ、そうか」
目の前でミューゼは己の体のあちこちを確認した。
「何!? あたし何かされたの!?」
ミューゼのおかげで場の空気が緩んだ。
他の子供達も、それぞれの意見を口にし始めた。
「うーん、確かにウラナ様の方が格好いいー」
「髪ボサボサー」
「ださーい」
言われ放題なマージジルマだが、彼よりも先にピーリカの方が怒った。
「何てこと言うですか貴様ら! 確かに見た目はダサくて足も短い師匠ですが、中身はウラナ君なんて足元にも及ばないんですからね!」
「子供相手に喧嘩売るんじゃねぇよ。コイツらの言う通り、俺じゃお前に釣り合わんだろ」
「なんて事言うんですか!」
「言うに決まってるだろ、俺はお前のためを思ってだな」
「そんなの嬉しくねーですよ! 師匠が結婚しろです!」
言い争う二人を見て、子供達は納得していた。
「何だかんだ仲良さそうだよね」
「これじゃあウラナ様も敵わないね」
「うん。やっぱりあれだね」
「「「ピーリカ様の隣はマージジルマ様」」」
宗教めいた言葉を聞いたマージジルマは、ピピルピに目を向けた。
「ピピルピ! お前ガキに何教えてんだよ!」
「私じゃないわよぅ。そこに関してはウラナ君よぉ」
「あの野郎!」
その場にいなかったウラナに怒りを抱くマージジルマを見て、ピーリカも怒った。
「そんな奴らより、わたしを見ろですよ!」
***
またその次の日。マージジルマの家にやってきたピーリカとウラナは、リビングに突入するなり息を合わせた。
「いくですよウラナ君」
「分かってますともピーリカ嬢」
「ししょーっ! わたしとーっ」
「マージジルマ様ーっ! ピーリカ嬢とーっ」
「「結婚してーっ!!」」
ピーリカの頑張りに、ウラナも加勢した。
「ウラナは帰れーっ!」
マージジルマは二人が家に押しかけて来た事よりも、二人が揃って何かしてる事の方がモヤモヤしていた。
彼の気持ちを感じ取ったウラナは、目を輝かせてリビングの扉を開ける。
「僕はって事は、ピーリカ嬢は末永く一緒にいて良いって事ですね!? それなら喜んで帰りまーす!」
「うるせぇバカ!」
ウラナはスキップしながら帰って行く。
その場に残ったピーリカは、マージジルマの腕にギュッとしがみ付いた。
「師匠、結婚。しましょう、結婚。お返事は、はいかYESでお願いしますね」
初恋の呪い。愛の供給過多。愛される自信のなかったマージジルマも、とうとう折れた。
「あーもう、分かったよ、すりゃあいいんだろ、するよ、してやるよ、結婚!」
欲しかった言葉が聞けたピーリカは、大きく目を開いて。かと思えば、目尻に涙を溜めながら喜んだ。
「ふふっ、ふふふっ……はーっはっはっは! ようやく分かったですか、遅いんですよ! バーカバーカ!」
***
「ふふっ、ふふふ、ふへへへへっ」
思い出して笑い始めたピーリカを、代表達は少しだけ怖がった。だが二人がふざけている訳でもないと察したのか、すぐさま状況を受け入れた。
「まぁ、お前らがそれでいいなら」
「もうお互い大人ですしー、私達が口出す事じゃないですよねー」
「せやな。婚姻パーティーしよか」
「バカだね、普通に挙式でええじゃろ」
ようやく祝福の言葉をうけ、ピーリカもにんまりと微笑む。
「はい。わたしと師匠は、いつまでもずーっと、幸せに暮らしてやるですよー」
こうして、黒の師弟は皆に祝福されながら家族になるのでした。めでたしめでたし。
***
「んなもん許す訳ないしーっ!」
めでたしめでたし、とはいかず。二人の物語は、もうちょっとだけ続く。




