表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/251

弟子、嘘に気づく

「いいね、そういうの。さっきはあぁ言ったけど、僕ら王族だから。大抵決められた人としか恋愛できないし。結婚なんて到底無理。僕もきっとピーリカとは結婚出来ないから、安心して」

「何故? 王族だからこそバンバン権利使って結婚出来るじゃないですか」

「そんな訳無いじゃん。そんなおとぎ話みたいな都合の良い話なんてない。大抵おじい様や父上の言いなりだよ。プラパおじ様だってそう。決められた人と結婚したんだ」

「それは違います。この王子はちゃんとセリーナを好いています。そりゃセリーナにも過去に惚れた男はいましたが、今ではちゃんとあの王子を好いて」

「やだやだ、身内のそういう話聞きたくない。それよりピーリカの国の事聞かせてよ。遠くから来たんでしょ?」

「普通に魔法の使える国ってだけですよ」

「何それ、楽しそうじゃん。もっと色々教えてよ」


ピクルスは楽しそうに微笑んで、ピーリカの話を聞き出そうとする。

そんなピクルスの様子に、プラパは一瞬驚いた表情を見せた。が、すぐに王子らしい凛々しい顔立ちになりピーリカに警告を入れる。


「ピクルスと友好的になるのは構わないが、だからと言って協力できるかどうかは別の話だと肝に銘じておいてくれ」

「分かってますよ」


ピクルスに連れられて、ピーリカは部屋を出て行く。

プラパはピーリカがいなくなっただけで、広い部屋がより広くなったように感じた。自分の家であるはずなのに、既にピーリカに支配されているような気もする。そんな不快な気を紛らわせるついでに、プラパは部屋に残っていたウラナにも警告を入れた。


「君は国民に余計な事を言わないでくれるかな」

「僕ピーリカ嬢とマージジルマ様がいかにお似合いかの話しかしてませんけど、それは余計な事になるのでしょうか?」

「……まぁ、同情でそちら側の味方をされるのは好ましくないね」

「分かりました。ですがピーリカ嬢は契約を結ぶまでこの国に留まるらしいです。ガーディアンである僕も留まる事になるでしょう。僕が言っても彼女はいう事を聞かないので、帰国まで僕も暇なんです」

「君も大変だな」


プラパはウラナに同情して、ほろりと涙を流す。

だがウラナは嬉しそうな顔をして。


「なので……プラパ様とセリーナ様が普段どんな感じにイチャついてるのか、お話していただけませんか!」

「ちょっと待ってくれないか!?」

「暇なので待ちたくないんですよ。そうだ、お話いただけないなら城の方々に聞いて回りますね!」

「待って!?」


ウラナは恋愛話を聞けるのであれば、ピーリカ以外の者の話でも構わないのである。ある意味ピーリカより厄介な男だ。

目を輝かせて部屋を出て行ったウラナを、プラパは慌てて追いかけた。




 ピクルスに連れられて城の長い通路を歩いていたピーリカは、反対方向を指さした。セリーナの部屋がある方角だ。ピーリカは少し頬の熱を冷ますつもりでセリーナの部屋を出てきた事を思い出したのである。


「そういやセリーナ置いて来ちゃいました。せっかくなので三人でお話ししましょう」


ピクルスとの出会いにより頬の熱は冷めたが、このまま帰らずにいるとセリーナに勘違いされ兼ねない。

しかしピクルスは眉間にシワを寄せて、腕を組んで立ち止まる。


「やだ。僕、あの人嫌いなんだよね」

「セリーナですか? 何故?」

「何でも良いでしょ。嫌いなものは嫌いなの」

「何で嘘ついてるんですか?」

「嘘なんてついてないよ」

「わたしはセリーナと友達なんです。友達を悪く言われるのは大変不服」

「ちょっと!」


ピーリカが人の言う事を簡単に聞く訳がないのである。彼女はピクルスを引きずるようにセリーナの部屋の前へ連れて行き、扉を叩く。


「あらピーリカ、もう良いの……って、ピクルス?」


部屋の扉を開けたセリーナを見て、ピクルスは咄嗟に俯いた。

ピーリカは素晴らしい提案をしたなと、満足気な顔でピクルスをセリーナの前に立たせる。


「皆でお話しするですよ」

「まぁ、いいわね。私ピクルスとずっとお話してみたかったの!」


セリーナは本当に嬉しそうな顔で、ピクルスの両手をギュッと握った。


「っ!」

 

だがピクルスはセリーナの手を振り払うと、足早に去って行った。

 

「ピクルス!?」


追いかけようとしたピーリカだが、去った理由も分からず追いかけても意味が無いと判断し。まずはその場に止まり、セリーナに顔を向ける。


「何ですセリーナ、ピクルスにも意地悪したんですか」

「今までの事なら謝るから、人聞き悪い事言わないで頂戴。ピクルスとは会話した事ないのよ」

「このデカい城で一緒に住んでるんじゃないんですか?」

「そうよ。でもお嫁に来てからずっとあぁなの。話しかけてもすぐ逃げちゃって、向こうからも近づいてこないの。プラパは万年反抗期なだけだから気にしなくて良いって言ってるんだけど」


セリーナは寂しそうな顔をして、少しだけ俯いた。

ピクルスの気持ちは分からないピーリカだが、一つ、分かっている事があった。


「あの子、嘘ついてる気がします」

「嘘って、何を?」

「確実とは言えないのでまだ言えません。でも絶対嘘ついてます。それでもセリーナはピクルスと仲良くしたいのでしょう?」

「えぇ。親戚として、仲良くしたいのだけれど」

「じゃあプラパの方の王子に聞いた方が良さそうですね。あの子の事を理由に、この国を脅迫出来るかもしれません」

「脅迫はしないで欲しいわ」

「仲良くなるためなので我慢して下さい」


ピーリカはあくどい笑みを浮かべる。セリーナはピーリカのその目に見覚えがあって、微笑みながら懐かしんだ。


「ピーリカ、師匠さんと同じ目をするようになったわね」


別に誉め言葉ではないのだが、ピーリカはとても嬉しそうに笑った。


「そうですか、師匠と一緒ですか。それは、ふへへ、んん、ま、まぁ悪い気はしませんね。ではプラパの所へ行きます」

「あんまりイジメないであげてね」

「イジメた事などないです。わたしは心優しいレディなのですから」


ピーリカは自信満々にそう告げると、セリーナに背中を向ける。小さな頃より、ずっと大きな背中をセリーナは優しく見送った。




 ピーリカは使用人に命令し、プラパの元へ案内させる。プラパがいる部屋の前に到着すると

「ご苦労」と偉そうに使用人を追い返した。

ピーリカはノックもせずに部屋の扉を開ける。部屋の中では高級そうな机の上で、書き物をしているプラパの姿があった。

同じように机の上で仕事をしていたマージジルマの姿を思い出し、ピーリカの胸が締め付けられる。


「ピーリカ?」


彼女の視線に気づいたプラパが顔を上げた。胸の苦しみを忘れようとして、部屋の中を見渡す。師匠の汚い部屋とは違い、綺麗に片付けられてる。そもそも部屋の構造からして違う。

ダメだ、つい師匠の事を考えてしまう。ピーリカはつい、ため息を吐いた。

その師匠を助けるためとはいえ、今は思い出に浸っている場合ではない。ピーリカは仕方なく別の男の事を考える。


「ウラナ君は?」

「たまたま通りかかった使用人夫婦を追いかけて行ったよ」

「分かりました。放っておきましょう。それより、ピクルスはどうしてセリーナを嫌っているのですか?」

「唐突に何を言い出すんだ。知らないよ。僕も嫌われている側だからね」

「何故?」

「分からないけど、あの子は誰にでもあぁなんだ。むしろピーリカと親し気に話していた事に驚いたくらいだよ」

「わたしは美しく親しみやすい者ですからね」


プラパは疑問を抱いた。何故こんなにも自信満々なのだろう、と。

残念ながらプラパがピーリカの事を理解出来る日は来ない。


「では直接本人に聞いておいてやります。その間に、貴様はわたしのために良い答えを出す準備をしておくんですよ」

「そんな短時間じゃ無理だよ」


ピーリカはプラパの苦い表情を見る事なく、ピクルスを探しに部屋を出た。




 その後ピーリカは城の者達を脅迫し、ピクルスの居場所を探した。部屋の一つ一つに目を通し、庭では葉の裏まで確認する。

そして城の一階にある大きな広間の窓の下でようやく、カーテンに包まっているピクルスを見つけた。ピーリカは膨らんだカーテンに近づいて、しゃがみ込んでいるピクルスに話しかけた。


「ピクルス」

「……怒りに来たの? 謝らないから」

「別に怒りなどしませんよ。ただ……恋バナをしましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ