弟子、新しい魔法を使う
本編ではなく番外編である短編の方がネトコン一次通過しました! なんでや! でも嬉しい!
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「エトワール、この程度なら一人で出来るね?」
「はい、お任せ下さい。ルルルロレーラ・ラ・リルーラ」
師匠であるマハリクに促されて緑の呪文を唱えたのは、植物の魔法使いエトワール。
土を押し出して、芽が生える。芽はあっという間に木へと成長するが、その過程で機械人間達はバキバキと音を立てながら木の肉に飲み込まれた。
「よくやったよ」
「ありがとうございます……あらお兄様方、どうされました?」
エトワールの前に立っていたのは、複雑な表情をみせたパンプルの息子達だ。彼らはエトワールのピンチに駆けつけようと、父親を見捨ててやって来た。だがいざ来てみれば、妹は一人で敵を倒し終えた所。
彼らには妹を褒め称えたい気持ちと、自分達の手で助けたかった気持ちが入り混じっている。
兄弟の思惑を理解したマハリクは、嫌味のように深いため息を吐いた。
***
倒されていく機械人間達を前に、ピピルピは頬を膨らませていた。
「ズルいわズルいわ、私も皆みたいにカッコよく魅せたい!」
彼女が使える操り魔法は、対生物にしか通用しない。機械相手には相性が悪すぎる。
不貞腐れる師を、弟子であるウラナが慰めた。
「諦めましょうお師匠様。さ、ここにいる敵は、もうあのエレメントって人だけみたいですし。僕等は捕らえたバルス公国の方々の元へ戻りましょう。これから忙しくなりますよ、彼らに人のものを欲しがらないよう教育を施さないとですから。そのためにはお師匠様の力が必要なんです。それとも、先生とお呼びした方が?」
「……そうね。私先生だし、ママだもの。子供達が待ってる!」
「その行きです。皆でハッピーエンドを目指しましょう!」
***
多くの機械人間を放てば、こちらを攻撃してくる者もいなくなるだろうというエレメントの考えとは裏腹に。
マージジルマはただただエレメントの乗る機械人間の首を狙った。むしろもう首しか狙っていない。機械人間の右肩にまたがり、斧でひたすら切り込みを入れている。ガンガンと一定のリズム音が鳴り響いた。
「マージジルマ、まだ手こずっているのか」
「クソジジイ」
機械人間の左肩の上に乗った、マージジルマの師匠であるファイアボルト。
「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」
ファイアボルトが黒の呪文を唱えると、その手にはマージジルマの持つものより一回り大きな斧が現れた。
「もっと筋肉を動かせ! このようにだ!」
ファイアボルトも斧を振り、機械人間の首を狙った。ガンっ、ガンっ、と音が響く。実に嫌な師弟だ。
エレメントは機械人間を操縦し、その体を大きく揺らす。振り落とされたマージジルマとファイアボルトは、地面の上に叩きつけられそうになる。二人は落ちる直前で、再び呪文を唱える。
「「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」」
彼らの下に現れたのは、小さな機械人間の残骸の山。それらがクッションとなり、痛みは感じたが大きな怪我はしなかった。
残骸の上で仰向けに寝転ぶマージジルマの顔を、ピーリカが覗き込む。彼女の周りにも、黒焦げになった機械人間が倒れ込んでいた。
「まったく、師匠は本当にダメですね」
「うっせ」
ピーリカは前を向き、巨大な機械人間に目を向けながらマージジルマに言った。
「師匠、師匠がいない間、とっても暇だったんです。なので天才のわたしは、暇つぶしに新しい魔法を作りました」
「新しい……?」
「命あるものは守り、それ以外を破壊する。モノクロの魔法です」
ピーリカは目を閉じて、両手を前に出した。エレメントは機械人間を操縦し、ピーリカに向けて腕を振りかざす。
「ラリルレリーラ・ラ・ロ・リリーラ」
宙で横並びに浮かび上がった二つの魔法陣が、一つに重なった。
魔法陣が光った時、機械人間は音もたてずに。
ただ、粉砕された。
機械の中にいたエレメントは足場を失い、落下する。
「きゃあああああああ!?」
エレメントの体は、ふわり、と優しく地に落ちた。まるで彼女の体が、柔らかな羽になったかのように。とはいえ落ちるとは思っても居なかったエレメントは、激しい心音を響かせている。
そんな彼女の前に立ったのは、小さな機械人間達を全て倒し終えたシャバとイザティだ。元外交担当であり、マージジルマが封印された理由の根源ともいえるエレメントをカタブラ国へ招き入れてしまった二人である。
「あの時から、ずっと後悔してた」
「私もシャバさんも、もう外交担当じゃあないですけどー、国を守る代表である事は変わってませんのでー」
エレメントの周りには、もう自分を守る機械もバルス公国の者達もいない。エレメントは歯を食いしばった。悔しくはあるが、負けを認めざるを得なかったせいだ。
抵抗しないエレメントが、シャバとイザティの手で連れて行かれる。その姿を見届けたピーリカは、師匠に向けてピースサインを見せつけた。
「どうですか師匠、天才のわたしが世界を平和にしましたよ!」
「あぁ……そうだな」
多くの人々を巻き込んだ二国の争いだが、死人は一人も出ていない。バルス公国との戦いは、無事幕を下ろした。
***
バルス公国の領土内にいた魔法使い達は、皆カタブラ国へ戻って来た。ほとんどのバルス公国の民は、黒の領土にある罪人を閉じ込めておく檻へ入れられた。
ピーリカは罪人達を指さし、マージジルマに説明する。
「ここだけじゃ狭いですからね。あの雷神が住んでる世界の、一部の土地を借りてあります。そこに半分くらい罪人を移動させましょう」
「罪人達がそう大人しく行くか?」
「そこは桃の民族に任せましょう」
ピーリカは横目でピピルピを見た。ピピルピの目の前にいるのは、シャバとイザティによって連れてこられたエレメントだった。既にピピルピの魔法で操られているエレメントは、大人しく雷神について行こうとする。ピピルピは「お別れね、さよなら!」なんて言いながらエレメントを抱きしめていた。
「こら痴女! 罪人を甘やかすなです!」
自分勝手な行動をするピピルピをピーリカが叱っている間に、ウラナはマージジルマの横へスススっと近寄る。
「後は僕等でどうにかします。今日はゆっくりして下さい」
「気にすんな。今まで散々ゆっくりしてた訳だし、やるっての」
「貴方がゆっくりしないとピーリカ嬢がゆっくりしないんです」
ウラナに説得されたマージジルマは、妙に悔しそうな顔をしながらも。ピピルピに怒るピーリカへ声をかけた。
「おらピーリカ、後は下々の仕事だ。帰るぞ」
「それもそうですね。では下々、ごきげんよう」
下々と呼ばれた魔法使い達だが、今は反論する事なく師弟の後ろ姿を見送った。今まで頑張って来たピーリカへの、ご褒美のつもりだった。
親友の背中が小さくなったところで、シャバはピーリカに一番振り回されていたであろうウラナの事も労う。
「ウラナも私欲のためとはいえ、よくピーリカと一緒に頑張った……あっ、大丈夫そうだ」
ウラナは久々に並んだ師弟の後ろ姿に興奮し、魔法を暴走させ薄い本を大量生産していた。
***
家に向かうべく山道を登る師弟。大人でも歩けばそこそこな距離だが、二人とも飛んで早く帰ろうとは言わなかった。横に並んで歩いた程度じゃどうにもならない、長年の空白を取り戻そうとしている。
「そういやテクマとラミパスは?」
「共にオーロラウェーブ王国に避難してます。白助はくねくねしながら『僕病人だからぁ、きっと足手まといになっちゃうからぁ、マージジルマくんの事はピーリカに託すねぇ』って」
「アイツらしいな」
「戦いを終えたら一報入れる事になってますから。すぐに帰ってきますよ」
そんな話をしている間に、家の前までたどり着いた。マージジルマは玄関の扉を開けながら、ある事を思い出す。
「そういや当たり前すぎて一緒に帰って来たけど、お前今実家で暮らしてるんだよな?」
「そうですよ。でも誰も居ないんじゃ師匠の家が腐ると思って、師匠の家を仕事部屋にしてました」
「人んちを勝手に使うなと言いたい所だが、まぁピーリカだしな。知らない奴よりはいいか」
「そうでしょう。一応わたしとて気は使えますからね、掃除もしておいてやりましたよ。特に師匠の部屋は念入りに片付けてやったですよ」
ピーリカはそう言いながら、勝手にマージジルマの部屋へ向かう。ピーリカが勝手に部屋に入る事などいつもの事なので、マージジルマも気にせず彼女の後を追った。
「ほんとだ、片付いてら」
「勝手に捨てたら怒られるかと思って、ゴミらしきものも袋に詰めて取っておいてあります。後で見極めて捨てろです」
「気が利くじゃねぇか」
「天才ですからね。それより師匠、ここに座りなさい」
「何だよ」
「いいから」
ピーリカはマージジルマのベッドの淵に座り、その隣をポンポンと叩く。マージジルマは仕方なくそこに座った。
当たり前過ぎる事ではあるが。
部屋の中には、二人きりだった。
「わたしは天才なので無事師匠を助け出し、バルス公国を倒す事が出来ました」
「おぉ……ありがとな」
「何てことないです。天才なので。それより、その……師匠に言いたかった事があると言いましょうか」
「……何だよ」
黙ってしまったピーリカは、何かを言いたそうに少し俯いている。
マージジルマは察していた。告白されるんじゃないか、と。
ピーリカはもう子供ではない、年齢の差も気にならない程に成長した。世間的な目も、もう大丈夫だろう。
長年思い続けてくれていたのであれば、それはそれで嬉しい。なんて。
マージジルマも覚悟を決めた。もし彼女が本当に告白をしてきたのなら。
まぁ付き合ってみてもいっかな、と。
「……師匠っ!」
「……何だっての」
冷静に返事をしてみせたが、マージジルマの心拍数は上がっていた。彼女の赤い顔を見て、釣られて顔を赤くする。
静かな部屋の中、勇気を出した彼女はゆっくりと口を開いた。
「奥トントンしてくださいっ」
マージジルマは思った。その告白はねぇだろ、と。




