表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/251

弟子、ドレスを縫う

「その位は認めてやってもいいぞ。目の保養になるからな。ちゃんとした身なりであれば、パーティーの参加くらいは認めてやるさ。ドレスを貸す事も契約の発表もしないがな」

「父上! お言葉ですが、そう彼女を簡単に信用しない方が」


予想外の提案をしてきた王に、プラパは批判の声を上げた。


「お前は本当に心配性だな。大丈夫だ。カタブラ国は魔法こそあるが、金も力もそこまで持っている訳ではない」


だが王はピーリカ達を見下している。ピーリカの嫌いな「どうせ出来ないだろう」を遠まわしに伝えて来た。

ピーリカは得意げになって、王の提案を受け入れる。


「契約の発表をしないという事は、決断はしてくれる可能性があるという事ですね。出来ないと思われるのも癪です。いいでしょう、どうにかしてパーティーに出てやるですよ」


胸を張ったピーリカは、長い髪とワンピースの裾を翻して部屋を出た。

部屋の前で待機していたウラナが、ため息を吐いた。部屋の中での会話が聞こえていたようだ。


「あんな事言っちゃって。知りませんよ」


ピーリカは胸を張ったままだ。昔から自信家ではあるが、今ではちゃんと考えた上で自信を持っているらしい。


「失礼な、何とかしますよ」


そんな二人の元へ、出会った時と同じ格好のピクルスがやって来た。顔を隠してもいないピクルスは、小ばかにした様子でピーリカ達を笑っている。


「あはは、ダメって言われたの? まぁ当然だよね」

「おやピクルス、戻って来たですね。随分早いじゃないですか、魔法でも使ったんですか?」

「魔法なんて使えないし。っていうか、どこにも行ってないけど?」

「そうでしたか、会ってないのでどこかに行ったんだと思ってたですよ」


話を合わせてやるピーリカだが、きっと馬車でも利用したのだろうと考えていた。


「まぁ大丈夫ですよ、策はあります」


ピーリカの答えに一瞬驚いた顔をしたピクルスだが、すぐに人を小ばかにしている顔に戻る。


「ドレスなんて簡単に用意出来るくらい、ピーリカってばお金持ち?」

「お金は極力結婚資金に充てたいので、そこまでお金持ちじゃあないですね。でもわたし、ドレスならセリーナからもらったものがあるので」


セリーナの名を聞いたピクルスは、眉間にシワを寄せた。


「なんだ、結局ピーリカも人を利用してるんだ」

「利用とは失礼ですね。ただお下がりをもらっただけだと言うのに」

「お下がり……ふーん、あの人も物あげたりするんだ」

「セリーナは気前の良い奴ですからね。さてウラナ君、何でも良いから本を出せです」


ピーリカの命令に、ウラナは嫌そうな顔をする。


「何ですか突然。そんな風に言われて出す程、僕の作る本は安くないんです。最近では高値で買ってくれる人もいます。そう簡単に出すと思わないでいただきたい」

「この間エトワールが三男の作った服を着て嬉しそうに歩いてました」

「あの服に無頓着なエトワールさんが嬉しそうにぃ!? シーララお兄様が自分の為に作ってくれた服がそんなに嬉しかったんですかね、いや待て、それをリリカルお兄様とポップルお兄様が黙って見過ごす訳がない。いやぁ楽しくなってまいりましたねリリルレローラ・リ・ルルーラ!」


ウラナは簡単に薄い本を作り上げ、地面に落とした。

逆ハーレム本を拾い上げたピーリカは、ウラナに奪われる前に黒の呪文を口にする。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


ウラナが魔法で出した本は消え、ピーリカの手の中には別の、黒い背表紙の本が現れる。

逆ハーレム本が消えた事に、ウラナはものすごい剣幕で怒りだした。


「ちょっと! 僕もまだ読んでないものを生贄にしないで下さい!」

「貴様を不幸にしなきゃ、こっちの本が取れなかったんだから仕方ないじゃないですか。さっきの本はわたしの家にありますから、後で引き取りに来ればいいだけでしょう」

「それはそうかもしれませんが、何ですその本は」

「ドレスですよ。師匠の呪いがかけられた、ね」


ピーリカは黒い本を自分の顔の横で持って、ニッと笑った。


「リルレロリーラ・ロ・リリーラ!」


次にピーリカが唱えたのは、白の呪文。重なっていた本のページ一枚一枚に魔法陣が浮かび上がる。本を紡いでいた紐が解け、本はA4サイズの長方形の紙になる。

ふわり。ピーリカの手から離れた本は、宙に浮いた。

パタパタパタと音を立てながら整列した紙は、それぞれが姿をドレスに変えていった。魔法陣はスッと消え、ドレスが地面に落ちて行く。

大きなリボンがついている、ふわっとしたピンク色のドレス。

胸元に赤い宝石が散りばめられた、紫色のドレス。

黒い花の刺繍がついた白地のドレス。

その他にも青色や黄緑色など、愛らしい大量のドレスが降り注いだ。

ピーリカは両手を天井に向けて、高らかに笑う。子供の頃と変わらない、自身に満ち溢れた笑顔で。


「あーっはっはっはっは! 師匠の魔法も大した事ねぇですね!」


ピクルスは落ちてくるドレス達を、キラキラした目で見つめていた。ピンク色のドレスが目の前に落ちて来て、ピクルスは思わずキャッチする。そのドレスの触り心地の良さに、思わず口角を上げていた。

ピクルスの隣で、ウラナは満足気に頷いていた。本を消された事に関しては、ひとまず許したらしい。


「今の出来事は全て日記に書き留めておきます。マージジルマ様に褒めてもらいましょう」

「褒められる程の事じゃないです。師匠ならわたしが大した事ねぇって言った時点で殴ってますよ」

「流石ピーリカ嬢、マージジルマ様の事を一番に分かっている!」


今の発言も日記に書く事をウラナは決めた。

ピーリカはその場に落ちているドレスを拾い上げ、両手いっぱいに抱える。


「さて、このドレスは子供用ですからね。急いでリメイクするですよ。ウラナ君、針と糸を調達なさい」

「パメルクさんやシーララさん召喚した方が早くないですか?」

「師匠のためのお仕事をするのに、パパの力を借りるなんて嫌です。三男も服関連になるとパパの味方をするので嫌ですよ」

「そんな事ないですよ。パメルクさんの場合は奥様を、シーララさんの場合はエトワールさんを人質にすればやってくれますって。むしろそうしましょう。愛が深まると思います」

「貴様恋愛絡むとわたしや師匠以上に悪い事考えつきますね。確かに貴様の考えの方が簡単かもしれませんが、わたしの力でどうにか出来る事はわたしがやりたいのです」

「愛故ですね、かしこまりました。すぐに買ってきます」


しばらくドレスを見つめていたピクルスだがハッとした様子で顔を上げ、ウラナを引き留める。


「ま、待って。針と糸くらいなら城の誰かしら持ってると思うし、貸せるはず。でも、何でそこまでしてパーティーに出たいの? だって契約とは関係のない事なんでしょ?」


困惑しているピクルスに、ピーリカが答えた。


「そりゃそうですよ。でも貴様が言ったんじゃないですか、媚を売れと。パーティーで美しいわたしの姿を見せつける事は、媚を売るのと同じ意味ですからね」

「意味わかんない……」

「分からないなら分からないで結構です。わたしはわたしの仕事をするだけ……おいそこの使用人! 針と糸を貸しなさい!」


通りすがりの使用人を見つけたピーリカは、すぐさま恐喝した。

針と糸を用意させ、部屋も用意させ。ピーリカは柔らかなソファに座り縫物を始める。

彼女の隣に座るウラナは足を組んで、愛おしそうにピーリカの縫物を見守っていた。特別彼女に惚れているから愛おしそうに見つめているのではなく、恋する乙女の前にした時はいつでもこの顔なのである。手伝わないのはマージジルマのための仕事を自分が奪ってはいけないと思っているだけ。だが大人しくしている時の彼は元の顔が良いせいもあって、ただ乙女に惚れているようにしか見えない。その顔が恋する乙女の相手の男に、なんかモヤっとさせる事をウラナは理解していなかった。

針の先がピーリカの指に刺さった。ウラナは心配なんてしない。


「痛い! くそぅ、師匠め!」


師匠が封印なんぞされなければこんな針仕事しなくて済んだのに、という完全な八つ当たり。だが手を止める事はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ