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弟子、お姫様と再会を果たす

勘違いをした門番達は、ひとまず姫君と思われし女に無礼のないよう、腰を低くさせて対応する。


「し、失礼ながら、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「貴様に名乗る時間なんてないです」

「で、ではどのようなご用件で?」

「貴様に話すまでもありません。今すぐその門を開けて、上の者と話をさせなさい」

「どなたかとお約束されていたりは」

「してませんよ」

「それではお通しする訳には……どう見ても違うとは思いますが、お名前もお教えいただけないのであれば不審者として扱わざるを得ません」


ため息を吐いた姫君……もといピーリカは、右手を伸ばし掌を広げた。


「ならこっちも攻撃的に行きますよ。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ」


彼女が呪文を唱えたと同時に、三日月模様と線と線で描かれている魔法陣が現れた。

ボンっ! 魔法陣から起きた小さな爆発により、地面が焦げる。

門番達は身構えた。姫君はこんな事しない、とようやく警戒心を思い出したようだ。手に持っていた槍の先をピーリカに向ける。


「もしや姫君に偽装した魔女か!?」

「偽装とは失礼な。姫君のように愛らしい魔法使いです」


ピーリカはいつも通り、自信満々に言った。

二人いる門番の片割れが、相方に警告を入れる。


「気をつけろ。自分で自分を愛らしいと言うなんて、どう考えても普通じゃない!」

「普通じゃない程の愛らしさなんだから仕方ないじゃないですか」


ピーリカは手の甲で、肩にかかった髪の毛をかき上げる。彼女の少し後ろに立つウラナは、ただ何をする訳でもなく彼女の背中を見つめていた。

門番にとっては攻撃してくるピーリカと同じ位、何もしてこないウラナの存在も怪しく思えた。

だがまずは目の前の敵から。門番達がピーリカに向かって槍を振りかざそうとした、その時だ。


「待ちなさい、その方はわたくしの友人です」


門の奥から一人の女性が現れた。クリーム色のドレスを着た、編み込まれた茶色い髪の女性。

ピーリカはパッと顔を明るくさせ、彼女の名前を呼んだ。


「セリーナ!」

「お久しぶりね、ピーリカ」


彼女の名はセリーナ・N・オーロラウェーブ。ムーンメイク王国からこのオーロラウェーブ王国へ嫁いだお姫様であり、ピーリカの元契約者でもある友人だ。

門番達はセリーナの顔を見ると「これは失礼致しました!」と慌てて頭を下げる。セリーナではなくピーリカが「うむ」と答えた。

門が開けられると、ピーリカとセリーナは両手で握手を交わす。セリーナは嬉しそうに、でも眉を八の字に曲げて言った。


「連絡してくれれば迎えに行ったのに」

「しましたよ。そしたら貴様の旦那に、今はセリーナの体調も万全じゃないからまた今度にしてくれって言われたんです」

「……じゃあ何故ここにいるの?」

「今度になるまで居座れば、早く話を聞いて追い出そうと考えるでしょう?」

「……そうかしらね。ところで、そちらの方は」


ピーリカの身勝手とも言える考えから話を逸らしたかったセリーナは、ウラナに目を向けた。


「わたしのガーディアンのウラナ君です」


ピーリカは何も考えずに事実を述べた。

セリーナにピーリカとの恋仲を勘違いされては困ると判断したウラナは、跪いて自己紹介をする。


「初めましてセリーナ様。ピーリカ嬢にとってガーディアンであり、ただの友人のウラナ・リンパライです」

「ご友人なの?」

「はい、一生ご友人です。将来の夢はピーリカ嬢とマージジルマ様の家の壁になる事です」

「そ、そう」


念押しと欲望を口にするウラナの圧に、セリーナは納得せざるを得なかった。

ピーリカは目線を下に下げる。


「しかしセリーナ……変わりましたね」


セリーナのお腹は優しい丸みを帯びて、かなり大きくなっていた。セリーナは嬉しそうに微笑むと、自身の腹を撫でた。


「ふふ、そうでしょ」

「体調が悪いというのは?」

「大丈夫、もう安定したわ。ピーリカは綺麗になったわね」

「そうでしょう、そうでしょう。今のわたしはかわいい上に美しいのです」


セリーナは態度のデカいピーリカを見て、中身は全然変わってないなと懐かしむ。だがすぐに悲しそうな顔をして、ピーリカを宥めるように言った。


「母国からも聞いたわ。カタブラ国と、バルス公国の事。だからピーリカが何をしに来たのかも分かってるつもり。ただ私に会いに来てくれた訳じゃないんでしょう?」

「はい、残念ながら。今日来たのはお仕事の話です。この国の偉い人と取り次いでもらえますか?」

「取次はしてあげるけど、話すかどうかは分からないわよ。それでも良いなら入って」

「話すまで居座りますから大丈夫ですよ」


ピーリカの発言を冗談だと思ったのは二人の門番だけ。セリーナとウラナは本気なんだろうなと思いながら、城の門をくぐった。



 黄蘗色の壁に深紅色の絨毯。天井の上ではシャンデリアが光り、大きな窓の外には手入れの行き届いた花園が広がっている。

城の一室に通されたピーリカとウラナは、こげ茶色の長机の前に立った。その机も普段はお目にかかれなさそうな高級さが、表面のツヤと角の丸み具合からにじみ出ている。


「待ってて。今呼んでくるわ。お仕事の話をするなら、私は自室に居させてもらうわね。ピーリカ、もししばらく滞在するなら私ともお話しましょう。勿論、仕事の話は一切ないお茶会よ」

「良いでしょう、回答次第で予定は変わるかもしれませんけどね。約束ですよ」


ピーリカは右手の小指を伸ばし、約束のポーズを取った。セリーナは小さく笑って、部屋を出て行く。

しばらくして入れ替わるように、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

入って来たのは銀色の長い髪を一つに束ね後ろに垂らした男。かつては幼さ残る顔立ちだったが、時の流れによって少し大人びた顔立ちになった。

プラパ・オーロラウェーブ。かつてマージジルマに仕事を依頼した男だ。彼の後ろには護衛の兵達が立っている。


「久しぶりだね。元気そうで何よりだ」

「貴様より偉い人と話したいんですけど」


ピーリカは早速プラパに悪態をつく。周りにいた兵達は一斉にピーリカへ警戒心を向けた。


「プラパ王子になんて無礼を!」

「いいんだ、彼女はこういう子なんだ。むしろ、この後もっと無礼な事を言い出すと思う」


兵達がざわつく。プラパが「ちなみにこの子、姫君でも王女でもない一般市民だからね」と言うと更にざわついた。

モブのざわつきなど気にしないピーリカは、プラパの顔だけを見つめている。


「無礼な事なんて言いませんよ。今日はお仕事の話をしに来たんですから」

「そうか。残念ながら、国王も兄上達も多忙でね。一応僕にも、その話を聞く権利はあると思うが?」


プラパは第二王子だ。この国での王位継承順位は低くとも、王族である事に代わりはない。

ピーリカは仕方なさそうに頷いた。


「じゃあ貴様で良いですけど、どうせ最終的には国王に聞いてもらう事になると思います」

「相変わらずだが、本当に失礼な子だな。良いだろう、内容次第では国王にかけ合うよう約束する。だが国王にかけ合わせるまでもないと判断した場合は、僕が結論を出す。それから、傍聴人としてうちの大臣たちにも同席してもらう。多少口を挟まれる事もあるかもしれないが、それは君も同じだろう?」


プラパはちらりとウラナに目を向ける。ウラナは黙ったまま一礼した。

ピーリカは頷いて、いつも通り偉そうな態度で答えた。


「いいでしょう、許可してやります。飲み物はミルクティーでお願いしますね」


飲み物まで指定したピーリカは、王族相手に話し合いの場を設けさせる。

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