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\ 自称 / 世界で一番愛らしい弟子っ!  作者: 二木弓いうる
~あの子が残した唯一の希望編~
206/251

弟子、伏線を回収する

 具合の悪いピーリカだが、自分以上にぐったりしているラミパスを心配そうに抱える。そんなピーリカを隠すように、背後から黒い影が伸びた。

 

「師匠、ラミパスちゃんが……師匠っ!?」


振り向いたピーリカは、苦しそうに呼吸するマージジルマを目にする。立っているのも辛いのか、マージジルマはすぐさまソファに腰を掛けた。虚ろな目をピーリカに向けて、青紫色になった唇で言った。


「悪いピーリカ……読み間違えた……!」

「なんだか分かりませんけど、師匠も役立ちそうにないです。待ってろ下さい、今医者を呼んでやるですよ……!」


ピーリカは気合でいつも通りの態度を見せる。具合の悪い師匠に心配させてはいけないと、自分の具合の悪さも隠した。

医者を呼ぶべく外へ飛び出したピーリカは、緑の魔法のかかった花を使って山の下にいる医者を呼ぼうとした。しかし。


「花が萎れてる!」


花だけではない。師匠の大事な畑に実る野菜も周辺の木々も萎れ、元気がなかった。

これでは遠くに居る者との会話なんて出来ない。空を飛んでもいいが、急がないと師匠もラミパスも大変な事になってしまうかもしれない。

ピーリカは歯を食いしばって、両手を前に伸ばす。


「ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」


ピーリカの足元に魔法陣が光り、彼女はスッと姿を消した。


「痛っ!」

「ピーリカ嬢!?」


ピーリカがやって来たのは医者がいる建物の中。目の前にはベッドに眠る人々と、彼らを見る医者の姿があった。

大きく尻もちをついたが、無事移動する事が出来たようだ。尻の痛みだけでなく、ひどい疲労感を感じていたピーリカだが今はそれどころではない。倦怠感もあったが、強気で乗り切る。


「……おい医者っ! 師匠が大変なんです、来い!」

「マージジルマ様も……無理だよ。今、街の方でも具合悪い人が多くて。私も朝から体が重いんだ。とてもじゃないけど、マージジルマ様が住んでる山の上までなんて行けないよ。朝から水も火も出ないし、他の代表様もやられてるっぽいね」

「他の代表も!? だから花も萎れてやがったですか……」

「あぁ、電気もつかないし。このだるさじゃ桃の方もきっと」

「そんな。何で皆して」

「呪いとは違うよね? マージジルマ様何か言って無かった?」

「読み間違えたとは言ってましたけど、まさか師匠が呪文を読み間違えたか何かしたんでしょうか」

「今更マージジルマ様が何か読んで魔法使う事ないでしょ。あと読むって言ったら……人の心とか、考え?」


その時、窓の外から銃声音が聞こえた。


「な、何ですか!?」


ピーリカは窓の向こうに目を向けた。

人の形をした機械が、頭の上についたプロペラを回して軽やかに空を飛んでいる。手には銃を持ち、カタブラ国の建物を次々と撃っている。

そのロボットの形に、ピーリカは見覚えがあった。


「あれは確かバルス公国の……まさか真っ白白助も倒れてるんでしょうか」


国にかけられているはずの防御魔法。それが効果を発揮していないという事は、白の魔法使い代表の具合がよくないという事だ。


「ピーリカ嬢、外は危なそうだ。もっとこっちに」


医者がピーリカを部屋の奥へ連れて行こうとしたその時だ。

ロボットは突然、銃を降ろす。


『カタブラ国の皆様、ごきげんよう。とっても苦しそうですね。我々バルス公国では最先端の医療機器を所持しております。もしカタブラ国の皆様が今後、友好的にしていだけると言うのなら、その医療を提供して差し上げましょう。お返事は明日の朝までに下さいな。大量の兵と共にお待ちしております』


ロボットから聞こえて来た高音の女の言葉に、ピーリカは苛立ちを感じた。


「あんな銃ぶっ放しておいて友達になれとか図々しいですねアイツら! しかも人の具合が悪い時に!」

「違うよピーリカ嬢、あれはもはや奴隷になれって言ってるようなもんだろ。兵と待ってるって事は、断ってもどっちにしろ攻めてくるって事じゃないのか」

「なっ、なんて卑怯な!」

「代表達の具合が悪い時に来るなんてタイミングが良すぎる。むしろバルス公国がウイルスか何かまき散らしたんじゃないのか」


ピーリカは前日の事を思い出す。バルス公国からやって来たエレメントは、キラキラ輝く粉をまき散らしていた。 


「もしかして、あの厚化粧女……えぇい。とりあえずわたしは奴隷になんてなりませんよ。医者、なんとかして病気を治す事は出来ませんか!?」

「原因が分からない事には何ともなぁ。転魔病の重症症状とよく似ているけど、大人も具合悪くなってる所を見ると別物のはずだし」

「せめて薬くらいは」

「原因がまだ分からないから、下手に薬も使えなくて。一応熱さましの薬はあったんだけど、人数が人数だからね。全て使い切ってしまったんだ。それも効き目が薄くて困っているくらいだった。あとは、もしこれが呪いなんだとしたら……これが」


医者は棚の中から草の束を取り出した。それは呪いを軽くする薬草、ニャンニャンジャラシ―だった。

ピーリカは一度、その草で師匠を助けた事がある。その薬草にどれだけの効果があるかは知っていた。


「でもこれ、すごくジャンプしないとなんじゃなかったでしたっけ」

「そう。それじゃ時間がかかって仕方ないし、この人数分ジャンプしてなんてこっちの体力的にも無理だから。そもそも呪いなのかも分からないから、まだ試してなかったんだけど」

「それでもどうにかしなきゃです。師匠もラミパスちゃんも、あんなに苦しそうにしてたんですから!」

「あとは白の魔法でなら何とかなるかもしれないけど、テクマ様がこの調子じゃ他の白の民族なんてとても期待は出来ないね……」


仮にテクマを回復させても、あの虚弱体質だ。国中の者達を直す力があるのかどうか。

ピーリカは医者の持つニャンニャンジャラシーの束から二本だけ抜き取った。


「仕方ない。ここはこの草に期待するしかありません。頑張ってニャンニャンジャラシーに力を込めて、師匠を助けましょう。師匠が元気になれば、とりあえずバルス公国の奴は追っ払ってくれるでしょうからね。後払いです、少し貰って行くですね」

「ま、待ってピーリカ嬢! もしかしてだけど君も具合悪いんじゃ!」

「そんな訳ないでしょう!」

「具合が悪いのに動き回ったら悪化するだけだから、我慢しないで大人しくしてないと」

「大丈夫ですってば。ラリルレリーラ・ラ・ロリーラ!」


ピーリカは再び尻もちをついて、家の前まで戻ってきた。ひどい疲労感がピーリカを襲う。

やはり医者の言う通り、悪化しちゃうんだろうか。そう思ったピーリカだが、首を左右に振って。

拾った木の棒で地面に円を描いたピーリカは、ニャンニャンジャラシーを持った両手を大きく上へ向けて。円に沿って、ぴょんぴょんぴょん。大きく、口を開いて「にゃー!」と鳴く。

あの頃より大きく成長したピーリカ。いつもなら他の人に見られたら死ぬほど恥ずかしいと思っただろうが、今はそんな事言っていられない。師匠のためを思い、延々と舞った。



 ニャンニャンジャラシーが光った頃には、空はすっかり茜色。前回以上に時間がかかってしまった。

ピーリカは急いで家の中に入り、ソファから一歩も動いて無さそうなマージジルマの耳に突っ込む。

だがあの時のように、師匠は起きない。


「まだジャンプが足りないのでしょうか。でも光ってるですし……それともやっぱり、呪いじゃない病気には効かないんでしょうか」


ピーリカは前回ニャンニャンジャラシーを使った時の事を思い出す。

師匠に呪いの入ったチョコレートを食わし、バルス公国のシャマクと戦った時の事を。この薬草が今使えないのは何故なのか。

思い出しているうちに、ふと、ピーリカはあるものの存在を思い出した。

ピーリカは僅かな望みにかけて、まだ光っているニャンニャンジャラシーを持ち地下室へと向かった。


 電気も火もつかない今、ピーリカはニャンニャンジャラシーの灯りだけで地下室を下りて行く。日の光が一切入らない地下室は、暗闇に覆われていた。散らかった足元に気をつけながら進み、師匠の机の中を漁る。


「やっぱり、ありました……」


一冊の白いノートを持って、急いで師匠の元へ戻る。灯りが消える前に戻らないと、そう思って螺旋階段を上るピーリカだが何故か体が重く感じてうまく先に進まない。降りてくる時はまだ楽だったが、上へ行くのはとても苦しくて。


「真っ白白助は役立ちそうにないですからね、ここは天才のわたしがどうにかしなければ」


なんとかリビングへ戻ったピーリカは、白の魔法参考書と書かれたノートを広げる。

視界が歪み、文字が読めない。かわいい顔を叩いて、気力を保った。

ノートに目を近づけると、なんとか読む事が出来た。一文字一文字、間違いのないよう暗記して。

本を床上に置いたピーリカは、両腕を前に伸ばした。手のひらを広げ、師匠とラミパスを助けたいという強い気持ちを込めて。


「リルレロリーラ・ロ・リリーラーっ!」


白の呪文を唱えた。

三日月模様に円と線を羅列させた形の魔法陣が光り輝く。成功を確信し、ピーリカは喜んだ。


「やった、これで――」


だが熱のある中動き回ったピーリカの体は、とっくに限界を迎えていた。白の魔法を使った事で、残り僅かだった力も底をつき。

ピーリカは自分の体が前に倒れていくのが分かった。倒れた痛みと床の冷たさを感じたが、起き上がる元気もない。

そんなピーリカの体を、誰かが抱きしめてきた。よく知る匂いに包まれて、妙に安心したピーリカは。

師匠、と心の中で彼を呼んだ。そして微笑みながら、ゆっくりと目を閉じた。

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